第6話(夢)

 また、憂鬱な一日が始まった。私はベッドからは起き上がらずそのまま天井を見つめ続ける。これから我が家の騒々しい一日が始まる。母は朝の支度に、父は仕事の準備に、弟は寝坊助でこの時間にはまだ起きて来ない。私はというと、もちろんベッドからも起きないし、ましてやこの部屋からも、家からも出ようとは思はない。面倒くさいし、何より外の世界は私にとって情報が多く鬱陶しい。聞こえる音も、見える景色も、気をつけないといけない情報も、自分で考えて体を動かすことも、全てが面倒だ。出来るならずっと家で安全にごろごろしていたい。今は両親が私の面倒を見てくれるけど、この生活がずっと永遠に続くわけではないだろう。そしたら、私もその現実に逆らうことなく、そのまま私は野垂れ死ぬ。

 何を甘えたことを言っているんだこいつと思われるかも知れないが、私は生き続けることに、早くも疲れていた。私には何もない。生きる目標も、夢も、そして才能も。学校に行ってはみたものの勉強にはついていけず、運動神経はよくない。遊びの鬼ごっこで一度鬼になってしまえば、私は誰にも追いつくことはできず、日が暮れるまで一人鬼をやり続けた。速く走る努力をしても速く走れない。毎日走ってもみんなとの差は離れる一方だった。

 勉強に関しては出来なさすぎて、父と母からも見放された。何も出来ない自分が悔しかった。唯一、心の支えになったのが、魔術の本である。父も母も魔術師である。この家には至るとこにろに本棚があり、びっしりと魔術関連の本で埋まっていた。私の部屋にも、当たり前のように子供向けの魔術の本が用意されていた。私は部屋に引きこもっている間、とにかく魔術の本を読んだ。魔術とはいかに崇高で高貴なものか事細かく記されていた。ぶっちゃけいうとそういう文章や歴史に興味はなかった。私が興味を持ったのは一つ。魔術の術式。複雑な模様で描かれた図形は私を虜にした。

 どうやって描こうか、どこに描こうか、悩んでいると自分の体内に刻む事は出来ないかと知恵を振り絞って試してみた。体の魔素を消費したところ体に刻むことに成功した。最初の数日は、魔素の消失によって私は何度か意識を失った。しばらく時間が経つと、一日中術式を刻んでいていも意識を失うようなことはなくなり、時間を忘れて作業に没頭した。そうして、私は自分の部屋から出るのをやめた。

 術式を体に刻むのは痛かった。皮膚が焼けたようにヒリヒリする。続けたくはない。だけど学校の勉強や、体を動かすことよりも楽しかった。体に刻めば刻むほど、体力の消費を感じて術式が増えていくことに満足感を覚える。刻んだ術式の数は数百を越えた。だけど、この術式が正確に発動するのかどうか確かめる術はない。体の内側、しかも想像で描いているのだから、確かめるには体を解剖して中身を見る以外に確認する方法は存在しない。唯一、正しいか確認するには体に刻んだ術式が正常に動けば私の苦労も報われる。私の術式が正しく確認のための術式も開発して、懲りずに体に刻んだ。一度完成すればこれ以上の作業はいらない。終わらせたくない、私はこの現実で十分。ずっと術式を刻んでずっと家にいる。根本の術式は完全に理解した。複雑で難解な術式もなんなく書ける。これではずっと遊べない。だから、私はわざと正常に動かないように術式を改造し複雑にした。これならずっと遊んでいられる。私は部屋に引きこもって何年も一人で術式と戯れた。

 まさしく術式漬けの生活だった。寝るまも、遊ぶまも、勉強するまも、ご飯を食べるまも、ひたすら体に術式を刻み続ける。朝も夜も、今日が何日かもわからず、四季もあっという間に一年とまた一年と何年も過ぎ去り、今に至る。

