キオクが無くなるってしってても。
鴻上ロジ(kougami roji)
プロローグ
「ええ、跡形もなく一瞬で消えるみたいね。記
憶が」
「怖くないのか?」
「いや、怖いっていうより……そうね、怖いわ
ね」
「君が臆病な姿を見せるなんて珍しい」
「私にだって、怖いものくらいあるわよ」
そう言って戦士ヘラは震える手で僕の手を強
く握りしめた。
彼女は最後に戦士の敬礼を僕へみせる。彼女
なりの頑張ってくるね、という姿勢なのだろ
う。
彼女の綺麗な体の曲線が夕日に染まり、こん
な状況でありながらとても美しく、愛おしく
感じた。
彼女は総技官と一緒に船へと向かった。
彼女が行ってしまう現実を受け止めれない僕
は情けないことに彼女の去る姿は直帰できな
く、下を向くことしか出来なかった。
もう行っただろうと前を向くと彼女が目の前
に立っていた。もう船へ乗り込んだはずの彼
女、ヘラが。
「おい、もう行くんだろ?技官に何言ってこっ
ち来たんだ……」
僕は出港時間ギリギリに戻ってきた彼女を叱
っていると、彼女は俺の言葉を遮った。
「リト……」
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