第78話 予感-2
オテロウは僕の頼みを聞いて、意外にもかなり渋った。
「山風さん、微量金属の生産データも、それから配合データも資料室にきっちり保管されているはずです。居住地域も『開拓団』に移したはずだ。それ以上にコミュニケーションを彼らととる必要があるのですか?」
オテロウの首もとには翡翠いろの翻訳機が光っていた。うちのジーナのおもちゃみたいな翻訳機とはえらい違いだ。(作ってくれた遥さんには悪いけれど)
「はい、僕が池田さんの部署に移ることは、この計画で重要な部分だと思っています。できたら早い方がいいと思いますが」
オテロウは言った。
「では、池田さんにこちらの部署に移っていただくのはどうかな。この『センター』付きに」
僕は思わず目を丸くして言った。
「オテロウさん、『開拓団』だって猫への忠誠心は間違いありません。けれどね、『火星世代』とうまくやっていくのはなかなか難しいと思います。お互いにまだまだ張り合ってばかりいる。……正直言うと、彼らの地域を『火星世代』と併合するのは大変な作業だと思っていますよ……」
オテロウは下を向き、ため息をついた。灰色のなめらかな背中に肩甲骨が浮き上がった。
「『センター』はこの計画をとても重要視しています。報告が遅れるのはこの『グンシン』自体の評価になって帰ってきます。どうです……あなたの代わりに冠城さんを……」
僕は首を振って強く言った。
「いや、僕に行かせてください。冠城さんは優秀な方ですが、僕はずっとこの『グンシン』で、火星の地質専門でやってきています。池田さんのような現場の技術者と、実際に現場で話してみないとフェライトの生産の実際はわかりません」
「では、一か月あげましょう。そのあいだに必要な情報を集めてください」
オテロウはついに折れた。そして、僕は喜んだのもつかのま、恐れていた質問をぶつけられたのだった。
「そういえば山風さん、『開拓団』地域で変わったうわさを耳にしたことは……?」
「変わったうわさ……?」
「ええ、『ネコカイン』に関するうわさですよ」
僕はしらばっくれるかどうするか考えて、綱引きをしてみようと判断した。首尾よくオテロウから情報を引き出せたら上出来だ。
「オテロウさんが仰るうわさかどうかは分かりませんが……、『開拓団』の人たちから、僕たち『火星世代』はうらやましい、『ネコカイン』がじゅうぶん手に入るから、と言われたことはあります」
オテロウは無表情にうなずいた。そして続けた。
「では、『開拓団』の治安が悪化しているという話は……」
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