(未完)ブルース&ブルース ~優雅なスローライフを望む支援魔術師と歴史に名を残したい勇者~
お前、平田だろう!
第1話 詫びはないのか?
「ルーズ。君にはパーティを抜けてもらいたい」
「……何だよ、藪から棒に」
赤みを帯びた照明。壁からテーブルから椅子に至るまで、暖かみを帯びた木で作られたもので統一された大きな部屋。周りには酒精を帯びた粗野な連中が、大きな声でバカ騒ぎしている場所。
いわゆる酒場というものである。ただし、客層が少々特殊であった。
何かから身を守るための防具をつけていたり、何と戦うんだというような、大小様々な武器を傍らに置いているのだ。
彼等の職業は『冒険者』。誰かしらの願いを金銭と引き換えに叶える……と言えば聞こえは良いが、その日暮らしの荒くれ者というのが正しい評価かもしれない。
何せここがダメなら、後は犯罪者しかない、それくらいギリギリの連中だと世間には思われている。
実際はそんなことはないのだが、そういう連中の割合が高いのも事実であるため、実態を知らない人たちからは、そういう不名誉な立場を得てしまっている。
そんな連中がたむろする、ギルド据え付けの酒場で飲み食いしていた、追放を突きつけられたこの青年も、身分としては冒険者となっている。
名を『ブルース』といい、役割は『支援魔術師』。仲間の力を引き上げたり、相手の力を落としたりして、勝率を引き上げるというものだ。
ケガをせずに健全に次の日を迎えるために、いた方がいい人材であることは間違いない。
ただし、絶対ではないというところが、今現在の状況を生み出しているのは間違いない。
それだけが理由ではないのだが……
「藪から棒じゃない。ずっと前からダフネと決めていたことだ」
「あぁ?」
話を聞きながら、チビチビと口をつけていたエールをテーブルにコトリと置く。コップが乱雑に扱われていないところから、怒ってはいないのかと思いきや、ルーズと呼ばれた青年の顔からは表情が消えている。
目の動きだけでダフネと呼ばれた女に視線を送ると、来たときから組んでいた腕を絡めたまま、追放を告げた金髪の青年の後ろへ隠れる。
説明を求めようとしたが、それを拒絶していることは明白である。
周りには追放者が探してきた他のメンバーもいる。ただ一人だけ見覚えがない者がいるが、ルーズは一目だけ見て興味無さそうに追放者に視線を戻す。
鼻をひとつならすと、ルーズは追放者に向かって質問をする。
「……一応、僕とダフネが作ったパーティなんだけど。ブルー、お前、頭は大丈夫か」
人差し指で頭をトントンするルーズ。
ちなみにこの追放者である青年も『ブルース』といい、こちらは『ブルー』と呼ばれている。
呼び名が気に入っているのか、上から下まで青い金属鎧を纏っている。なかなか様になっているのは、ルーズも認めざるを得なかった。
ブルーの返事を待たずに、ルーズは言葉を重ねていく。
「自分が作ったパーティを出ていけ? バカも休み休み言え」
「俺だけじゃないんだ。ダフネも同意している。知らないのはお前だけだ」
「……」
無言でダフネを見るルーズ。今度こそ、黙ったままでいられないと観念したのか、隠れたまま、目を合わせないまま、ダフネは口を開いた。
「……ごめんなさい。貴方と将来を約束したけれど、今ではブルーの方がいいと、本気で思っているわ」
意思を示すように、ダフネはルーズを見つめる。その心を覗くように、ルーズはダフネの目を見つめ返すが、今初めて暴露したことに後ろめたいところがあるのか、ダフネはまたもルーズからの視線を合わせることを拒絶した。
(まぁ、知ってたんだけど)
宿の部屋の扉を開けっぱなしにしたまま、ヤることヤってりゃ、誰でも感づくというものである。
今更なことを、ようやく告白したダフネは、何故か満足げだった。心のつっかえがとれたのか、腹立たしいくらいに清々しい顔をしている。
もう手遅れなのは分かっているし、後は自分が引くだけなのだが、何が腹立たしいのか、ブルーが突然、テーブルを拳で叩く。酒場に響き渡るような大きな音で、ルーズが置いたエールのコップが一瞬浮くほどの力でだ。
長い前髪に隠れた俯き顔が露になると、とても怒っているようである。
「何故、パーティランク昇格試験の受験を蹴った?」
なるほど、とルーズは何故ブルーが怒っていて、自分を追放しようとしているのか理解した。
『パーティランク昇格試験』とは、パーティとしての実力が、今のランクに収まらないと判断された時に、ギルド側から打診されるもので、いくつかの試験を行うことになる。
その全てに対し、『良』の判定をもらえれば見事昇格となり、今までとは比べ物にならないほどの報酬額の仕事を、受けることが出来るようになるのだ。
ルーズたち『昼行灯』のパーティランクは『C』であり、ボードに張られた仕事をこなすだけではこれ以上は上がれないというところまで来ているので、これ以上立場や報酬額を上げたいなら、試験を受けるしかない。
だが、それを勝手に断ったとなれば、怒るものも出てくるだろう。
特にブルーはその傾向が強い。『S』まであげて、国公認の『勇者』になりたいと、ルーズにとっては聞いちゃいられない事を度々口にしていたので、この態度も分からないでもない。
ただ、ルーズの信条にはそぐわないのだ。
そもそも、であるのだが……
「お前さ」
「なんだっ」
ちょっと前のめり過ぎるので、冷水を浴びせるべく、耳に痛い事をルーズは言った。
「人の女に手を出したことについて、詫びはないわけ?」
「ぐっ」
目に見えて勢いが衰えた。どうやら、それなりに罪悪感はあったようだ。
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