防衛圏のクルス

domustoX

始まり

プロローグ

 いつ尽きるとも知れぬ獣の群勢。

 クルスはその中でひたすら鎌を振るい続けた。

 荒野と草原の境目に作られた城壁の街を守るために、クルスは鎌を振るった。


 獣の肉を、骨を断つ感覚が、鎌を伝わって手に強く残る。

 しかし、命を断っているという感慨に浸っている暇はない。ひたすらに獣を狩らなければ自分は死ぬ。


 仲間はいる。仲間と言っていいかはわからないが。同業であることは間違いない。皆、必死で武器を振るっている。

「今回の一団はまた酷いもんだなぁ!」

 近くにいた大男が武器を振り下ろしてぼやいた。息が乱れ肩が上下している。顔色を見れば血液が行き渡っていないことが分かる。

 クルスはそれを見逃せなかった。

「おい、あんた!そろそろ撤退しろ!そのままじゃ死ぬぞ!」

「俺は、まだやらなきゃいけねぇんだよ!!」

 大男は怒ったように声を上げた。戦場の高揚感が語気を強める。しかし、クルスはそれを全く意に介さなかった。

「あんたが死ぬのは勝手だが、俺の目の前で死なれると気分が悪いんだ!」

 クルスも大声で返した。

「ばかいうんじゃ・・・」

 その瞬間、男の体がふっ飛ばされた。

 クルスは振り向きざまに、男のいたところに鎌を振り下ろした。敵の姿を見ている暇はなかった。

 クルスの鎌は獣のわき腹を引き裂いたものの致命傷に至っていない。

「くっそ!」

 クルスは返す刀でもう一撃を獣に食らわせた。獣の体が真っ二つになってふっ飛ばされる。


 クルスはさらに急いで大男の方に駆け寄った。

 敵は弱った方からとどめを刺しに来る。今、立ち上がろうともがいている大男は、格好の得物だ。

 クルスは思い切り踏み込むと、鎌を投げつけた。

 男の右側に居た獣の頭に鎌が激突する。

 その戦果を確認するまでもなく、クルスは男の左側の獣の足に素手で掴みかかった。

 

 獣は荒れ狂ったようにクルスに噛みつこうとしてきた。しかし、クルスはその獣の足を掴んだまま、壁に向かって叩き付けた。


「はぁ・・・はぁ・・・」

 クルスは息を乱して、よろめきながら、鎌を持ち上げた。鎌が当たった獣は、当たりどころが悪かったのか、頭を砕かれて動かなくなっていた。

 クルスは鎌を担ぐと、大男も一緒に担いだ。このまま見捨てるわけにはいかない。この戦場では一人でも多くの戦力が欲しい。

 連日襲い来る地響きを上げるほどの獣の軍勢を、たった23人で守り切らなければならないのだ。一人でも欠けようものなら、それだけで大損害だ。

 だから、無理やりにでも、この男には生きて、もう一度戦場に立ってもらうしかない。

「残酷な話だが・・・まだ・・・死んでもらっちゃ・・・こまるんだ・・・」

 クルスは苦笑いを浮かべながらよろめくように歩いた。激しい戦闘の後、大男を担いで歩くのはさすがに厳しい。

 しかも、残りわずかとはいえ、まだ獣は残っている。友軍はまだこちらに気付いていない。気づくほどの余裕もないのだ。

 クルスはポケットに入っている爆薬を手にした。これで近づいて来る敵をけん制しよう。

 しかし、タイミングを間違えれば、自分がまきこまれる。

 クルスはそう思いながらも、必死で一歩一歩歩みを進めた。

「くっそ・・・」

 クルスはうめいた。喉が渇いてガラガラする。散々吠えた上に、乾燥した風が強く吹いてくるこの環境は喉には最悪だった。

 そろそろ戻って休みたい。クルスは笑みを浮かべながら、何とか城門の方まで必死で歩みを進めた。

 


 ここは、ありとあらゆる世界につながる世界。「真ん中の世界」

 その世界において、後に「黒騎士」と呼ばれる伝説の男がいる。黒いコートに大鎌を持つ緑色の髪の男。その男、クルス・ヴェルナルドは、無数の獣に襲われ続ける辺境の都市・ナポリにて刃を振るっていた。

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