38 湯上りエイル、下から見るか、横から見るか

 「?!あちゃぁああああああああああああああ!!」

 こちらとは違い、ダイレクトに弱い部分、そう、目に直撃するものだから。

 ヴァルは思いっきり悲鳴を上げた。

 「?!あ?!どった?!」

 「……みっ?!」

 遠くの方からは、ヴァルの悲鳴に気付いた2人も、気になってか声を上げるが。

 「……あ、何だ。自業自得か。」

 「……みっ。」

 「……。」

 ヴァルの味方をすることはないようで。

 判断が付いたか、エイルとトールは、静かになり、また身体を洗う音を響かせる。

 俺もまた、静かにして、シャワーの温度を元に戻した。

 「……ぅぅぅぅうううう!!!フェンリル!!てんめぇぇ!!!」

 「!……やっばっ!!」

 なお、ヴァルの方は壁の向こうに消えた後、軽く呻いて。

 それも、露骨に怒りを出してもいる。

 嫌な予感がしてならないが、出ようにも、出たら多分やられる。

 「いい度胸じゃねーか!!!!よぉぉし!!」

 「!」

 「このヴァルキリー様が直々に手を下してやるぅぅ!!!」

 壁の向こうから、唸りを上げつつ言葉を出すな。

 、後に続いて、何か飛来するような音がしてきた。

 「……いや~な予感。」

 それが何であるか、分からないでいるが、しかし、口にするしかない。

 「!!」

 ヴァルが受け止めた音が響くなら、独特な音を響かせてきた。

 よくよく耳にした音であるため、分かるなら。

 それは、レーセであると。 

 簡単に装甲さえ融解できる代物だ。

 たったプライベートを最低限守るだけの壁ごとき、守りの意味を成すまい。

 感じるや、冷や汗が垂れる。 

 斬られると思っていたら。

 「?!あぎゃらびばへええええ?!!」

 「?!」

 途端、凄まじい放電音が響き、感電してか、ヴァルが悲鳴を上げる。

 何事とつい思ってしまうが。

 「?!のぎゃぁああああああああ?!!」

 電気は伝う、下の隙間より漏れた水に触れて。

 俺にまで、伝わってきて、感電させてきたのだ。

 思わず、電撃に悲鳴を上げてしまう。

 放電音はなおも続き、やがてそれは同じように伝って。

 エイルやトールにも向かうか。

 「?!な、あぎゃらびばへえええ?!」

 「?!みぎゃぁああああああああ?!」

 2人からも悲鳴が上がり、放電音を伴い、シャワー室中に木霊する。

 「……?!」

 一しきりの、放電が終わるなら。

 ヴァルのレーセが落ちる音が続き。

 合わせて、俺の身体はぐったりと床に崩れ落ちていく。

 同着か、他の肉体が崩れる音が続いて。

 誰も何も話さない、そんな状態になるなら。

 空しくシャワーの水音だけが、空間を包み込んだ。

 「……あ、がぁ……し、死ぬ……?!」

 痺れに口は上手く動かせないが、動かしつつ紡ぐなら。

 「……そ、そりゃ……おめー……。こ、これは、普通の人間なら、天国行きだぜ。」

 「……みっ……ぅ……。」

 「……そっ……か……。」

 エイルいわく、普通の人間なら耐えられないレベルであると。

 痺れながらも言ってくれる。 

 耳にして、小さく頷いて。 

 この身体の頑丈さ、ありがたさ噛み締めつつ、壁に手をつきながら立ち上がった。

 続々と、壁を手につきながら動く音があり、同じように立ち上がったらしい。

 泡も汗も、流れ続けるシャワーに流されていて、もうなくなり。

 よろけながら、俺はシャワーの個室から出る。

 「……ぬぅぅ……。」

 痺れているがために、結局壁に手をつきながら動くことに。

 「……!……。」

 後ろから、遅れて同じような音が続くなら。

 それらはヴァルや他のメンバーだろうと気付くものの。

 先ほどの心臓の跳ね上がるような感じはしない。 

 何よりも、それを勝るほどの痺れが俺を襲っているのだから。

 そっちに意識が行っているのだろう。それは、この状況において、幸いか?

