第7話 火星開拓団の話-1
いまの僕の状況を君にわかってもらうためには、火星の歴史の話からはじめなきゃならない。
ええと……君はいつの人なんだっけ……そうだ、21世紀だ。
21世紀……そう、そうだ。アメリカという国がまだあったね?
前後、100年ほど地球を支配していた国だ。
アメリカがどうなったかって……?
アメリカはもうないよ。アメリカどころか、地球上のすべての国がもう無くなっている。そして、もう戦争がなくなってから300年は経つ。
何が起きたかって?……ネコカインがすべての人間にいきわたったのさ。
センターのいう、『平和の象徴』がね。
僕たちは、宇宙猫同盟によって【人類の醜悪】というのを教育されている。
猫たちが人類を支配するようになるまで、人間たちは戦争をやめることができなかった。けれど、ネコカインを摂取するようになってから、人間は猫のために尽くすことだけを考えるようになった。
人間は争うことを忘れ、猫のために勤勉にはたらき、寸暇を惜しんで猫と寝るようになった。
最後の戦争は月の自治を求める戦争だったけれど、結局はネコカインを受け入れて自治派はセンターに降参した。
人間は猫によって戦争から救われた。
これがセンターによって人間に最初に教え込まれることさ。
そう……で、火星の話だ。
火星も月ほどではないけれど、センターとはいろいろと問題があった。
21世紀にはたしかもう、探査船は出ているんだよね? 有人ではなかったと思うけれど、とにかくそれが人類が火星に住むための最初の一歩だった。
ところで、マーズローバー(NASAの火星無人探査機)はまだ火星のミュージアムに飾ってあるよ。火星の子はみんなそこに見学に行くんだ。
23世紀には、はじめて地球からの開拓団が火星に到着する。彼らは『初期開拓団』と呼ばれている。
実はその前にも脱出者を乗せた船が火星に向かったんだけどね……。
まあ、その話はあまりしないようにしよう。『はじめのひとたち』についてはね。
そして、23世紀の大規模な開拓団の船には、猫がたくさん乗っていた。
最初の移民たちはどんな人たちだったかって……?
犯罪者? 弾圧された人々……?
いいや、まったく違うよ。その正反対だ。
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