第21話 ランクアップ試験と試練


 アオーズの件から二日が経過した朝、俺と唯香はいつものようにギルドに来て依頼を見ていた。その時、



「あっ!ハルさん!ユイさん!お話があるんですけど」



 突然レーネさんに呼ばれたので受付に向かった。



「はい、なんですか?」



「前回の依頼の達成でお二人はCランクにランクアップするための試験を受けることができるようになりましたが、どうしますか?」



「え?そうなんですか?」



「はい!この試験を受け、合格するとCランクにランクアップすることができますよ」



 う~ん、どうするかな。俺たちの目的を達成するためには早くランクを上げて信頼できる冒険者になることが必要だから、ランクを上げることは悪くない。ただあまりにも早すぎると、この間みたいに絡まれたりするかもしれないしな~。



「どうする唯香?試験受ける?」



「うん。出来るだけ早くランクを上げたいから受けたいな。楓ちゃんが心配だし……」



 そうだよな。王都にいる西山たちのことが心配だよな。



 よし!じゃあ、受けるか!



「分かりました。試験を受けます」



「はい!分かりました。では、試験について詳しくお話ししますね……ランクアップの試験はギルドが指定した依頼を試験官と共に受け、依頼を達成し、試験官がそのランクに相当すると認めればクリアです。基本的には試験官は依頼中は手出しをせず、危険だと判断した時にのみ手を貸します。しかし、そうなった場合は試験の終了を意味するので注意してくださいね」



 危険だと判断した場合。つまりそれだけ危険が伴う試験なのか?



 俺と唯香ならまぁ、何とかなるかな。



「それで申し訳ないんですけど、明日の朝7時ごろにギルドに来てくれませんか?」



「え?明日ですか?」



「はい。実はもう一組、試験を受ける人達がいて、その人たちと一緒に受けていただければと思うんですけど」



 他にもいたのか……



 話的に俺たちが後からのようだし、明日は何も予定ないし大丈夫だな。



「分かりました。明日の朝7時ですね」



「はい!お待ちしておりますね」



 その後は、明日ランクアップの試験を受けるということで今日は依頼を受けるのをやめて、準備に当てることにした。



 道具屋でポーションや道具を買って一日を過ごし、そして、翌日……






 俺と唯香は朝7時の5分前くらいにギルドにやってきた。



「おはようございます!ハルさん!ユイさん!」



「おはようございます」



 レーネさんが出迎えてきてくれた。そしてその隣には、




「あれ?カインにリーシア?どうしてここに?」



「ハルにユイ、久しぶり。ここにいるってことは分かるだろ。俺たちが今回のランクアップの試験官だよ」



 そこにいたのは一週間ほど前に「桃花の薬草」の採取の依頼で知り合ったCランク冒険者のカインとリーシアだった。



 二人が今回の試験官だったのか。なら凄くやりやすいな。それとこの前、FランクからEランクにランクアップするときに色々ギルドに言ってくれたみたいだからそのお礼を言っておかないと。



 そのことをカインとリーシアに言うと気にしないでいいと言ってくれた。



「にしても二人ともさすがだね。一週間ほどでDランクにまでランクアップしてCランクになろうとしてるなんて」



「そうね。私たちなんてCランクにランクアップするのに二年はかかったのにね」



 それは勇者としてのステータスがあったからです。とは言えるわけもなく苦笑いを浮かべる俺と唯香。



「そう言えばあと一組いるって聞いたんですけど……」



 話題を変えるためにそう話しを振ったけど、ギルドにいたのはレーネさんとカインとリーシアだけで他の冒険者はいないから気になっていたのは本当だ。



「あぁ……それが、ですね……」



 レーネさんが困った顔をしながらそのあと一組の冒険者について話してくれた。



 なんでもその冒険者たちは二ヵ月でDランクまでランクアップした期待の冒険者だそうだ。しかし、それがその冒険者たちを調子に乗らせてしまい、ここ最近は問題行動ばかりを起こしているらしい。



 問題行動と言ってもアオーズのような犯罪行為に手を染めるんじゃなく、遅刻や依頼の手抜きなどが大半。だから今日も7時集合とは伝えていてもおそらく遅刻してくるだろうというのがレーネさんの意見だ。



