第3話

 えーと、なんと申せばいいのでしょうか?

 あ、いえ何を言われたかは理解しています。 

 いますが......女神様が私に何を求めていたのかがサッパリわかりません。


 『潰せよ』と言うのは言葉が悪いでしょうが――懲らしめろという事でしょうか? ふむ、「ウムウム」と頷いていますね。あっている様です。

 しかし...


「何故でしょうか?」


 いえ、本当に分からないのですよ。


「なんでですか! 三倍ですよ! 三倍!! 理不尽でしょっ!? 女子供を連れていかれるのですよ!?」

「そうですが......確かにそこだけを聞けばそうでしょうが......収穫が増えれば治める税も増えるわけでして、領主としては当然の処置かと思うのですが? 寧ろそれまで収穫量を誤魔化していた罰則としては、甘い処置かと..?」


 先程、申したように私が頂いたスキル『万物創造』のおかげで私の住んでいた村は毎年豊作でした。私にとっては幸いな事に、村は国の外れの山奥にあり人の出入りは数ヶ月に一度、商人が来るくらいで役人も税収の回収に年に一度、二人来るだけの小さな村でした。


 残念な事に、田舎を嫌った息子と娘が「こんな田舎は嫌だ」と、飛び出していくような、そんな辺鄙な村でしたので監察官等が村に来ることもなく、村長が袖の下を役人の方にお渡ししていたらしく随分と税収を誤魔化していたらしいのです。


「そんな訳で、皆には充分な蓄えがありましたし――」

「真面目!! 真面目すぎるわ! いえ、真面目だから選んだのだけど.....ーーあーもう!! あーもう!! あーもう!!」

 

 どうやら私の答えはおきにめさなかったようで......興奮したのか、髪の毛を掻きむしりながら地団駄を踏む女神様。

 不敬でしょうが正直......見苦しいです。


「うるさいわね!!」


 怒鳴られてしまいました......さすがに理不尽では?

 ふうふうふう......と肩で息をする女神様ですが、正直に申してヒステリックになった女性に、どう対応すればよいのか分からないので、黙って様子様を伺うしか私には出来ません。

 ええ、本当にどう対応すればよかったのでしょうね......。

 

 一度だけ妻がそうなった事があったんですよ......私......浮気なんてした事は一度も無かったのですが......まったく信じて貰えず、いくら説明しても無駄だったんですよね......。


「うるさい!! アンタの夫婦話なんてどうでもいいのよ!!」


 .......そう、こんな感じでした。何を言っても怒るのです。 


「ふぅ~、まあいいわ、領主の件はそれで良いしましょう。でもあの件はどういう事なのかしら?」

「あの件とわ?」

「あれよ、貴方が城下町に訪れた時のことよ」


 問われ考えてみます。

 私が城下町に訪れた回数は数える程です。少年の頃に一度、妻とのハネムーンで一度、息子の結婚式で一度、初孫が産まれた時に一度、でしたかね?

 さて何かありましたでしょうか?

 うーん、と唸りながら考えてみました......


「孫が可愛かったです」


 やはりこれでしょうね。

 いやぁー本当に孫というのは可愛いですね。勿論、息子と娘も可愛かったのですが孫はまたそれとは違うんですよね。どう違うか説明すると――


「心底どうでもいいわよっ! そうじゃないでしょっ!! あったでしょっ!! 初めて訪れた時の事よ、目の前で女の子が攫われてたでしょっ!!」


 むう......ヒステリックに孫の事をどうでもいいと言われると、さすがの私でも若干イラつきますが、まあ確かに孫自慢は他人からすれば......程々にすべきでしょう。気を取り直して思い出してみましょう。

 と言ってみても初めての時と言うと私が十四、五歳の頃ですし六十年も前の事です......思い出せませんね。

 これと印象に残る事はなかったとしか言えませんね。


「何で忘れてるの!? 誘拐事件よ! 誘拐事件なのよ!」


 いや、そう言われましても......昔はもっとインパクトのある事件がありすぎて......思わず思い出しそうになりましたが......思い出したくもない事ばかりなので思考を放棄します。


「アレですよ、アレ。見るかに貴族のお嬢様が馬車に連れ込まれそうになっていたアレですよ」


 ああ、思い出しました。ありましたね、そんな事。

 ちょっと正確には覚えていませんが......初めての城下町で浮かれて探索していた時に、そんな事がありましたね。

 私がそう言うと女神様は「そう、それよ!」と嬉しそうに声を弾ませましたが、すぐに声を落として――


「それで、アナタその時どうしました?」


 と、言うかドスの効いた声で尋ねられたので、かなりうろ覚えですが答えます。


「......確か、通報したかと?」

「合ってますわよっ!! てか、アナタが助けなさいよっ!!」

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