 いや、どころじゃないと、いうことか。

 見向きすることもなく、俺はきちんと整えられた下着を付けて。

 その場を後にする。

 

 よろめきながら、いつものリビングみたいな船室に入るなら。

 「……!」

 後続に複数の足音もまた近付いてきて。

 そこで、振り返るなら、同じく、下着姿のヴァルたちである。

 様子には、俺と同じように、身体に痺れがあるか。

 呻きを噛み潰した表情をしていた。

 「!」

 「……集合!」

 なお、すれ違う際、エイルが強く静かに言ってきて。

 その鋭さが強く、俺は緊張にごくりと唾を飲み込んでしまった。

 従うことにして、エイルについて行くなら、エイルは床を示して。

 「!……まさか。」

 それが、座れと言われているようで、気付くなら俺は、改まる座り方をした。

 正座して、エイルを見上げる形を取る。

 ……湯上りエイル、下から見るか、横から見るか……いや、何でもない。

 「……おめーもだ!ヴァカリキー!!」

 「あ?!あたしが何かしたってのか?!」

 「!!……。」

 もちろん、俺だけが、そのような正座するわけじゃない。

 ヴァルにも指示するものの。

 当のヴァルは、とぼける様子である。

 「頭がたか~いっ!!!」

 「?!だばらぁ?!」

 「?!……ひぇ……っ!」

 それに対してエイルは、無理矢理座らさせるためにか。

 自分のバックパックを呼び寄せて、何か取り出すような仕草をするなら。

 巨大な鉄球であり、それを思いっきりヴァルの頭上に投げ込んでくる。

 衝撃から、尋常じゃない重さであると伺えて。

 現に、衝撃と共にヴァルは、床に叩き伏せられてしまう。

 ヴァルは叩き伏せられて、悲鳴を上げて。

 俺は、凄まじさに言葉を失いそうになる。

 冷や汗だって、出てきたかも。

 脳裏には、次は俺だとさえも感じて。

 「……しかし、この〝寛大な〟エイル様でも、今回ばかりは頭にきたぜ?フェンリルよぉ。」

 「!!……やっぱり?!」

 その通りか。

 エイルは続けるなら、狙いを俺に定めているようで。

 合わせて、ヴァルを叩き伏せた鉄球は動き出し、宙へと上げられて。

 重苦しい音と、圧を伴って俺へと迫っていく。

 「うぉあああああ?!」 

 見ることができず、俺は素早く頭を伏せて、逸らした。

 「……あれ?!」

 だが、あれだけの勢いといい、伴っているはずの鉄球は、俺に到達しない。

 連帯として、俺をもという勢いだってあっただろうに。

 それがないことが、不思議に思えて、いや、幸いか。

 なぜにと顔を上げるなら。

 「?!」

 何と、俺に向かって投げれようとしていたはずの鉄球は。

 ギリギリと軋む音を立てて、宙に静止している。

 またも、なぜにと思いつつ、視線を動かせば。

 「!」

 誰がそうしているか、すぐに判別がついた。  

 トールだ。トールが、振り上げられた鉄球に付いた鎖を素早く手にして。

 動かすまいとしてくれたのだ。

 「……みっ!」

 「……のっ!トール!こいつのどこがいいんだ!!潰すなってか?!」

 「……みっ!!」

 エイルは、止められたことに腹を立てている様子でもあるが。

 が、トールはそれを上回る凄みを見せて。

 いつものトールよりも、厳しくあり、俺はそのことに驚いてしまう。

 「……ぬぐぐぐ。そうされると、エイル様は……。くそぅ!おめーにだけは、敵わないぜっ!!」 

 何よりも、エイルには効果があり。 

 凄みにたじろいでいた。

 敵わない。そう、感じている。

 トールのそんな様子は、ヴァルが見せるような物どころじゃない。

 もっと奥の、絶対な力を秘めているかのよう。

 「……!」

 思い出すことには、そう言えばトールは、ヴァル以上であったかなと。

 ヴァルの記憶からしても、トールは幼い頃のヴァルとは違い。

 臆することもなく、敵を殺めていたような。

 そんな彼女がすごむのだから、付き合いの長いエイルは、引き下がるしかない。

 「……分かったから。エイル様、この鉄球片付けるよぉ。だから手を離せ!」

 「……みっ。」

 凄みに、致し方なく。 

 エイルは俺に対して鉄球を振るうのをやめる。 

 鉄球を、また自分のバックパックに仕舞っては。

 顔を上げていた俺に、視線を向ける。

 「……ぬぬぅ!ごほんっ!」 

 「!」

 代わりとして、何か言いたくはある。

 咳払いして、自らの臆する様子を払拭しては。

 「……え~と。トールに免じて、おめーにだけは、エイル様特性、素敵な鉄球お仕置きの刑は無しとしておく。まあ、エイル様は〝寛大〟だからなっ!」

 「!……。」 

 言いたいことは、とりあえず、トールに免じて、許すかのようなのだと。 

 なお、セリフには、違和感があるために、素直に頷けないでいるが。

 「しかしっ!!」

 「!」

 なお、逆にエイルも素直にこのままというわけにもいくまい。

 「エイル様に危ない目に遭わせたんだかんな!ちっとは説教の一つでもしてやんねーとそこに転がるヴァカみたいになっても困るからな!よぉぉぉく、聞け?確かに、おめーは猫のような耳はしてねーだろうが、それでも、だ!」

 「!……。」

 だから、俺やヴァルに対して、説教をすると。

 胸を張り、らしくなく背伸びをしているかのような雰囲気だが。

 今この状況では、負傷させた原因は俺にもある以上。

 そのように子どもらしいなどと言うこともできない。

 俺は聞くしかない。 

 「あ~、では、だな。このような状態になった原因として……。」

 「……。」 

 そんな折に、エイルは説教を始めるよう。  

 それを俺とヴァルは静かに聞くこととなる。聞いて、せいぜい相槌を打つしか。

 ……あ、ヴァルは違うや。

 ずっとあれから、床に叩き伏せられたまま。

 見るが、耳を動かしていることから、少しは聞いているかのよだ。

 なお、素直に聞いているかは別として。

 そうであっても、エイルは気にすることなく。

 つらつらと言い始める。

 

 小1時間説教を喰らう羽目となっていて、その内に、ヴァルは起き上がり。

 挙句の果てには、いつも通り弄る始末となってしまう。

 エイルは激怒して、またも言いたくもなるが、だが、ヴァルであると。

 言って聞くならまだしも、聞きやしない。 

 やがてエイルは、諦めて。

 これ以上話すのも無駄に思えるなら、とうとう話は切り上がってしまう。 

 いつもなら何とも言えなく思えるそんな状況も。

 ずっと正座で説教を受けるこの時にはありがたく思えて。

 ヴァルのこんなことも、役?には立つか?

 「……なあおい、見てくれよ……。」

 「?!」

 そうして、解放された矢先に、ヴァルが言いつつ見せるのは。

 大きな電球を手に握って見せ付けて。

 言われるがまま、見るなら。

 握ったその場から光らせて。 

 「……あたしの身体から電気まだ抜けねーんだよ……。どーにかしてくんね?」

 「?!……ええと。」 

 困った顔して言うことには、まだ電気が残っていると。

 そうなると、俺は答えに窮してしまう。 

 そんな、電球を光らせるほどなんて……。

 「……おめーはバカか。」 

 そんな馬鹿気た様子に、すかさずエイルはツッコみを入れてくる。 

 「あんだって?」

 ヴァルはエイルを見て、ジト目で聞いてきた。

 「そんなジョーク、面白くねーぞ。第一、エイル様たちには、エネルギーが流れているんだから、そういう風に摘まめば、電球ぐらい点くわい!」

 「……ぬぅ~ん。ちっとは乗っかってくれてもいいじゃねーか。まったく、可愛くない奴……。」

 エイルもジト目で、応じては。

 それこそ、ジョークではなく、普通に、だ。

 言うことには。

 自分たちの身体にはスフィアからのエネルギーが巡っているのだから。

 上手くすれば、電球ぐらい点くと。 

 つまりは、決して中に感電した電気が残っているとか。

 そういうことじゃないということだ。

 耳にしてヴァルは、面白くなさそうな顔をして、やや不貞腐れた様子を見せた。

 「……。」 

 端から俺は見ていて、まあ、そんなのはヴァルらしくはあり。

 どうやら、自分で感電したことは既に回復しているとみた。 

 「……みっ。」

 「!」 

 傍ら、トールが出てきて。

 手にはお酒か。

 持ってきて、二人に見せる。

 「!お!」

 「!あ!」

 トールが持って来たのを見て、気付いた二人は、先ほどのジト目をやめて。

 顔を明るくしてきた。

 それならと、立ち上がるや手に取ろうと。 

 「……みっ!」

 「!」

 また、俺の方を見ては、片手にある飲み物を俺に向けて。

 つまりは、俺に手渡していると。

 「……ありがとう。」

 俺はお礼を言って、トールから手渡されたのを手に取った。

 「!」

 見れば、ビールみたい。

 気晴らしにと、トールが持って来たか。

 「!!」 

 また、同じように手に取ったヴァルとエイルは。

 手にするなら早速飲み、息を吐くなら、爽快な様子を示して。

 そこから、憂さ晴らしとばかりに、宴を始める。

 その日は、そうして過ぎていった。

 

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