ネコカイン・ジャンキー!〜サラリーマン亘平編〜

スナメリ@鉄腕ゲッツ

第1話 火星のリーマン、子猫をひろって呆然とする

 まあまず、どこから話そうかね、……そうだ。

 まずこの文章を書いている理由を話そう。


 君に世界を救ってほしいんだ。


 君はいま日本の「カクヨム」というサイトで、ふと『猫』という文字を見かけてこれを開いたはずだ。きっと、猫が好きなのだろう。そういう僕も猫を飼っている。

 僕は普通のサラリーマンで(といっても3020年の)、僕の愛する縞ネコのジーナも普通の長毛猫だ。大切な家族だけどね。ジーナは灰色の縞柄をしていて、愛嬌はあるけど、太っているし、まあまあうるさいお喋りだし、わがままだ。

 もちろん、31世紀の猫だから翻訳機を使って言葉も話せる。

 まあ、つまり、猫は人間の管理者側だよね。


 僕は31世紀っ子だからわからないんだが、昔は猫は捨てられたりしたんだろう?

 なんかこうさ、茶色い厚紙の箱かなんかに入れられて、拾われるのを待っていたとか。

 ……いま? いまは違うよ。

『宇宙猫センター』から、各家庭に子猫が割り当てられている。

 ある朝、センターから通知が来るのさ。

 その家は大喜びだよ。人間だけの家は地下でくらさなければならないけど、子猫を割り当てられた家は、地上のドームの高級コンドミニアムに引っ越せるからね。

 植物だって育てられるぐらい日光が射すのさ。

 けれど、そう簡単に子猫を育てられるわけじゃない。僕たちは知らないうちに、センターに試されているのさ。猫への忠誠心をね。


 そうそう、百年ほど前に彼らは完全に人類の支配を完了してるんだよ。

『ネコカイン』を使ってね……。


 僕がこの文章を未来から「カクヨム」に送っているのには、2020年の猫ブームを阻止する目的がある。

 猫好きの君にはなぜそんなことをするのかわからないだろうね。

 けれど、これは君がほんとうに猫好きなら、僕の言うことをやがてわかってくれると思う。


 20世紀にポール・ギャリコが『猫語の教科書』を書いてから、猫たちは少しずつ人間を支配する計画を実行に移し始めた。

 最初は人間の家に入り込み、そのしなやかな美しさで人間たちを魅了した。やがて彼らは、あまりに彼らを愛しすぎた人間たちの活動によって、人権と同じ権利を獲得した。

 そのなかで彼らは、自分たちの計画を実行するのにいちばん必要なものを手に入れたんだ。


『教育をうける権利』ってやつをね。


 猫たちは、めずらしく昼寝もせずに研究したよ。

 自分たちがなぜこんなにも人間に愛されるかをね。


 そして発見したのさ。『ネコカイン』という麻薬をね……。


 すまないね、これを書いている間にもちょっとネコカインをキメないと気分が悪くなってきた。

 いまや、人間たちはこれなしには生きられなくなっているんだよ。


 ちなみに、この話を更新するのは朝になると思う。それなら、奴らは寝ているしね。

 次は僕とジーナとの出会いについて話そうと思う。


 ようやくネコカインが効いてきた……。


 さて、昨日はどこまで話したっけ。

 そうだ、僕とジーナの出会いだ。

 そのまえに、君には僕の状況を知っていてほしい。


 人間たちはもう猫に支配されていると話したけれど、それは奴らが「ネコカイン」を独占しているからだ。僕もネコカインがないと生きていけない一人さ。

『宇宙猫同盟』からは一回の投与で数日はもつカプセルが支給されているけれど、僕はそれを手に入れることができない。

 なぜって……?


 ジーナとの出会いが理由さ。


 ジーナがどんな猫か話したっけ? 灰色のキジトラで、雌だ。まんまる猫でうるさい。

 宇宙猫センターから選ばれた家庭に子猫が来る話はしたよね。


 ジーナはセンターからは来ていない。


 ある日本当にとつぜん、僕の家に子猫だったジーナが現れたのさ。

 言い忘れたけれど、僕の住んでいる惑星は地球じゃない。

 火星なんだ。


 まあ、センター(地球)に近いから立地は悪くないけれどね。

 火星がどんなところかって? ああ、そうか。まだ君たちは火星には住んでいないんだね。

 人間たちは2500年ごろに、火星に植民地を作るんだよ。

 火星に植民地を作るのは本当に大変だった。2800年にはメテオラの悲劇という数万人が亡くなる酸欠事故も起こした。

 大気が十分になかったからだけど、今ではリトル・アースと呼ばれるぐらい水も緑も豊富な惑星だ。まだ宇宙から見ると赤いけれどね。


 そう、そしてジーナだ。

 僕は火星のしがない会社員だ。火星にわずかにあるイリジウムって金属を毎日掘り返す会社に入ってるんだけどね。それを何に使うかは奴らは決して教えてくれないんだ。

 まあ、その金属を掘り返す僕のような会社員は……。

 ふつうはセンターに選ばれないのさ。子猫を受け入れる家庭としては。

 だって僕のように独り身で、会社に行っちゃったら子猫を世話する人もいないからね。


 子猫はセンターが割り振るものだ。これは忘れちゃいけない。21世紀の君たちは、どんな風に子猫と出会うんだい……? 

 僕たちはセンターに『選ばれる』のさ。忠誠心によってね。

 子猫は自然とネコカインをこれでもかって放っている。センターはその子猫を人間に与えて、人間の忠誠心をもっと高めようとするのさ。それに、やがて『管理者』となる子猫にも人間というものを勉強させる機会を与えるわけだ。


 だけど、ジーナは全く違った。

 ある日、ほんとうにある日とつぜん、ジーナは僕の家に現れたんだ。

 

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