 ここ最近、私にとって人生の転機があった。十歳で受ける魔素の適性検査の結果が想像を超えて良かった。関係者も両親も魔術都市の入学を勧めてきた。数年ぶりに両親と話したというのに、私はあまり嬉しくなかった。魔術都市の入学に私は乗り気ではない。面倒臭いし、そもそも魔術としで学びたい分野がない。今更、誰かから魔術を教わろうとは思わなかった。

 魔術の基礎知識はこの家で培った。魔術の数も、魔素の基準も知っている。家にある魔術に関連する本は全て読み尽くした。私は自分の部屋にあった数十冊の本だけでは飽き足らず、父と母がいない時間を見計らって書斎から盗み出した。隙間があるとすぐに気づかれてバレてしまうだろうと思った私は自分の部屋にある本を代わりに挿しておいた。運が良かったのか、幸いにも父と母からは注意を受けずに済んでいる。書斎にあった本の中には専門書や家宝の魔術書もあった。理解できない箇所は理解できるまで何度も読み返すことで術式の方はどうにかなった。だけど、他の文章や説明は理解不能。

 そろそろ、私の術式も大詰め。長年取り組んでいた大きな術式があと一行程で完成してしまう。これまで多くの術式を体に刻んできた。術式一つ一つに魔術を宿している。だが、今取り掛かっている術式は違う。それら全てを一つにまとめ、なおかつ任意で選んた術式を複数、もしくは個別に発動できるという画期的な術式を描き始めた。この術式にかけた年数は三年。とうとう完成かと思うと心が躍るどるよりも先に、また孤独の生活に逆戻りかと思う方がどちらかと強い。魔術と術式はいわば友達。術式が違えば魔術は発動しないし、正しければ魔術が発動する。魔術のここが不安定だよ、術式が違うよとは声に出して教えてくれる訳じゃないけどそんな魔術的なやり取りが私は好きだった。その度、私は頭を使って、魔術の構築を見直し、術式に間違いがないか念入りに頭の中で確認した。そんなやりとりも、もうお終い。今の気分は魔術人生で過去一番の最悪。最後の仕上げが失敗すればいいのにと神に願うばかりだ。そうすれば、また元の生活に戻れる。だけど理論上、失敗する可能性は無に等しい。これで私の術式生活も終わりだ。

「はあ」

 私は珍しくため息をつく。魔術のことばかり考え続けたこの頭には、ため息すら余分だ。私にため息をさせるほど幾分か、私には余裕ができたらしい。

 朝もだいぶ時間がたった。そろそろこの家でただ一人、私を気にかけてくれる家族がやってくる。

 私の部屋のドアを強く叩く音と同時に弟の大声が私の部屋に鳴り響いいた。ドア越しからもはっきり聞こえるその声を聞いて一日を始まりを認識する。

「ねえちゃん、ごはんだよ。ねえちゃん、ご、は、ん!」

 弟がやってきた。弟には損な役回りだと思う。毎日必ずご飯を私の部屋まで持ってきてくれる。家に引きこもった姉をもつ弟には私も同情する。正直、申し訳なく自分がとても情けなかった。私はベッドから出て、ドアの近くまで立ち寄り、屈んで返事をした。

「ドアの前においといて」

 素っ気なくいつものように対応した。

「わかった。置いておくね」

「うん、いつもありがとう」

 そう言って、ドタドタ階段を降りる音が部屋中に鳴り響く。

 たった数十秒のやりとり。次に弟が来るのは日が暮れた時。お昼を食べない私には、一日で家族に接するのはたった二回しかない。それだけでも、私は十分幸せを感じられた。

 弟に一番迷惑をかけていると分かっていても、私にとってこの時間は家族である唯一の時間だった。そんな時間を魔術都市に行ってしまえば、失ってしまう。ただでさえ家族との繋がりが弟しかいない私にとって、弟と離れ離れになるというのは、家族を失うこと同然。

 この家に住所は存在しないため郵便物での届け物や連絡はできない。この辺の地域ではお隣さん同士が、挨拶や余り物を配って立ち話をするくらいに、外部との情報伝達は限られている。本当に田舎すぎて笑っちゃうほど不便だ。別の考えられる方法としては、使い魔を使役して連絡をする手段もあるだろうけど、そもそも事前に使い魔を寄越すことを知らせることも難しいだろうから却下。小型の使い魔では手紙の大きさが限られるし、大型の使い魔では討伐される可能性がある。私一人ではいい案は浮かばない。

 弟が私が思う最も信頼できる唯一の家族なのだ。そんな弟から離れたくないという子供みたいな理由で、私は魔術都市に入学することを拒み続けた。


 そんな、拒み続けたある日の昼。珍しく弟がやってきた。ドアを叩きもせず澄み渡る声で優しく話し始めた。

「ねえちゃん、見せたいものがあるんだ。ちょっとお出かけしようよ」

「外に出るの面倒くさい。それに外に出る理由もない」

 私はベッドの上で術式と頭の中で遊んでいた。

 私と出かけるにはまずは、この第一の扉。そして、外に出るための第二の扉。この二つの扉を越えなくてはいけない。私は捻くれ者だ。気分を害せば、そこまで。今日は絶対に一歩も外には出ない。

「そっか残念。それと一つねえちゃんに知らせたいことがある」

「なに?」

 何故かこの時とても嫌な予感を感じた。

「朝と夜のご飯は決まった時間に置いておく。ねえちゃんとはもう挨拶をしない。それだけ、じゃあ」

 それを聞いた私は、考えるまもなく自分の部屋の扉を勢いよく開けた。

「待って、出かける」

「分かった。ちょっと歩くけど俺についてきて」

 弟は嬉しそうに笑っていた。私の髪はボサボサ、爪先は手入れしてないせいで所々かけて、洋服は擦り切れている。顔はきっと目は充血して、濃いクマがあって酷い顔だと思う。身支度せずこの格好のまま、私たち二人は外に出た。

 

 ***


「そろそろ、着くよ」

「はあ……はあ……」

 弟は涼しい顔で荒れた道を突き進む。私はというと息も絶え絶えで、汗まみれ。久しぶりに外に出て体を動かすとはいえ随分と衰えている。十三歳とは思えない体力の無さである。楽をしていいなら、私は迷わず魔術を使う。だけど、弟は魔術を使った形跡はない。この長く荒れた道を若さと体力で進んでいる。そう、思うと悔しくて魔術を使わず、自分の力でついて行こうと決心した。

 もう、そろそろ歩いて一時間を超えるくらい。私の体力は限界に近づいていた。足は棒のように攣りそう。帰りは絶対魔術を使って楽してやる。

 そろそろ着くよと、言う割には体感で十分以上歩いているような感覚がする。全然、そろそろ着かない。ここまで特に話もせず黙々と歩いてきた。これといって楽しみはない。むしろ、人が来なさそうな道のため魔獣に遭遇しないか心配で緊張している。弟曰く、『出会ってもなんとかなるから大丈夫。この辺の魔獣でやばいやつとも戦ったけど弱かった』と話す。弟の年齢は十一歳。いつからそんな、頼もしいこと言えるようになったお前と心の中でツッコミをする。

 ようやく、終わりだろうか。目の前に葉っぱと蔦で出来た緑の壁が現れた。弟が先に進み、段差を登る。緑の葉っぱの垣根を分けると、そこには一面に赤い花が咲き誇っていた。

「さあ、着いたよ」

 弟が手を差し伸べた。初めて触った弟の手は少しゴツゴツしている。最後にあった大きな段差を弟の力を借りて登った。段差を上ったと同時に立ち上がって周囲を見渡す。

「わあ……綺麗……」

 私はそんな簡単な感想しか答えられなかった。目の前に広がる一面真っ赤な花弁に私は圧倒された。これほど、緑の草が見えないほど密集した赤い花は中々お目にかかれない。自然のみならず人の手が施されているのではないかと疑った。物好きな人がわざわざお花の株を植えて美しい景色を管理してるという話をどこかで読んだ気がする。こんな景色を人の手を加えずに実現されたことに驚きを隠せない。この世界の神秘の一つに数えてもなんら不思議じゃない。それほど緻密で計算された自然の術式ががここにはあった。

