恥作 N教授のつまらない講義
ネコイル (猫頭鷹と海豚🦉&🐬)
講義のはじまり
N教授の講義がつまらないというのは噂以上だった。
「さぁ、今日はどこから探究を始めようか」
大学内でも随一の狭さを誇る講義室の小さな演壇の上で、N教授は今日も楽しそうな顔でこちらに顔を向ける。講義を受ける学生がもう僕だけになってしまっていることを気にも留めない。
僕も以前、生徒が一人で講義が成り立つのかと聞いたことがある。それに教授は、私の話に付き合ってくれる生徒が一人でもいればいいのだよ、と答えその日も講義を始めた。だから僕は今のところ唯一の生徒であり、教授のおしゃべりに付き合わされている人間だった。
「どこからって言ってもこれ以上なにを追求しようっていうんですか」
僕が口を挟むと教授はピタリと体の動きを止め思案顔を浮かべた。今日に限って教授はなにも出発点となる題材を決めてはいなかったようだ。こんなことは初めてだが、こういう時は決まって僕がなにかきっかけを与えるまでは教授はぜんまいの巻かれていない機械のように止まってしまう。
僕はそのきっかけとなりそうな、または世間話の題材によさそうなものはないかときょう一日あたりの記憶を思い出す。変人扱いされている教授とその付き添いみたいな僕は、互いに人間関係の希薄な毎日を送っている。だから互いにする話も世間一般とはかけ離れたものになりつつある。でも僕はそんな教授との会話が何気に気に入っていたのでこうして一人でも講義に出続けている。
「先生、では物語というのはどうですか?」
僕がそう口にすると教授は
「よし!それでいこう」
とばねの反動で急な動きを見せるロボットみたいにぴょんと軽く飛び跳ねて見せると最後。
「それじゃあ今日は、物語をきっかけに魂について考えてみようか」
と講義の始まりを宣言して見せた。
これもまた、N教授の講義がつまらない理由だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます