失恋

雪海

第1話 別れと親友


「俺達、別れようか」


 言われて私は、すぐに言葉を返せなかった。

 いつからだったのか。いつから彼は私への恋心を失っていたのか。いつから、私は独りよがりな恋愛をしていたのか。

 まがりなりにも、恋人だったはずなのに。

 私には――重すぎた。

 いつもなら、私を優しく受け止めてくれるはずの彼が。私を強く肯定してくれるはずの彼が。

 あんなにも、暴力的な冷徹さを孕んだ声で言うのだから。

 けれど、もしかしたらとも考えた。

 もしかしたら、これは行き過ぎた冗談なのではないか、と。

 でも――


「は? 冗談でこんなこと言わねーよ」


 私の紙切れのような期待は、刹那のうちに破り捨てられた。

 初めてのことで、正直、私にはどうすればいいのか分からない。

 あんなにも好きだった人が。あんなにも私を好きだと言ってくれた人が。なんで突然、それも一方的に別れを告げてきたのか。

 話し合うチャンスさえ貰えれば、いくらでも改善は出来るだろうに……。

 この時に初めて、私は恋の理不尽さを知った。

 


 振られた日の夜、ぽっかりと空いてしまった心の穴に、私は応急処置を施した。

 友人への電話だ。

 こんな夜中に電話をするのは非常識だし、迷惑がかかることも十分に分かってる。

 しかしそれでも、今誰かに話を聞いてもらわなければ、心が真っ先に崩壊してしまいそうだったから……。

 私は腫れた両目を開き、スマホのコールボタンを押す。

 ごめんね……ハルちゃん。

 心でそう呟いて束の間、


『はいはい~、どした~?』


 通話口から、のほほんとした声が聞こえて来る。ハルちゃんだ!

 はやる気持ちを押さえに押さえ、私は慎重に口を開いた。


「あ、あのねっ……ハルちゃん」


 でも、私は次の言葉が出てこなかった。

 通話口の向こうにいる友人――ハルちゃんは一番信頼できる友人だ。

 けれどそれと同時に、私の恋を一番に応援してくれた友人でもあって。

 そんな相手に「別れました」なんて、口が裂けても言えそうにないよ……。

 そうは言っても、ハルちゃん以外に相談できる友人なんていないし。


『…………』


 数秒間、空気の音しか流れてこない。

 どうしよ、どうしよ。

 何か喋らなきゃいけないのに、話す内容が一向に思い浮かばない。

 時間が過ぎる度に、口が重く閉ざされる。

 そうしていると、痺れを切らしたであろうハルちゃんが、ひときわ大きな溜息を漏らした。

 は、早く謝らなきゃ――


『カエデ、別れたんでしょ?』


「え……」


『だーかーらー、カエデとあの男が別れたんでしょって』


「え、……えええええええええええええ⁈」


 自分自身でも驚くほどの絶叫を上げると、ハルちゃんに叱られてしまう。

 けれどその後、正しく急展開という速さで話が進み、日取りを決め、後日二人で焼き肉に行く事が決定したのだった。

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