第2話-2

そういうとD男はミュージックプレイヤーを取り出し、自分の好きな曲について話し始めた。


「この曲、俺が落ち込んでいた時に聞いたんだ。県大会の決勝で肉離れをおこしてさ。」


他愛もない話にC子は、時折相槌を打ちながら彼の話に聞き入っていた。


放課後にたまたま出くわしては一緒に帰ることを

一年ほど繰り返すころにはC子とD男は打ち解けあっていた。


その日会ったこと、どう感じたか、そうした気分に合わせて選曲してお互いに感想を言い合った。


彼らは環境音楽や、クラブリミックスといったBGMを好んで聞いていた。少なくとも音に専念している間は、自身の気持ちから距離をとり現実を忘れられた。


とはいえ、いじめに遭っていたわけでも家庭に不満を持っていたわけでもなかった。思春期特有の、私は私であるという自覚が強まり、その自覚とは裏腹に社会に何もインパクトを残せていない、そうした苛立ちと焦燥によってしばしば不安になっていた。



お互いに意識することもなく、たまたま出くわしたら、まあ一緒に帰る、付かず離れずの関係だ。少なくともC子はそう考えていた。

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