第16話
亀井綾乃と友人二人の怪死
「何を怒っているの? 違うわよ。仲の良かった友達が最近、相次いで亡くなったらしいの。チェロとバイオリンの奏者だけど、倉さん知ってる?」
倉科は綾乃達が結成していた四重奏の会場に何度か足を運んだことがあり、演奏終了後、メンバー四人と食事を共にしたことがあった。
「えっ! 亡くなったの? ふーん。二人とも面識があったよ。多分、彼女と同じバイオリンは名古屋の子で、チェロは福岡、ビオラは横浜だったかなぁ…。病気か何かで?」
倉科の問いに里香が二人の死について、眉の根を寄せて気味悪そうに述べた。
「最初は福岡の人で自殺。次の名古屋の人は自動車事故で、それもたった二か月の間に」
普段から世の出来事を幅広く情報収集し、地方版の新聞さえもネットで閲覧している倉科だったが、二人の死亡事実は把握していなかった。当然のことだが、何らかの事件や重大事故に巻き込まれない限り、テレビや新聞のマスメディア扱いは小さい。まして自殺となると、新聞の地方版ならともかく全国紙やテレビで報道されることは稀である。
「事故と自殺? 事故はよくあることだから、たまたま自殺と重なっただけで単なる偶然じゃないの?」
「私もそう思うけど…。綾乃ちゃんが凄く気にしているの」
里香の言葉を聞いて、倉科は少し思い出したことがあった。綾乃と亡くなった二人は大学時代から姉妹同様の異様に親しい関係を続けていて、綾乃の言葉によれば、三人は強い絆で結ばれていて、どんなことでも打ち明けるし、どんな秘密でも共有するとのことだった。倉科は綾乃と付き合っていた時、いつも二人の存在が気になり、少々気味が悪いと感じていた。
「ビオラの小田貴子さんは仲間じゃないんだ?」
彼女は色白で彫りが深く、とび色の瞳を持っており、一見、アーリア人種系と見紛うほどの美人。
かつて倉科が、綾乃に冗談交じりで小田貴子のことを尋ねると、へへっ、と笑ってはぐらかしながら、
「貴子は少し違うの。私が知っているのは、お父さんが中国人で日本人のお母さんが元男爵の孫なんだって。それから、彼女の自慢は、弟が神奈川県で有名な野球が強い高校で、サウスポー投手だったってことかなぁ……」
倉科は貴子の容貌を思い浮かべて、怪訝そうに、
「なぜあんなに外人風の顔なのかな?」
「よく知らないわ。私が知っているのは、お父さんが横浜で大きな貿易会社を経営しているってことくらいね。それと、彼女の弟が、神奈川県で有名な野球が強い高校で、サウスポー投手だったってことかなぁ……」。ねぇ、サウスポーって何? 変な投げ方でもするの?」
倉科は、綾乃の質問に、そんなことも知らないのかと苦笑しながら、答えた記憶がある。
「左投手のことだよ」
「ふーん。左利きなんだ。私と同じね」との言葉は鮮明に覚えている。
「それじゃ、プロ野球選手にでもなっているの?」
倉科の問いに、
「今は実家の仕事を手伝っていて、海外にいることが多いらしいの。それくらいしか知らないわ」
倉科は、当時のこと鮮明に思いだせる自分に、
(まだ、未練を引きずっているのかなぁ……)と苦笑しながら自問した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます