天才勇者は留年候補⁉
銀髪ウルフ
プロローグ
*
「はぁ、はぁ。っつ!くそ、これで終わりだぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
大地は削れ、木々は焼け倒れ、いたるところから黒煙と真っ赤な炎が上がっている。
そしてとどめとばかりに響く爆音。
周囲に人影はない。
死体であれば吐いて捨てるほどあるのだが生きているであろう人影はそれこそ皆無だ。
そしてそんな死体たちもよく見れば胸に国の文様を刻んだ兵士であったり服装からしておそらくは奴隷であろう獣人たち。
ただの住人である親子に町娘。
耳がとがっていて浅黒い肌をしているのでおそらくは魔族であろう青年。
様々な種族、性別。
色んなものがごっちゃ混ぜになった死体が累々。
地獄絵図と呼ぶにはこれ以上ないどの光景が広がっていた。
これらは全て勇者対大魔王の戦争が引き起こした惨事だ。
大魔王と呼ばれる存在は全てを破壊して回った。
人間、獣人、魔族、亜人など関係なく、命あるものを平等に蹂躙していったのだった。
そこで立ち上がったのは当然と言えば当然なのだが勇者と呼ばれる少年だった。
そしてこの地獄絵図のような場所はそんな勇者と大魔王の最終決戦の地である。
今も巨大な力を持った二人がぶつかり合っている。
「お願いします、どうか、どうか彼を死なせないで。彼を、いえ、命あるものたちの希望を殺さないでください。」
遥か遠くから響く地鳴りを感じながら少女は外を見る。
少女が見る方向は勇者が魔王と戦っているであろう方角だ。
そこだけは爆炎の影響か空が明るい。
時々天高くまで伸びる火柱が見える。
そして少女は改めて祈るのであった。
勇者の無事を。
そして我々の勝利を、未来を。
一心不乱に祈った。
*
少女が一心不乱に祈りをささげてから数刻、ついに決着がついた。
火柱が上がらなくなり、地鳴りも止んだ。
今まで聞こえていた爆音も聞こえない。
あたりが静寂というものを一斉に思い出したかのごとくあたりは静まり返っていた。
誰しもが事の顛末を知りたいと願った。
しかし長い沈黙。
誰しもが勇者の敗北を、目下に迫った死を嫌でも考えてしまう。
人々が絶望に飲み込まれう下を見ようとしたとき遥か遠くから、それでいて世界中に届くような声が聞こえた。
「聞け、この世界で生きる者達よ!大魔王は打ち取った!我々の勝ちだ!」
その声は世界に蔓延した絶望、不安、恐怖。
そういった負の感情を消し去るには十分すぎるほどの光となり世界を駆け抜けた。
世界に未来という希望が産み落とされた瞬間だった。
世界は、一人の勇者によって救われた。
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