蒸発した幼馴染とすれ違った件

柊 季楽

突然消えた幼馴染と、また出会ってしまった件

第1話 東京の真ん中で

「ね、あれおいしそうだよね。お店どこなんだろ…」

「あー、江戸川とかじゃなかったっけ?」

「そうなんだー。」


江戸川区かあ…、電車代すら払えないかも…。

食べたい!…けど無理だなあ。はあ、どうしよ。今月の仕送り使いきっちゃったしなあ、この先どうなるんだろ…。


休日の賑わう東京のスクランブル交差点で、私、悠月ゆづき琴音ことねはため息をつく。

東京に引っ越してきてから、まだ2週間も経っていない。

こんなもので本当に大丈夫なのか、自分でも本当に心配になる。


「はあ…でも余計なこと考えない!」


そう、今回買いに来たもののことだけを考えていればいいんだ。

一文無しで何を買いに来たのかというと…


「おっと、危ないですよ、奏人さん?」

「そう?僕には見えないから、ごめんね。」

「っ!!…頼みますから目だけにしてくださいよ。」

「うん。…これ以上今井さんに迷惑かけたら、たぶん僕は申し訳なさで自殺しちゃううかも」

「あなたが言うと現実味が増すのでやめてください!本当に…。」

「いや、冗談だよ。気にしないで」


私は声の向いた方へ勢いよく目を向ける。

今奏人って言った?この人…


そこまで珍しい名前じゃない。もしかしたら全く違う人かもしれない、でも!


―――そちらを見ると、どの国でも目立つ、飽きるほど見た真っ白の髪と背中が見えた。


「っ!!!」


驚きで声が出なかった。もう信号は点滅しだす時間だろうに、震えて動けなくなった。


やっと会えた。それだけが心の中を埋め尽くし、

固まった唇を力を振り絞って開いて―――


「奏人!!!」


と叫んだ。自分でもびっくりするような大声だった。

周囲の人の目が一気にこちらを向く。


「え?……こと…ね?」


あちらもかなり驚いたようで、此方を振り向く。すると、昔は優しい黒い目が覗いていた瞳が、に閉じていた。


そして私が――


「やっと会え「い、今井さん、行くよ!!」


え…?


「ほら、連れてって!」と付添であろう女の人の手を引っぱって、奏人はせかす。


「ね、ちょ!!」


慌てて私が手を伸ばすと―――――


――その手を奏人が弾いた。


そして、一人信号の向こうまで闇雲に走って行った。


「ちょ、奏人さん?」


それを見て今井さんが焦ったように声を出す。

それから――


「あ!あなた、奏人さんに用があるんなら、これに連絡して!」


と私に名刺を渡して、追いかけて行った。


しかし、私にはよく聞こえなかった。

奏人に、避けられた。それだけで、今の弱り切っていたメンタルを砕くには十分すぎた。




――――私はショックで、横断歩道の真ん中に座り込んだ。


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