第3話 アレクシア
「グーテンモルゲン、おはようございます! ドイツから留学してきましたアレクシア・フォン・シーメンスといいます! 皆さんよろしくお願いしまス」
扉を開けて入ってきた転校生が担任教師に軽く紹介された後、自己紹介が始まる。
アレクシアさんは、ドイツ人らしく典型的な長身の白人美女という感じだ。
金糸のようなブロンドのロングヘアーは教室の照明を反射するだけで黄金のような光を放ち、碧眼は光を写すだけで宝玉のような輝きを帯びる。西洋人らしく彫りの深い顔立ちは、ほとんどメイクしていないのに垢ぬけた感じがした。
その美貌にクラスの視線、むしろ女子の方が釘付けになっていた感じだけど呆けた時間が収まると早速、転校生お約束の質問タイムが始まる。
まっとうな質問から少し下ネタな質問まで。
前者には真摯に、後者には軽く受け流す感じで丁寧に答えていた。
その有様は常に堂々としていて、美貌が嫌味にならないほどのオーラがあった。
自己紹介が終わり、適当な席につく。
それだけで昨日とクラスの雰囲気が違うのがわかる。
彼女を中心として気品にあふれ、且つ夏の海のように明るいオーラが場を支配しているようだ。
休み時間、他のクラスからも人が来て朝聞けなかったことを色々と聞きに来ていた。
教室の端で一人海を眺めているだけの僕には、否応なしにその会話が耳に入ってくる。
「はいはい! アレクシアさんはなんで留学しに来たんですか」
「それは、ヤーパンの文化に触れること。それと、ウチの企業も出資する『聖演武祭』をこの目で見るためでス」
聖演武祭。
それは年に一度開かれる、四菱工業という日本最大企業が主催する大規模な武道の大会だ。剣道やなぎなた、古流の武道などの様々な武道経験者たちが一堂に集まって試合する。
特徴的なのはその試合様式にあり、武器使用あり、打撃あり、投げも急所攻撃もありとかなり実践的なルールになっている。
大怪我を防ぐために参加者は全員、四菱工業が開発した特殊人工知能、通称「マヨイガ」の装着を義務付けられている。
それを装着すると攻撃を受けた場合、衝撃力そのもの・衝撃があった部位が急所であるか否か・装着者の筋肉量などから肉体へのダメージがマヨイガにみ込まれた特殊な演算装置によって自動解析される。
肉体に一定以上のダメージを与えるとマヨイガに判断されると、黒い繭に包まれ試合終了となる。
更に試合中はマヨイガによって肉体を守られ、衝撃や痛みはマヨイガの演算装置を通して脳に送られるだけだ。
これにより痛みを感じても試合後に後遺症を残すことはない。
マヨイガの発明によって格闘技や武道でより安全で実践的な大会が行えるようになり、開発した四菱工業は財閥ともいうべき巨大企業へと変貌した。
本来マヨイガを全世界に宣伝するためのイベントであった前述の聖演武祭は国内外から多くの選手・観客が集まる大イベントへと発展した。
年齢などいくつかの要素によって試合の種類があり、秋に行なわれるのは高校生の部だ。
「聖演武祭に出資してるって…… それすごくない?」
「ウチのクレメンス社も、四菱には劣りますが巨大企業ですかラ。こういったイベントに助力して皆さんが楽しむお手伝いをさせていただきたいのでス」
一瞬、彼女の口調からそれまでの明るさが消えた気がしたが、周囲はそれに気づいた様子はない。ほんの一瞬だったから気づかれなかったのだろう。
「アレクシアさん! どこに住んでるんですか?」
「中島さんの自宅にホームステイしています」
やっぱり、転校してきた美少女が実は主人公の家にホームステイ、なんてありえない。
中島さんといえばこの町の中島工業の家だし、同じ大企業同士つながりがあったのだろう。
最後に彼女は、とても明るい表情で言った。
その瞬間だけは作り上げたような笑いじゃなく、童女のように無垢な笑いを覗かせた。
「それに、日本はサムライの国ですかラ。真のサムライを見に来たのです。憧れですかラ」
そうか。
それなら、聖演武祭でも活躍してる流派の道場でも見学に行くのだろう。
聖演武祭は剣道やなぎなたといったメジャーな武道だけでなく、格闘家、さらには北辰一刀流をはじめとしてメジャーな古流も参加する。
海外の弟子も積極的に受け入れている道場があるし、そこに短期入門するのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます