45.いや、付き合ってないけど?


女子からの視線を疑問に感じつつ、席につくと真山と話していたサキが駆け寄ってきた。


「ツキ、おっはよー」


「おう、おはよう」


サキの後ろの方で夕日と話していた桜乃がハッっとしたような顔をして立ち上がったのが見えたが、忘れ物でもしたんかな。


「真帆から聞いたんだけど、今って家に1人なの?」


「ああ、そうだぞ。擬似1人暮らし中だな」


「あ、あのさ」


サキが胸の前で指を絡めて人差し指をくっつけたり離したりしている。何か忍術っぽい。


「やっぱり料理するの‥‥大変?」


「ん?そうでもないぞ」


「でもさ、やっぱり自分で作らなくてもご飯出てきた方が楽とか思ったりしない?」


「んー‥でも、意外と料理楽しいんだよな。今度何か作ってやろうか?」


和洋中何でもいける。ちなみに残念ながらスイーツにはまだ手を出していない。


「あ、うん。食べたい!」


「苦手な食い物あったっけ?」


そういや、食べ物の好き嫌い聞いた事無かったな。甘い物好きっぽいのは何となく分かるが。


「特にないけど、めっちゃ辛いのは苦手かも」


「中華はやめとくか。味付けは濃いのと薄味どっちが好き?」


「薄味の方が‥‥って、違う!そうじゃなくって」


「どうしたよ?」


「その‥‥つまりね」



「HR始めるぞー。席つけー」



「ぁ‥」


担任が教室に入って、サキが肩を落として戻って行く。

サキ‥‥どうしたんだ?


とりあえず俺の作ったもの食いたいって事でいいんだよな?スイーツ‥‥手を出してみるか?


前に買った料理本に載ってたガトーショコラあたりなら作れそうな気がする。




HRが終わると今度は桜乃が俺の席に来た。


「ね、蓮華君」


「どしたー?」


「今日の放課後、何か予定ある?」


「いや、ないな」


今日は委員会もバイトも無い。


「それじゃあ、蓮華君の家に行ってもいい?」


「おう、いいぞー。‥って何で俺の家?」


「晩御飯作ってあげる」


「おー!マジか。何作ってくれるんだ?」


桜乃も夕日から聞いたのか。

桜乃は料理上手いし作ってくれるっつーんならありがたい。


「何か希望ある?」


「そうだなぁ‥豆腐を使ったものを一品」


「うーん‥‥ご飯に味噌汁、揚げ出し豆腐にだし巻き卵とカブの浅漬けあたりでどうかな?」


「すげぇ美味そうです、桜乃シェフ。あっ、そうだ。揚げ出し豆腐の作り方教えてくれ」


「うん、それじゃあ一緒に作ろっ」


「だな」


「放課後、一緒に材料買いに行こうね」


「今日は図書委員ないのか?」


「あっ!うぅぅぅ‥‥ぁる」


桜乃が落ち込んだので


「待っててやるから落ち込むな」


そう言って頭を撫でてやると


「うん!ありがとう、蓮華君」


パッと花が咲くような笑顔になった。




桜乃との話が終わると、後ろの席の柊木がツンツンと背中を突いてきた。


「ん?」


柊木の方を向くと柊木が小声で聞いてくる。


「なあ、葉月と櫻井って付き合ってんのか?」


「いや、付き合ってないけど?」


「完全にカップルの会話な気がしたが」


「そうか?俺と桜乃ちゃんって幼馴染なんだよ」


「え?そうなのか?最初全然話したりしてなかったよな?」


「中学が別っつーか、地域が違ったからまる三年会ってなくて気まずかったんだが、今はそうでもないからな」


「可愛い幼馴染が飯作ってくれるとか、このイケメンが!」


「だからお前には言われたくねぇよ!」






昼休みに柊木達と飯を食って教室に戻ってる時に1人でいるサキが見えたので声をかける事にした。

ちなみに柊木は部活のマネージャーに、犬山は女バスの子に呼び止められて、猿川は部室に行ったので今は俺も1人だ。


「おっす、サキ」


「あ、ツキ」


朝話した後からやっぱり元気ねぇな。


んー‥‥ガトーショコラを作るとして、火,水がバイトだから、木曜に作って冷蔵庫で冷やして‥‥


「朝の話。金曜にうちに食いに来ないか?」


「えっ!?うん!行く!‥‥それとね‥‥私も作りたい」


「お、作ってくれんのか?俺が作る予定なのおやつの予定だったが、それじゃあ夕飯はサキが作ってくれよ」


「そうなの?じゃあ、美味しいの作るから食べてね‥っておやつって何?」


「ガトーショコラ作ってやるよ。甘いもん好きだろ?」


「やめてー!女子力まで上げないでー!いや、嬉しいよ!?嬉しいけど‥うん、嬉しい。ありがとう」


「お、おう」




何かサキの情緒が若干乱れた気がするが、多分元気になったと思う。



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