夢幻の世界
でびる
第1話 夢幻の世界
「よし、ログイン完了!」
-ムゲンのセカイ-
-ユーザーネーム でびる-緋音 ログイン完了-
-ユーザーネーム 黒成 タマ ログイン完了-
「タマ!今日も頼むぜ!」
「でび!おめぇもな!」
ログインルームに元気な声が響いた。
此処は夢幻の世界というゲームの中。ムゲンって皆呼んでいる。此処ではADHD、つまり発達障害などの障害を持ってる人たちが有利に立ち回れるようなゲームシステムになっている。障害の多さ=スキルの多さとかね。
健常者は普通に働いていれば普通にお金が稼げるので課金してスキルを増やしたりしてもらうという、なんとも障害者に優しいゲームだ。
感覚型ゲームで、まぁ、頭に直接接続して、まさに夢の中で行動するゲームだ。知ってる人なら知っているMMOとかいうやつだ。
容姿は自由に選択可能。
この俺でびるは、赤い瞳に猫のような瞳孔、黒色の髪に白のメッシュが入った短めのポニーテール。スラリとした理想の体(理想の体形なので低身長はそのままにしてある……)。大きく目を開いた黒と赤の狐面。赤く大きな光る瞳と鋭い瞳孔。そしてお気に入りセットの服は、自分で作成可能のモデル。ゲーム内で稼いだお金と材料、自分で作った3Dモデルやイラストを専門のお店に持っていくと、ゲーム内で働いているユーザー服屋さんが丁寧に作ってゲームで使えるようにしてくれる。
ゲーム内で働いている人たちも障害を持っていたりするけど、発達障害の手の器用さや創造性の高さを買われてゲーム公式で雇われてるんだってさ。
ゲームで金稼げるって良いよなー、と言いつつ、俺も服のイラストやアイコンイラストなどのオーダーイラストを依頼される側だぜ。
話がズレたが、友人であり戦友のタマも特殊なモデルを使っていて、ツノのついた熊の骨のようなお面をつけたフサフサの熊のモデルである。イラストや3Dモデルさえあれば、ケモナーでも自分の【本当の姿】でゲームをとことん楽しめるという素晴らしいゲームだ。
まぁ、声色は普段通りだが、俺は別に色んな声が出せるので気にしていない。
タマって名前はネコって意味じゃないぞ!「クマにツノが生えて、タマ」って俺が名付けたんだ。
津軽は鬼の地だからね!
ちなみに狐面と猫面をプラスしたようなお面「緋音(あかね)」は猫鬼という妖怪をモチーフにしているぜ!
さて、解説してるうちに来たことがないステージに来てみたんだけど、ユーザーはほとんどおらず、敵だと思われる人型の影がチラチラと見えるだけの工業施設だ。
障害を多く生まれ持った俺たちは、このゲーム内でもかなりの実力プレイヤーだ。PvPや談笑ルーム、人狼ゲームルームなど様々なルームがあるが、この、通常ゲームの探索ルームが一番好きである。なんせ俺たちが使えるスキルは攻撃用スキルばかりであるからだ。
「今宵も楽しくなりそうですなぁ、でびさんや」
「そうですなぁタマさんや」
今宵は来たことがない、しかも他のユーザーもいない。大収穫の見込みの戦いに2人は大きく笑う。大きなパイプの中にそろりと忍び込み、奥先の大きく枝分かれしたいかにも敵が隠れていそうな暗い世界を覗き込む。
自分の反射神経のスゴさを信じて身構えて進む。でびるが持つ主要スキルは戦闘に特化した変身能力。爪を化物のように凶悪にして斬撃攻撃に特化させたり、悪魔羽を背中に生み出して宙を舞ったりなどなどできるスキルだ。主要スキルはゲームを始めた時、一番最初に決められる一番大事なスキルだ。これだけは後から設定し直すことができない。
「敵影発見だぜ、タマ……」
「了解……」
そんなことより敵影を確認した。
ここからが腕の見せ所だ。
「……○*△□×……」
「◇々^¥◇……」
(……喋ってる???)
専門用語というか暗号めいた言葉が多すぎてうまく聞き取れない。こんな言葉を使えるNPCがいるのだろうか?
「よく分からんが、なんか悪いこと企んでそうだから殺してみようぜ?」
「んだな(そうだな)」
津軽弁訛りでタマも頷く。目の前にいる敵影が仮にNPCではなかったとしても、攻撃は可能だし、こんないかにも悪い話をして銃を見せつけるように所持している奴らを攻撃したところで何の罪にも問われない。それより敵への攻撃の感覚やドロップなどを知りたかった。
「よし……」
突撃!!
この2人はよく敵に気付かれないように行動するのが好きだ。そして、勢いよく行動開始。
「ぎゃあっ」
早くもでびるの凶悪な爪が敵の頭を貫き、潰す。
ドシャっと赤い花が咲き広がる。
続けて次々と赤い花を咲かしていく。悪魔羽が舞う軽々としたその動きはまさに戦闘に慣れた悪魔。
「うぇ、見てらんね」
そう言いながらえずくタマはその巨大な体を生かして敵の頭を叩き割る。
エグい音鳴ってんぞ……。
多分、タマの腕力なら軽くぶん殴られただけでも脳震盪は免れないだろう。骨折しそう。
なお、ゲーム内での痛みはしっかりとある。
数分して静かになった巨大パイプの中。
「うぇへへ!!やってやったぜ!!」
タマとでびるはハイタッチを交わす。
ドロップもお金もまずまずだ。これで新しい装備が買えそうだ。何を買おう。そう考えていると、タマからおーいと呼ばれる。パイプの中は声が良く響く。お〜い御茶。と叫びたいくらいに気持ちよく響く。
「どした?」
「この先……」
タマが指差した先は、ウォータースライダーのようにパイプのトンネルが続いていて、スライダーアクションができますよ。とアクションマークが表示されている。
「乗ってみるか?」
「いやいやいや、わぁ(俺)怖いんだけど」
手ぇ繋げばいいだろ!と、でびるは何の躊躇いもなくタマの腕を引いて表示されているアクションマークに近づく。
「ちょい待ってちょい待っ……」
「アクション!!」
タマの心の準備が整わない内にでびるがアクションコールをする。
フワリと体は浮き上がり、ゆっくりとパイプの中の下りに向かって流れていく。
そして、
「アァァァァァァァ神さまお願い待ってェェェぇぇ!!!」
タマの叫びも虚しく、でびるたちの体はスライダーの中に消えた。
「フゥゥゥゥゥゥゥ⤴︎⤴︎」
「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」
スライダーの中は大きなフワフワのボールで満たされ、感触こそ面白いが先が見えない恐怖がある。
「イヤァァァァ……」
ぐわんぐわんと世界が廻る。
右に左にと振り回されてもみくちゃにされた2人は、ようやく出口へと放り出される。
「…………」
「……うぇっぷ……」
………
……
暫しの沈黙。
タマはボールにもみくちゃにされたせいで目が回っている。
「ふふふ、あはは……」
「ははは……」
今度は乾いた笑いがこみ上げてくる。
見知らぬ土地、初めての体験、誰もいないワールド、などなどの状況に渇いた笑いは爆笑へと変わる。
「ひぃ〜〜〜〜www」
「腹痛いwww」
ナニコレナニコレと笑うでびるとタマは、文字通り笑い転げていた。誰もいないフィールドで。
一通り笑い転げて、疲れた2人はフィールドを見て回ることにした。
スライダーは下りのみで上に帰ることができなかった。これではセーブすることもログインルームに帰ることも、ゲームを終了させて帰ることもできない。
「なんだこれ……」
どこかのセーブポイントを見つけるまでは帰れないということが発覚した2人はこのまま進むしか道がなくなった。
荒廃した街をモチーフにされたこの世界はどことなくノスタルジックで、昭和の日本の街並みに似ていた。てくてくと歩くのは疲れるので、でびるの羽で空から飛んで見て回る。巨大な鉄骨の吊り橋が見えたところで、2人は顔を見合わせ、飛ぶのをやめて歩いて向かう。青空にそびえる、錆びた鉄骨が幾数もの鉄筋ワイヤーを抱え込んで伸ばしている。
「でかいなぁ……」
「ホントだな…」
と、錆びた大橋を渡ろうと足を踏み出したところ、複数の足音がこちらに向いた。
ガチャリと、重厚な金属を向ける音も。
「止まれ」
重々しい声が聞こえて、2人の歩みは止まる。見えるのは先ほどの敵と同じ格好をした兵士と呼べる人たちだった。ユーザープレイヤーでなければこんな人間のような一体感は出せないはずだが、こんなイベントでも存在するのだろうか。
「止まったぜ?」
でびるは敵と見定めた相手に、指示を仰ぐ。
「先程、我々と同じ格好をした者たちを排除したな?」
「殺したよ」
即答したでびるにタマは冷や汗をかく。
「そうか、ならば、死ね」
冷ややかな声が聞こえて引き金に指をかける、前に動いたのはタマとでびるの2人だった。
こんなところで死んだら今までの苦労が水の泡になる。
けたたましい轟音が響き、2人の体に鉛玉が突き抜けるも2人は敵を屠るのをやめない。
だが、銃弾を撃ち込まれ続けるでびるの体の動きが、
止まるころ、、、
「スキル……呪い……」
でびるが微笑み特有スキルをコールする。
すると複数の敵兵から真っ赤な血が吹き上がり、為す術も無く倒れる。辺り一面が血の海に染まっていく。
でびる特有の自分が受けたダメージを敵に返すスキルだ。多重人格者は保有スキルが多い。
「ホントそれズルイわ〜」
ズタボロのタマは笑う。タマだって保有スキルは多いくせに、あまり使わない。
「お前もスキル使えよな〜」
「よぐわがんねぇもん……はい、スキル…ヒール」
ハハハと笑うタマは応急処置スキルを使って傷を癒す。傷が癒えて皮膚は元通りに再生されていく。
でびるの応急処置スキルは雑すぎて傷も血が止まる程度で止まるため全然使えない。そう、まったくもって。
まぁでびるには血を操るスキルもあるので雑スキルでいいのだが、仲間がいる時にはまったくもって機能しない。傷口の血を止めるだけの激弱癒しスキルじゃHPなんて雀の涙程くらいまでしか回復しない。
それにしても。ここはどこで、この敵はなんなんだろうか。
夢の世界はまだまだ続きそうだ。
夢幻の世界 でびる @Devil
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