本編ー高校生編ー

17. おかえり、蓮華君side櫻井桜乃


蓮華君が居なくなってしまったあの日から‥



私は笑顔を無くした



何をするにも気力が湧かず

気分が沈む度に誤魔化すように勉強をした。


蓮華君はいつもテスト満点だったから

遠い北海道にいる蓮華君に、学力だけでも近づけるように。


家の近くでは1番の進学校に入れた。

今は入学式


人が多い場所ではつい探してしまう

いるはずもない蓮華君の姿を‥






『次に、新入生代表の挨拶です。葉月蓮華さん、前へ』







‥‥‥‥‥‥‥‥へ?




ステージ横の見えない場所から出てくる人影



あっ、あっ、あれはっ!


あれはっ!!


蓮華君だっ!って怖っ!?

でも、蓮華君だぁ!!!


髪の毛の色が灰色だし、長さも短くなってるけど

間違いなく蓮華君だっ!

私が間違えるはずが無いもん!



あっ‥目があった

昔と同じ優しい微笑み

見た目は変わっても‥変わらない

私の大好きな微笑み



‥ハッ!私も微笑み返さなきゃ!






動けッ!私の表情筋!






駄目だ、動かない。。

三年で完全に私の表情筋がお亡くなりに‥


そもそも蓮華君のせいなんだからねっ!



『うるせぇっ!!!』



はい、すいません、自己責任です。


って私に言ったわけではないよね?

周りがうるさかったのかな?


私は蓮華君を見てから音がどんどん遠くなって

もう何も聞こえない




挨拶終わったのかな?


さて‥まずは再会の抱擁をするために‥私もステージ裏に‥

って違う!

何考えてるの私!?


あれ?上手く頭が回らない



何も考えられない‥



何だろう、目が回る‥




そのまま私の視界はブラックアウトした



*****



懐かしい夢を見た

小学6年生の時の水族館

蓮華君が取られちゃうんじゃないかって不安で泣いている私を、息を切らして蓮華君が探してくれて、私が泣き止むまで

「大丈夫だよ、桜乃ちゃん」

って優しい顔でずっと頭を撫でてくれる

そんな、幸せな夢




「‥あれ?」


ここはどこ?


「おっ。起きたか」


白衣を着た若い大人の女性が話しかけてきた。

起きがけでスッキリしない頭で今の状況を考える


「覚えてない?目を回して倒れたのよ」


「えっ?」


「入学式中に、何か緊張したりビックリしたりした事に心当たりは?」


「あ、はい。ありますね‥はっ!あの、入学式は?」


3年ぶりに蓮華君を見て‥って、そう!蓮華君は!?入学式は!?


「もう終わったわよ。一年生は今日は入学式だけだから、もう帰っても大丈夫だけど、歩けそう?家の人に連絡するなら私からも説明するけど」


「いえ、大丈夫です。もう少し休んだら1人で帰りますね」


‥蓮華君‥ちゃんといたよね?


‥夢じゃないよね?


‥話したい事がたくさんある

でも、今日これだけは言いたかった


おかえり、蓮華君




明日はちゃんと会って話せるかな?


その前にまずは




表情筋のマッサージから始めよう




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