吸血鬼の住む森、彼らの王を倒すために訪れた夜族狩りの男と、その案内を買って出た美しい男のお話。
耽美も耽美、とにかくただひたすらに美しい異世界ファンタジーです。耽美小説というのか、平たくいうならいわゆるBL的なお話。まずもってファンタジーとしての世界を支える設定がうまいというか、単純にざっと眺めただけでも雰囲気バリバリなのがもうとんでもない。
不死者たる吸血鬼に、それと人との混血たる夜族狩り(ダムピール)。主人公はこの夜族狩りであり、吸血鬼の王である死月王とまみえようと深い森を訪れる。そこで出会った銀髪の男に案内され、連れ立って森の中を進んでゆく——というのが序盤のお話の筋で、もうこの時点ですでにワクワクが止まりません。いやこの要約ではあんまりピンとこないかもですけど、それは裏を返せばその〝要約の際に削られた細やかな部分〟が本当に神懸かっているということで、ただ文字を目で追っかけているだけでとっぷり浸れるんです。
単純に設定の魅力、道具立てのうまさと言えなくもないのですけれど。でもそれらを用語としての手触りや言い回しの機微だけでなく、語り方やその順番、タイミングまで気を配って、そこまできっちり詰めてこそのこの没入感。設定としての世界だけでなく世界観まで共有させてくれるような、このゾクゾクする美しさが本当にクセになります。
あとはこう、その、どうしても触れずにはおれない最大にして最高の魅力なんですけど、どうしてこんなに官能的なんでしょう……。いやもう、本当、こればっかりは言葉になりません。よくスラング的に「えっちだ……」なんて言ったりしますけど、本当にそれ。そのもの。いやふざけているようにも見えそうで困ったんですけど、だって本当にそうなんですもの。たぶん年齢制限とかそういうのはいらないと思うのですけれど、いらない書き方でなんでこんなに……? なんでしょう、なんだか描いてて恥ずかしくなってきました。逆説、恥ずかしくておたおたしてしまうくらいには官能的です。生々しく迫力のある人間の濃艶。
中盤あたりからあらわになってくる、この物語のもうひとつの(というか本当の)顔、荒涼として血なまぐさい雰囲気も魅力的です。特に森の深部に踏み入ってからの展開、夜族狩りとしての面が存分に出てくる場面の数々。ダークファンタジーというのか、重く救いのない地獄みたいなものがどんどこ重なってきて、その上で辿り着く物語の真相と結末。その分厚さというか、揺さぶりの幅がすごい。情緒をガッチャガチャにかき乱されました。なんかどうしても設定や雰囲気みたいなところにばかり触れてしまいますけど、結局それらが本当に突き刺さってくるのは、物語の屋台骨がしっかりしているからだと思います。なんだか骨太さを感じるストーリー。
凄かったです。というかもう、濃かった。空気感の分厚さにメタメタに当てられた感じ。総じて退廃的な空気と圧倒的な耽美の嬉しい、濃厚な艶を感じる物語でした。ドッキドキですよ!