第22話 少し様子がおかしい

 オークロードがいるという森へと辿り着いた。


 こちらの戦力は、カルズの街の騎士団が五十人ほど、カルズのギルドを拠点としている冒険者もそれとほぼ同数。

 王都から応援にきた冒険者たちが三十名ほどで、俺たち騎士学院の生徒が十一名。

 つまり全部で百五十人弱といったところだろう。


 一方のオークの群れは百五十体以上いると推定されている。

 ただしその大半が危険度Dの通常のオークだという。


 女領主イザベラの指示で、騎士団の一部を除く戦力が、森を取り囲むように配置された。

 合図とともに一斉に森の中へ攻め込む手はずだった。


 オークの群れに全方位から奇襲を仕掛け、分散させる作戦だ。

 そして護衛が手薄になったところで、イザベラ自らが率いる騎士団の精鋭部隊約二十人が突撃し、一気にオークロードを討つという。


 空に向かって彩煙弾が打ち上げられた。

 あれが合図だ。


「よし行くぞ」

「ええ」

「うんっ」

「ばうばう!」


 俺たちは所定の場所から森の中へと入っていった。


「はっ、隙あれば俺たちがオークロードを倒しちまおうぜ」

「ああ。たまたま俺らがいる方に襲いかかってきたって言っておけばいいだろ」


 と息巻いて、どんどん先へと進んでいくのは、領主イザベラと言い合っていた連中である。

 騎士学院の実技授業でクラスⅠに所属しているだけあって、自信があるのだろう。


「この間、ユニットで危険度Bの魔物を討伐したって自慢してたからね」


 と、同じクラスに属しているクルシェ。

 それが本当ならば、実力的には冒険者のBランクパーティに匹敵しているだろう。

 オークロード単体なら倒せるかもしれない。


「だが、周りのオークも相手にしないといけない。だからこそ騎士団も、群れを分散させるために外部戦力を頼ったんだ」


 勢いに乗っているときほど、人間は驕り易い。

 その結果、自分たちの実力を見誤り、手痛いしっぺ返しを喰らうことになるのだ。


 若い頃はそうした経験も重要なのだが……問題は、場合によっては取り返しがつかないような事態に陥ることも多々あるということだろう。

 死んでしまったら経験もクソもないしな。


「クルシェ、クウにあいつらの匂いを覚えさせておいてくれ」

「うん、分かった」


 もしもの場合はいつでも加勢できるようにしておこう。


「っ……がうがう!」


 クウが何かに気づいて咆え出した。


「敵が近いみたい。しかも数体がまとまってるっぽいよ」


 俺たちはすぐに戦闘できる準備を整え、息を潜めた。

 大半が危険度Dのオークというが、複数いるなら油断は禁物だ。


 やがてオークたちと会敵する。


「ブヒィッ!」

「ブホッ!」

「ブルルッ!」

「ブヒヒ!」


 四体のオークが鼻を鳴らしながら襲い掛かってきた。

 てか、やたらとデカいな、こいつら?

 オークは人間より一回り以上は巨漢だが、これはそれよりもう一回りは大きい気がするぞ?


「任せて! 影縛(シャドウバインド)!」

「「「ブッ!?」」」


 クルシェがオークたちの影を使って、その動きを封じる。

 さらにアリアが紅炎を振るい、


「焼き豚になりなさい」

「「「ブギャアアアッ!?」」」


 断末魔の悲鳴を上げ、灰と化す四体のオーク。

 クルシェが少し残念そうに呟く。


「……ちゃんと肉が残ればいいのに」


 魔物は死んだら灰になるので、焼いても焼き豚にはならないのだ。

 どのみちオークの肉なんてあまり喰いたくないけどな……。


 ちなみに森の中で炎を使うと山火事になりそうだが、そこはアリアが上手くコントロールしているので、そんな心配は要らない。


「なんだか、随分と大きかったね?」

「ええ。もしかして今のはハイオークかしら?」


 危険度Cのハイオーク。

 オークロードがいるのなら、ハイオークが居てもおかしくはなく、実際、十体以上はいるだろうと予測されていた。


「だが、いきなり遭遇した上に四体も、というのは少々変だな」


 俺が嫌な予感を覚えた、そのときだった。


「冗談じゃねぇぞ!」

「何でハイオークばっかなんだよ!?」


 前方からそんな叫び声が聞こえてくる。

 オークのものと思しき雄叫びも。

 恐らく威勢よく先行していったユニットが交戦しているのだろう。


 クウの嗅覚にも頼りつつ、俺たちはすぐに声がする方向へと走った。


「これは……」


 案の定、あれだけ自信満々だった彼らが大いに苦戦していた。

 しかしそれも無理はない。

 先ほどのハイオークより、さらに巨漢のオークがいたのだ。


「オークジェネラルか……」


 せいぜい数体ほどと見られていたはずの危険度Bのオークジェネラルと、まさかこんなに簡単に遭遇してしまうとは思わなかった。

 しかも六体ものハイオークを引き連れているとあっては、Aランクパーティに相当する実力のあるユニットでも、劣勢に陥るのも仕方のないことだろう。


「加勢するよ!」

「っ、お前らっ……」


 彼らは嫌そうに顔を顰めたが、さすがに自分たちの現状を把握できないほど愚かではなかったようだ。


「ならハイオークどもを頼む! 俺たちはオークジェネラルをやる!」


 ……ただし最大の獲物は自分たちで処理して、プライドを保とうとしたが。

 まぁオークジェネラル一体なら彼らだけでどうにかなるだろう。


 案の定、それほど時間がかからずに討伐することができた。


「しかし明らかにおかしいな」

「そうね」


 俺の呟きに、アリアが応じてくる。


「たまたまこっちに強いオークたちが偏っていたというのなら良いんだけど……これがもし、森全体に当て嵌まるとしたら……。どう考えてもオークロードの群れの規模じゃないわ」


 そのとき悪い予想を裏づけるかのように、リューナから念話が来た。


『ルーカス殿、少し様子がおかしい。推定されていたより、明らかにハイオークの数が多いように思う』

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