「凄いだろう。この時期にしか咲かない特別なお花なんだ」

「名前は何ていうの?」

「花の名前はアネモス。遠い昔の言葉では風を意味するんだ」

「そうなんだ、詳しいんだね」

「当たり前だろ。俺はこの場所とこの花が好きなんだから」

「どうして好きなの?」

「花の色が好きだから。春の決まった時期にしか咲かない。土壌に含まれる赤い魔素を沢山吸い取って、綺麗な赤い花を咲かせる。この花はとても育てるのが難しいんだ。夏は暑くてすぐ枯れてしまう。冬は寒すぎると咲かない。水をあげずに一定期間休ませて乾燥させないと芽も出ないんだ。人が管理するには手間暇がものすごくかかる」

「育てようと試したの?」

「うん、この景色を広げたくて、でもダメだった」

「それは残念だったね」

「でも良いんだ。俺はねえちゃんをこの場所に連れて来れたから」

「そっか。ありがとう」

 そう言うと弟は嬉しそうにはにかんだ。

「どういたしまして。これを見て少しでも世界の広さを知れれたら」

「これが世界の全てじゃないの?」

「もちろんさ。世界はもっと広くて神秘に満ちている。それこそ、この美しく赤く咲く花以外にも沢山の花が世界にはあっちこっちあるんだ」

「そうなの?」

「そうだよ。雷を吸う黄色く太陽のような花、冬の時期にだけ咲く氷で出来た花、溶岩地帯にだけ生息する紅蓮に燃える花、猛毒の湖にだけ咲くきれいな紫色に発光する花。まんげつの日にだけ咲く白い花もあれば、別れと出会いの季節に咲くピンク色の花も存在する。すごいと思わないかい? これだけの美しい花が存在して、誰もがその景色を見ようと冒険をするんだ。俺はそんな美しい冒険をしたい。でも、そんな場所には危険はいつだってつきものだ。俺は魔術は得意じゃないから、もっと魔術の勉強をする」

 弟が熱心に語る説明を私は真剣に聞いた。

「そんな言うほど、魔術苦手?」

「そりゃさあ、ねえちゃんに比べたらね。ねえちゃんは魔術の才能がある。ねえちゃんはこの世界で一番賢い魔術師だと思う。この世界の叡智を集めてもねえちゃんの魔術の才能には誰にも敵わない。そんな、ねえちゃんと魔術を比べて超えれば、俺はどこにだっていける気がする。そしたら、世界中の沢山の花を見てねえちゃんに自慢できるし、たとえ危険なところに言ってもねえちゃんを守ってあげられる。だからさ、おねえちゃんが学園で一番になってよ。そしたら、俺と魔術を競って欲しい。世界一の学園で一番の魔術師と戦えば俺も自信がつきそうだ。勝ち負けは気にしない。俺はねえちゃんに必死でくらいつく。本気で戦って、そんでもってお互い讃えあって、そしてまたこの花畑を一緒に見よう」

 私にとってこれが初めての約束だった。両親とも友達ともしたことはない。お家で破っちゃった約束も、先生に内緒にしないといけない友情の約束もしたことはない。些細な約束も重要な約束も私には関係ない。

「うん、わかった。約束。私、トリスと離ればれになりたくなかった。でも、この約束があれば私は安心できる。これで家族との絆も心配いらないわ。私魔術学園に入学する」

 私はこの約束を絶対に守ろうと自分に誓った。魔術としで私は一番になる。

 トリスは今日初めて私に笑顔を見せた。それに釣られて私も笑った。

「やっと笑った。俺はねえちゃんの笑った顔が好きだ。受け入れてくれて。俺も一安心だ。早くねえちゃんに自立して欲しかったからよかったよ。約束しよう。俺も頑張るから。絶対魔術で競おうね」

