第27話

企業信用調査


 企業信用調査とは、会社の設立経緯、経営者、経営状態、資産状況、取引先、将来性等を調べる調査であり、対象企業は未上場の中小企業に限られる。上場企業は証券取引法等で情報開示が求められており、この種の調査を必要としない。

通常、企業信用調査の調査方法は、対象となる会社を訪問して、自らの身分を明かして、インタビューをする形式を採る。探偵業界ではこの手法を『直調(ちょくちょう)』と呼び習わしている。

 対象とされた会社は質問に答える義務等は微塵もない。しかし、調査会社が訪れる理由は大体の見当がつく。誰かが依頼したからに他ならない。その誰かとは、当該会社の新規顧客か、その他、何らかの商売上の関連をもつ企業・個人のはずである。

従って、調査を拒否したり、全くのデタラメを回答すると、どういう事態になるかは調査対象となった会社も容易に想像がつく。依頼者から怪しい、何か隠しているのじゃないか?と余計な勘繰りを招いてしまう。

そこで、調査を受ける会社も事情を察知しており、極秘の事項以外は、七、八割程度の正確な情報を提供することになる。若干、正確度において欠けるかも知れないが、何も知らないよりは数段有利である。企業信用調査の存在理由がそこにある。

 現在、企業信用調査については、社名を挙げれば誰でもが知っている大手二社の独壇場となっている。どこの馬の骨とも知れない調査会社などは、企業から相手にされないのだ。

 「『夢想花』の信用調査は、いつものT社に依頼しよう。取引相手とか会社内部に関しては、直接、聞き込みを入れるか、資料に当たってくれ。さっきも言ったけど 必要経費についてはその都度知らせてくれ」


樋山は超有名ロック・バンドのギタリスト


 「了解しました。音楽関係なら多少の人脈がありますから」

 自信ありげな樋山の答えに、倉科が不思議そうに、

 「初耳だね。そんな人脈あったの?」

 「若い時、ロック・バンドのメンバーだったんですよ。名前を聞けば先生でも知っているバンドですよ。まだメジャーにならないインディーズのころですけどね。ギターを弾いていました」

 倉科はバンド名を聞いてびっくりした。世界的に有名なバンドで何度も武道館を満員にしている。

 「ヘーッ! 驚いたね。ホント?」

 「でかくなったのは俺が抜けてからですけどね。共同して作った曲が、今でもアルバムに入っていますよ」

 樋山は昔を思い出すような口調で話した。

 「今でも、メンバーと交流はあるの?」

 「ないですよっ」

 樋山の表情が苦々しく変化した。倉科は余計なことを聞いてしまったかなと悔やんだ。

 「まあ、いろいろあったんですよ。御蔭で大勢の音楽関係者と知り合いになれましたよ」

 樋山がロック・バンドを辞めて鍵屋になるまで、人には言えない苦労があったに違いない。成功したバンド仲間を横目で見ながら…。

 いつもの温和な表情に戻った樋山が、

 「人脈を総動員して調べます。この業界は結構狭いから、『夢想花』の裏事情まで詳しく知っている人物がすぐに見つかると思いますよ」

 樋山の頼もしい言葉を聞きながら、倉科は考えた。

 (この件は、樋山だけに任せておく訳にはいかないなぁ…。亀井綾乃に直接当たって聞いてみようか…。何と言っても彼女を中心にして事件が起こっているのだから…。でも、俺との間で、いろいろ嫌なことが有りすぎたから…。話をしてくれるかなぁ…?)

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