第5話 消失!!
「
体のまわりに再び経文が浮かび上がると、今まさにアリルの胴体を切り裂こうとした切っ先が時間の逆流とともに遠退いていく。
アリルは速射型キャノンを連射し、昇が回避行動を取った先を読んでブーメランで攻撃する。
「何!?」
虚を突かれた昇はブーメランの直撃を腹に受け、その刃は背骨を貫通するほど深く突き刺さった。
「ぐぉっ! おおぉ……お、俺が、動きを完全に読まれただと……貴様ぁっ!」
「やったの!?」
「まだだ、アリル!」
アリルの一瞬の油断を昇は見逃さなかった。
「しまっ……リメイクッ!」
咄嗟に時間逆行の能力を発動させようとしたが、体力と精神力を大きく消耗するこの能力を使う力は、もうアリルには残っていなかった。
「貴様だけはこの場で始末しなければ、今後の憂いとなる! 死ねぇぇぇっ!」
渾身の力を振り絞り、ショートエッジでアリルを貫こうとした昇に、アリルは回避が間に合わないと悟り目を閉じてしまった。
亜熱帯特有の暖かい雨が降る音が聞こえてくる。
一瞬の後、うっすらと目を開けたアリルが見た光景は、昇の刃を、体で受け止めている比呂弥の姿であった。
その刃は比呂弥の体を貫いていた。
反対に比呂弥もまた、最後の力を振り絞りロングソードを昇の胸元へ突き立てていた。
「そ、んな……こんなことが……」
昇はそれだけ言い残し、そのまま絶命した。
「比呂弥……そんな……比呂弥!」
アリルは急いで比呂弥の体から刃を引き抜くと横に寝かせた。
応急手当を試みるが、腹から流れ出る血が止まることは無かった。
「よ……かった……アリル……君が、無事で……」
力を使い果たしたのか、比呂弥の変身が強制的に解除され元の姿へと戻った。
その姿はどこにでもいるような、高校生くらいの普通の少年であった。
アリルもザンナイトの変身を解除し通常の姿へと戻る。
肩先まである長いピンクの髪を両端で結び、まだ幼さが残る可愛らしい少女が現れる。
「いや……死なないで比呂弥……すぐに救援が来るから……だから、頑張って……」
雨が強くなり濡れるのも構わず、震える手で比呂弥の傷口を押さえるアリルの手をそっと握り返し、比呂弥は僅かに首を振った。
「俺は……もう……」
「そんなこと言わないで! 約束したじゃない……生きて、帰って、私の行きたいところ、どこでも連れてってくれるって……私、すごく楽しみにしてたんだよ……?」
「おぼえ、ている、さ……アリルとの、デートの、約束だもの……」
「嫌よ……こんなの嫌……だって私たち、まだ何も」
「……ご、めん……ね、アリ、ル……」
ゆっくりと、比呂弥が目を閉じていった。
「比呂弥……? 比呂弥……? 嘘……嘘だよね……比呂弥……?」
何度も呼びかけるが、比呂弥からの返答は返ってこなかった。
アリルの大きな瞳から、大粒の涙が溢れ出してくる。
「比呂弥……比呂弥ぁっ……! 嫌ぁぁぁっ!」
次第に強くなっていく雨の中、アリルの悲痛な叫びが木霊した。
何も考えられず、どうしていいかわからなくなった思考はパニックを起し、正常な判断ができなくなっていた。
「比呂弥ぁぁぁ――っ!」
次の瞬間、その叫びに呼応したようにアリルの体内から白い光が溢れ出し、周囲を包み込んだ。
一瞬で光は収まった。が、その時すでに、アリルの姿は忽然と消えていた。
しとしとと降り続ける雨に打たれながらも、安らかな表情で横たわる比呂弥を残して……。
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