第2話

ドヤドヤと4、5人の武装警官が隣の車輛から入ってきた。乗客はいつものことなのか皆、平然としている。女性の前に立ち、ロシア語でまくし立てるが、通じない。「パスポート、パスポート」と言っていることが辛うじて分かる。ロシアでは、全ての外国人にパスポート携帯の義務がある。屈強そうな身体をした警官が彼女のパスポートを点検している。指揮官らしい一人が、バッグを指さし英語で、

 「Open! This bag!」

 彼女がバッグのジッパーを開くと、バイオリンとその上に1枚の絵ハガキが出てきた。

図柄は富士山を満開の桜で囲んだ、いかにも日本を連想させるものだった。

 部下達がバッグの検査をしている際に、先の上級警官が、絵葉書に目を通し、

 「Are you Japanese?」

 警察官による偽罰金通告や賄賂の横行を注意されていた彼女は少し怯えた表情を見せながらも、はっきりと答えた。

 「Yes」

 所持品検査を終了した武装警官達は、何事もなかったかのように次の車輛へと移動していった。

 絵葉書の文面……。

『東京はもう秋です。全て解決しました。詳細は貴女宛のEメールで御存知のことと思います。小生のようなアナログ人間は手紙を書かないと落ち着かないので、葉書をだしました。安心して勉学に励んでください。夢に向かって精進している人が、今も昔も、そしてこれからも大好きです。倉科』

 彼女は手にとって一瞥すると大事そうにバイオリンケースにしまい込んだ。

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