第18話 ある少女の現在(いま)
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夏の強い日差しが差し込む正午過ぎ。ブラックボードに軽快にチョークを走らせる音が、静かな室内に響き渡っていた。
「それではこの問いを……結城、解いてみろ」
「はい」
教壇に立つ体格の立派な男性教員に指され、女子生徒――結城真理香は席を立ってブラックボードの前まで歩み出た。
適当なチョークを取り、サラサラと解答を書き込んでいく。
「できました」
コトン、とチョークを置くと軽やかな口調で真理香が告げる。
男性教員はその解答を短めに眺めると、低めの声で一つ頷いた。
「よし、正解だ。よく復習してるようだな」
「ありがとうございます、少佐」
「今は一般教養の時間だ、先生と呼びなさい」
「すみません、まだ慣れてなくて」
「少佐」と呼ばれた教師が少し砕けた口調で言うとクラス内に僅かに笑いが起こる。 真理香はそれまでの凜々しげな表情から打って変わって恥ずかしそうに席に戻った。
今、世の中の大半の高校生は夏休みを満喫している真っ最中なのであろうが、ここでは違った。よく見れば生徒の中には日本人だけではなく、世界各国の少年少女たちが混在している。そんな特殊な教室の中に真理香も席を置いていた。
「分かった分かった。では次の問題だが――」
教員が言いかけたところで授業終了の鐘が鳴った。
「では、一般教養の講義はここまでとする。次の時間は各自希望分野に分かれての実技訓練に入る。時間厳守を忘れるなよ。当番、号令を」
「起立、礼。着席!」
女子生徒の号令が済むと男性教員――ルーク・スターフィールドは教室を出て行った。その途端教室は騒がしくなる。
「ふぅ……」
「真理香!」
真理香の机を三人の女の子が取り囲んだ。
「エミリー、麻友、メロディー。どうしたの皆?」
「ねぇ、真理香は次の実技、何取ったの?」
ショートカットが特徴的なエミリーが訊いた。
「私はハードギアを使った戦闘実技よ」
「それって前線部隊の訓練でしょ? やっぱりハードギア部隊育成プログラムに志願するの?」
そばかすがチャームポイントのメロディーが興味深々で訊いた。
「そのつもりで体も鍛えてきたからね」
苦笑いを浮かべながらも真理香は答えた。
「三人は艦内オペレーションクルーの志望だっけ? 何やるの?」
「通信装置の使い方とコミュニケーション能力の強化」
お下げ髪が可愛らしい麻友が恥ずかしそうに答えた。
「そっちも大変そうだね。お互い頑張ろうね!」
「真理香―、早く行かないと少佐にいびられるよ!」
教室の外から金髪の少女が真理香を大声で呼んだ。ショートヘアが魅力的な、元気な少女である。
「今行くわフランシス! それじゃ、また後でね!」
真理香は笑顔でクラスメートに言って別れると、金髪の少女とともに更衣室へ向かった。
「やっとここの暮らしにも慣れてきたかも」
真理香は少し早足で歩き、はにかみながら隣を歩く金髪の少女――フランシス・エミルにそう言った。
廊下を歩く途中には「一般教養・中等部」、「軍事教養」など、かなり特殊な教室が多く見られた。
「私だって同じだよ。少し前までは、まさか自分がこんなことしてるなんて夢にも思ってなかったもん」
「でも、それでも普通の勉強もあるなんてさらに思ってなかったけど」
「やっぱ、エリート軍人には一般教養が必要だってことよね」
二人は女子更衣室に入り着替えを行う。真理香は制服を脱ぎ、純白の下着が露になる。フランシスも同じように制服を脱ぎ始めたのだが、上着を脱いだところでその豊満な胸元が揺れると、真理香は横で着替えるフランシスの胸元に嫌でも目がいってしまった。各自に割り当てられたロッカーに入っている服に着替えるのだが、それは体操服などではなく、軍服であった。
「これを着るとやっぱり引き締まるね!」
フランシスは鏡を見て服装を整えながら言った。真理香も「そうね」と答える。
「そういえば近々、例の特殊部隊のメンバーを選抜する試験があるんだって」
フランシスが思い出したように言った。
「志願には、高等部までだったら年齢に制限がないって言うし。ライバルは多いわね真理香」
「もちろん、あたしとあなたもね、フランシス」
真理香は挑戦的な笑顔を作るとフランシスを見た。
「うん、どっちが勝っても負けても、恨みっこ無し!」
フランシスはカラッとした笑顔でそう返すと、二人は笑い合い、ロッカーを閉め、更衣室を出て行った。
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