司書さん。話があります
京介
第1話
ここは、私立明星大学附属高校。そこでの昼食の時間のことである。
ある生徒が図書室へ入ってくる。ここの図書室は日本でもトップクラスの本の貯蔵量を誇る。そのため入学したての生徒は皆口を開け驚くことも多い。
その生徒は通いなれているのかスタスタとある女性の元へ向かい隣に立った。2人は向かいあわず本棚の方を向いている。
「司書さん。話があります。」
「なんですか。」
司書はそういうと手に持っていた本をパタンと閉じた。
「なぜ、この世からいじめは無くならないのですか」
「それは難しい質問ですね。ちなみに何かあったのですか?」
生徒は話し辛そうに口を開く。
「今日、クラスメイトがトイレでいじめられているところを見てしまったんです。僕はその光景を見て驚きました。」
「止めようとはしなかったのですね。」
「いえ、声はかけたのですが、これは遊びだからの一点張りで。」
「そうですか。では仕方ありませんね。」
「え⁉︎本当に言ってます?」
「私が本当にそういうと思いますか?」
司書は頬を膨らませながら生徒の方を睨む。
「い、いえ。思っていないからこそ驚いたというか。」
「私が言ったのはあなたの性格のことですよ。」
「俺の性格ですか……」
生徒は自分の性格を冷静に見返す。
「あなたが優しいことは私が知っています。だからこそあなたは助けることが出来なかったのではないでしょうか。」
「でもそれなら、止めることができたのでは?」
「そうですね。でもあなたは優しすぎるのですよ。だからあなたはいじめられている子ではなく、いじめて言い訳を放つ子にも同情してしまったのです。」
生徒は唖然としていて次の言葉を話そうとしない。
「では、はじめの質問に答えましょう。なぜいじめはなくならないのかですよね?」
司書は一呼吸おいて話し始める。
「それは、その考え方が原因です。」
「それはどういうことですか?」
「あなたの考え方が間違いであると言っているわけではありません。ただ、その考え方は物事が無くならないことを前提としているのでは?」
「じゃあ、どうすればいいのですか?」
「なぜいじめが無くならないのかではなく『どうすればいじめをなくすことができるのか』と考えるとどうですか?そうすればあなたのその優しさもより生かすことができると思いますよ。」
「どうすれば……。わかりました!ありがとうございます!」
「では、いってらっしゃい。」
こうして2人の昼休みは終える。
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