 さりげなく私の表情を褒めてくれたことは嬉しかった。私もトリスの笑顔が好きだ。トリスの強さも羨ましい。うかうかしてられない。魔術もきっとすぐに置いていかれちゃうかもしれい。トリスに抜かれるなら諦めもつく。私が出来るのは約束も守ること。そして魔術を頑張ること。

「うん、ありがとう。私も頑張るから。あ、そうだ。この綺麗な花を摘んでもいいかな?」

 この花を束ねて花束を作ってみようかと柄にもなく、女の子らしいことをしようと考えた。きっとトリスも喜んでくれるはず。

「何か作るの?」

「ないしょ」

「それじゃあ、花を摘んで欲しくはないかな」

「どうして?」

「いつこの景色が見れなくなるか分からないから。この場所はね、世界の神秘が集約した場所。この景色は俺たち二人とか、誰かのものとか、そんなんじゃない。だから手を加えないでそのままそっとしておいてあげて。そうすればまた一緒に見れるから」

「わかった。じゃあ我慢する」

「でも、それだと寂しいよね」

 トリスはそう言って、アネモスの花を一つ摘む。少し萎んだ赤い花びら。もうすぐこの花が枯れると知ってその花を選んだのだろう。綺麗な花じゃないけど、私にくれた花は特別、綺麗に見える。

「花は女性からじゃなくて、男から送りたいからね。一度だけでいいかから格好つけさせて」

 そう言って照れ臭そに、私の目の前に向けられた。

「ありがとう。絶対に忘れない」

「俺もだ。久しぶりにねえちゃんの笑顔が見れてよかった、長居は無用だから、そろそろ帰ろうか」

 さらっと嬉しいことを言ってくれたが、私は気にせず聞き流した。

「うん!」

 赤い花が咲き誇る美しい場所。この場所でした約束を絶対に忘れない。弟との初めての約束。そして私自身の初めての約束。何としてもこの約束は、自分で叶えければならい。そうして、私はこの約束を果たすために自分にも約束をした。


 私は次の日、朝早く起きて、久しぶりに身支度を始めた。ぼさぼさの髪を念入りに櫛で整えて。寝巻きから、普段着に着替えた。

 最後にずっとほったらかしにしていた術式の最後の仕上げに取り掛かる。一分もたたずに終わった。魔素を術式に充填する。すると体が淡く赤い色に発光した。腕や脚、指には、今まで体に刻んだ数百、数千にも及ぶ魔術の術式が浮かび上がる。術式を刻んでない場所はないんじゃないかと思うくらい全身にある。

「成功」

 思わず私は口にしていた。心の底から嬉しさが溢れてくる。今すぐ魔術を試してみたいけど、それは、本当に必要な時にとっておこう。この魔術は一生に一度しか使えない特別な魔術だ。もし、一度使って再現しようにも難解に作り過ぎて、八割程しか戻せないだろう。残りの二割の部分は核心に迫る部分だからその都度書き換えないといけない。

 魔術の準備は万端。朝はみんながご飯を食べている時間。いざ、部屋を出ようとすると緊張で足がすくみ、手が震える。ドアノブに手をかけて回して開けようと思っても手汗が酷くて上手く回せず開けれない。私は深呼吸をして、目を閉じた。トリスの笑った顔を思い浮かべてドアノブを回すと上手く回せた。

 私は自分の部屋から出て、階段を降りて食卓に向かう。食卓には数年ぶりに全員の顔ぶれが揃った。母は泣き。父は手が止まり持っていた食器を床に落とす。

 私は気にせず自分のことを両親に伝えるのに必死で、そこまでの気遣いは出来ない。精一杯思いを込めて伝えた。


「父様、母様。ご迷惑をかけました。私入学します。魔術都市に入学します」

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