楽園オアシス、血まみれゲヘナ
寅田大愛
第1話
序章
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あの、焦げ、るほど、燃え、る赤い、血色い空、のなか、に、禍々しき巨(おお)きな太陽が沈んでいく。血しぶきを放つように輝きながら、太陽はすり減って、削れて、崩れて、壊れて、粉々になって。ぼろぼろと、こぼれながら、ばらばらになって消えてしまうだろう。融(と)けるように。食われるように。なにに? 空? ―――あの空に? あたしも?
あたしはだれもいない屋上のコンクリートの上で立ちつくして、死んでいく夕陽を見ていた。空は見渡す限り、あたしの大好きな真っ赤な血の色をしている。鼻先をくすぐる風には、腐りかけた死者の血の匂いがしていた。
あぁ。空に食われる前に、自分の足のあるあたしは、逃げなければならない。地の果てまで行っても、だれにもわからないように隠れても、逃げきれないかもしれない。ずたぼろになって抗(あらが)って、這いつくばってしがみついて、嫌だと言ってもがいても、あたしの両足をつかむ手(だれのだ? だれかの、だ)を振りきることができなくて、いつかはきっと、どこかで捕まって、あの赤い空に還(かえ)ることになるのだろう。それはそれで、あたしは構わない。空はあたしを拒むだろうか、《おまえは汚くて醜く惨めな人間だからいらない》と言って? ちっぽけな獣であるあたしは、焼き殺されて跡形さえなくなっても、あたしの心臓は、きっと、この空の赤さを覚えているだろう。それだけは、わかっている。
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