 う~ん、なんだろう。



 イキっている高校生・大学生のような印象を受ける冒険者だな。



「たった二ヵ月でDランクになるんだから優秀なのは変わりないんだけどね。ただ、そういった行動をとる冒険者は将来的に苦労することが多い」



「指名依頼が全く来なかったり、良くない噂を広げられたりとかね。だから今回の試験でそれを分からせてあげるのも私たちの仕事と言うわけ」



 なるほど……でも、そんなこと俺らに言っていいのか?と思って聞いてみるとカインは「ハルたちだから大丈夫」と言ってくれた。



 なんか前回の一件からめちゃくちゃ信用されてるな。いいことではあるんだけど……




 それから約30分経った時、ようやくもう一組の冒険者たちがやってきた。男二人、女一人の三人組の冒険者パーティーで、年齢的には全員俺たちと同じくらいだ。



「ういーすっ!」



 遅れてきたにも関わらず、そんな陽気な挨拶をかましてきたのは一番前にいた金髪の髪を逆立てたいかにもチャラ男という男だ。背は170㎝くらいで、武器は腰まである長さの長剣。チャラ男だけどその金髪が似合うくらいにはイケメンな男だ。



「おーはようーございまーーす!」



 そう元気よくあいさつしたのは金髪男の斜め右後ろにいた茶髪の男。身長は俺と同じくらいの165㎝前後で、武器は腰にさしてある二本の短剣。こちらも茶髪が似合うイケメンな男だ。



「遅れてすいませーーん!」



 謝る気がゼロの謝罪の言葉を発したのは金髪男の斜め左後ろにいたオレンジ色の髪の女。腰近くまであるその髪をなびかせ手を振り、ニコニコしながら近付いてくる。しかし、その仕草を許してしまうほどには可愛い美少女だ。身長は唯香と同じくらいで腰には30㎝ほどの小さな杖を携えている。



「お、おはようございます。皆さん、集合は7時と伝えていましたが……」



 そんな態度にさすがに注意をするレーネさん。しかし、



「あ~、そういやそう言ってたな。まぁ、どうでもいいじゃん。そんなことよりレーネちゃん。今晩俺とデートしない?ついでに宿屋に泊まt……」


「いえ、今晩は予定がありますので」



 とレーネさんが即答で断ったことで若干気分を悪くした金髪の男。



「みなさん、こちらが今回試験を受けるもう一組の冒険者、フレイドさん、クロードさん、エリーさんです」



 金髪男がフレイド、茶髪の男がクロード、オレンジ色の髪の女がエリーか。



「で、こちらが今回の試験の試験官をしていただくカインさんとリーシアさん。そして、フレイドさんたちと同様、試験を受けるハルさんとユイさんです」



「カインだ。よろしく」



「リーシアよ。よろしく。それより……フレイド、クロード、エリー。あなたたち集合時間に遅れてきたのにその態度はないんじゃない?」



 さすがにフレイドたちの態度がいけないと思ったリーシアが注意をした。だが、



「あぁ、すんませーん。それよりリーシアちゃん、可愛いね。今度俺とデートしない?」



 全く反省する素振りを見せないフレイド。リーシアの顔を撫でようと手を近付けるが、



 パーン!!



 とリーシアがその手を弾いた。



「ふざけないで。今回私たちは試験官よ。あんまり舐めた口きくと痛い目に合うわよ」



 と、そんなリーシアの態度が気に入らなかったのかフレイドはその陽気な態度を一変させた。



「チッ!雑魚が生意気な口聞いてるんじゃねぇよ。知ってるぜ。あんたらCランクになるまでに二年かかったらしいじゃねぇか。俺たちはたった二ヵ月だぜ?そっちこそ口の利き方に気を付けたほうがいいんじゃねぇか?」



 そのフレイドの態度に「はぁ~~」と深いため息をつくリーシア。その後にカインの方をチラッと見るがカインは何も言うつもりはないらしい。



「まぁ、いいわ。時機に分かると思うから」



 そう言ってさっき言われたことをまったく気にしていない様子のリーシアに呆気にとられるフレイド。



 怒って突っかかってくると思ったのかな?



 この後、流れ的に俺たちも自己紹介する流れだよな。なんか嫌だな。



 まぁ、サクッと終わらすか。



「一緒に試験を受けるハルだ。よろしくな」



「ユイです。よろしくお願いします」



「あぁ、まぁ、よろしく。おっ、よく見れば君も可愛いね。ユイちゃんだっけ?俺とデートしない?」



 こ、こいつ……!!唯香まで口説きやがって……!!



「いえ……」



 あれ?てっきりはっきり断るかと思ったけど……っていうか男にそんなあいまいな態度取ったらダメだろ!!



「そう言わずにさ……」



 断ったにも関わらず唯香にしつこく絡んでくるフレイド。



 ―――すっげーーモヤモヤするんだけど!!!



 見てられなくて唯香とフレイドの間に割って入る。



「あぁ、なんだよ、お前」



「ユイをナンパするのはやめろ。俺の……彼女なんだから」



「はあ?……ああ、なるほど……」



 何かを納得したフレイド。なんだよ、その顔!



 その場に気まずい空気が流れる。



「まぁ、ここで言いあっても仕方ない。ただでさえ遅れてるんだ。さっそく出発しよう」



 そんな中、カインのその一言でギルドを後にした。




 うん、俺こいつら苦手……というか嫌いだな。


















 今回の依頼は、イクシオンから北に行ったところにある村の周辺の調査の依頼。なんでもその村では最近奇妙なことが起こっているらしい。



 その原因を調べるのが今回の依頼でその原因を突き止めれば試験クリアらしい。なんでそんな依頼を試験の内容に選んだのかとカインに聞くと、



「Cランク以上になると自力で調べなきゃいけない依頼も出てくる。遺跡の調査とかね。だから、この依頼を試験に選んだんだ」



 なるほど。そういった調査能力も必要だからこそか……そんなことを聞きながら村を目指しているんだけど……



「ねぇねぇ、ユイちゃん。こんな男よりか俺と付き合わない?絶対その方が楽しいよ」



「フレイドは強引にいきすぎだよ。もう少し時間をかけてからの方がいい。ということでユイちゃん、僕と食事からでも一緒にしない?」



 お前ら何しに来たんだよ!!!



 さっきからずっとこれだ。隙あらばフレイドとクロードが唯香のことを口説いている。毎回注意をしているけど全く聞かない。



 それに唯香も唯香だ。はっきり断わればいいのに毎回黙り込んでる。あれじゃ絡んでくるに決まってるだろ。



 そんな光景に見かねたのかリーシアが唯香とエリーに近づき、



「ねぇ、ユイにエリー。私と一緒に話しをしない?女の子だけの話し合い」



「え?う、うん」



「別にいいけど……」



 そう言って俺たちと少し離れていく。さすがにその中に入っていくことはなく、フレイドとクロードは村に着くまで大人しくしていた。女子三人も最初は静かだったけどだんだん楽しく話をしてたし。




 グッジョブ!リーシア!!

















 昼前くらいにその村に到着し、村長に事情を聞く。数日前から村の周辺で作物が荒らされたり、木々がなぎ倒されたりしているらしい。



 おまけに昨日は何かの死体と思わしき残骸があったとか……



 なんか気味悪いな。



 ともかく、さっそく村長からの話を元に調査を開始する。と言ってもほぼ情報がないからどうするかの話し合いからだけどな。



「さて、どうする?」



 今回の依頼でカインとリーシアはあくまで試験官と言う立場。だからこそ依頼についての口出しは基本することがなく、全て自分たちで決めなければならない。



 そのため一応フレイドたちにもどうするかの意見を求める。が……



「別に適当でいいんじゃね?」



「まぁ、村の周辺が荒らされて死体もあるってことはどうせモンスターの仕業だろうからね。僕たちの力なら余裕でしょ」



「そうね。私たちなら楽勝でしょ」



 こいつら……まともにやる気ないな……



「ねぇ、ハルくんはどう思う?」



「う~ん……普通のモンスターだったら流石に村の人達もその存在に気付いていると思う。村の人達が気付いてないなら夜行性のモンスターか特殊な能力を持つモンスター。でも、死体があったのに村の人達に被害が出てないから一概にモンスターの所為とも言えない。もしかすると人の犯行とかもあり得ると思ってるよ」



「うん。そうだよね。私もそう思う」



 どうやら唯香も同じ意見らしい。調査なんだから最初からモンスターの所為と決めつけるのはダメ。いろいろな可能性を考えとかないと……



「はぁ?何言ってんだお前?こんなことするのはモンスターしかいねぇだろ?」



「いろいろな可能性を考えないといけないだろ。今回の依頼の内容は異変の調査なんだから」



「君のその考えは素人同然の考えだよ。ハルって冒険者の名前も聞いたことがなかったし……あれかな、今までずっと低ランク帯にいてつい最近Dランクになった人かな?」



「あぁ、それなら納得だ。モンスターとの戦闘の依頼をほとんどやってねぇんじゃ素人同然だしな。まぁ、ここは優秀な俺たちに任せときな」



「そうそう……ユイちゃんもこんな人といないで僕たちと一緒に居ようよ」



 こいつら!本当に言いたい放題だな!!というかつい最近Dランクになったのはお前たちもだろ!!あといちいち唯香を口説くな!!



「そうだな!その方がいいぜ」



 そう言い、唯香の肩に手を回そうとするフレイド。



 そんなことさせねぇよ!!!



 咄嗟に唯香の手を掴み、フレイドたちから距離をとる。



「おい!どこいくんだよ!」



 その声を聞かずに俺はどんどん唯香を連れて村の外の方に進んでいく。





















 くっそ!なんだよ!




 あいつらが唯香に絡むたびに胸がムカムカして、嫌な気分になる。どんどんムカついてくる。




 唯香も唯香だ。何であんな態度取るんだよ!!




「ね、ねぇ。春樹くん。その~、怒ってる?」



「なにが?」



 ムカムカしてつい強めの口調で言ってしまう。そんな風に言ってはダメだと分かっていても……



「ごめんなさい……私の態度が原因だよね」



 俺は立ち止まって唯香の方を振り向く。



「その……私苦手なの。ああいう人たち……中三の時のことを思い出しちゃうから」



 中学三年。唯香が高校生に絡まれたときのことか?確かにあの時にいた高校生もフレイドたちのように金髪に髪を染めたりしててチャラい集団だったな。



「あの時は本当に怖かった……でも、春樹くんはその時助けてくれた。そして今回も……ギルドで私を助けてくれて、彼女って言ってくれてすごく嬉しかった。それで、その~、黙っていればまた、春樹くんが助けてくれるんじゃないかって思って……ついそういう態度をとっちゃった」



 唯香は俯いていて、その表情を見せない。でも、その声は震えている。



「でも、リーシアに注意されたの。それはダメだって。自分でちゃんと言わなきゃいけないって…………そんなことをしていると春樹くんに嫌われるって」



 そんな話をしてたのか。っていうか俺が唯香を嫌いになるわけがない。



 でも……さっきは凄くムカムカしてたし、唯香に八つ当たりのようないい方しちゃったし……



 これじゃあまるで嫉妬してるみたいじゃ……



 …………




 そっか俺、嫉妬してたのか……



 なんだろ。ラノベとか読んでたらそんなことすぐに気付くだろ!って思ってたけど、分かんないもんだな。



「だから……ごめんなさい!私の態度のせいで春樹くんに嫌な思いさせちゃって……私ってほんとダメだね……春樹くんの力になりたいって思ってついてきたのにずっと春樹くんに助けられてばかりで」



「ううん。俺の方こそごめん。さっきは強く言ったりして……嫉妬してたんだ……フレイドたちってイケメンだからさ。唯香がとられちゃうんじゃないかって……俺って独占欲強かったんだな」



「独占欲……だとしたら私は嬉しいかな」



 唯香が顔を赤くしながら呟く。俺も嬉しいよ。だってさ……唯香がそう言う態度をとったのって頼ってくれたってことだろ。それに……



「それに唯香は俺の助けになってるよ。傍にいてくれるだけで安心するし、幸せな気持ちになれる。苦しいはずの冒険者生活が楽しくなってる。もちろんそれだけじゃなくて、冒険者としても頼りになって助かってるよ」



「でも、それだけじゃ……私も春樹くんのために何かしたい」




「だったらさ……」



 自分の口から言わないといけない。それは俺も同じだ。だから……



「あのチャラいフレイドたちにキッパリ言ってやってよ」



 その言葉を聞いて唯香は満面の笑みを浮かべ



「うん!分かった!!キッパリ言うね」



 そう言った。




 そして、お互いに笑いあう。




 なんだろ。少しのことでイライラしたり、嬉しくなったり……




 でも、一つだけ言えることがある。





「唯香。好きだよ」




「私も……大好きです」

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