全能少年「人情のモンタージュ」

読天文之

第1話舞い降りし神童

 二親を亡くしつつもゼウスの魔導書により、神の子となった千草全治。そんな彼もいよいよ中学生になり、青春の扉を開いた。入学式を終えた全治は、一年三組のクラスへと向かった。

「全治様、何だか嬉しい雰囲気ですね。」

 眷属のホワイトが言った。

「ああ、僕もついに中学生か・・。」

 新しい世界の中に来たような感覚を全治は、五感全てで感じていた。

「やあ、全治君。」

「あ、黒之君。」

「どうやら僕達、同じクラスになったようだね。ところでどうしてそうなったのか、疑問は感じないのかい?」

「疑問か・・・どうしてそうなったんだろう?」

「それはね僕達が怖いからさ、まあ答えの意味が分かるのに時間はかかるけどね。」

 そう言って黒之は教室へと向かった。

「あんなの気にしなくてもいいよ、これから発見と楽しさの連続なんだから。」

 眷属のルビーが言った。全治は一年B組の教室に入ったが、そこには北野や伊藤のような小学生時代の知り合いはいなかった。

「みんな真面目そうだな・・・。」

 確かにここに居るのは少年だが、どこか子供っぽさが無く大人に見える。全治が席に座ると、スーツ姿で眼鏡を付けた若い男の先生が入ってきた。頑な印象で真面目な感じがする。

「今日からみんなの担任になった、樺島勝也だ。私はこのクラスを成績優秀なクラスにしていくつもりだ。そして皆には、社会で生きていける立派な大人になってほしい。」

 樺島は特に熱く語ることなく言った、そしてこれからの学校生活で守るべきことを生徒達に言った。

「まず第一に登校や授業に遅れない事、これは時間を守るという事でとても大切なことだ。万が一遅れるなら、すぐに連絡するのも忘れるな。第二に放課中であっても大声を出さない事、そんなことしなくても会話は出来る。もう子供じゃないんだから、将来のために礼儀を学ぶことだ。第三は礼儀を学ぶことで同じことだが、学校内に居る時は敬語を使う事。社会では立場が上の人と一緒に居るのは当たり前だ、そのための心得を学ばなければならない。守るべきことはこの三つだが、この三つは大人になって社会へ出たら当然のことだ。」

 全治は樺島のこの言葉に疑問を感じた、この三つは確かに大切なことだが果たしてそう言い切れるのかと。全治は直ぐに挙手をした。

「どうした、千草君。」

「樺島先生は礼儀や態度を守ることが大切だと言いますが、本当にそう言い切れるのでしょうか?」

 すると樺島の顔が、若干不機嫌になった。

「全治、今はそんなことを考えるな。」

「どうして、考えたらだめなの?」

「お前の未来を思っていっているんだ。」

「じゃあ、樺島先生には僕の未来が見えているの?」

「黙れ!!」

 樺島は激昂して教卓を叩いた、しかし全治は動じない。

「噂に聞く質問攻めだな。お前がどうしてこのクラスになったのか考えたことはないか?」

「考えました、学校の人達がそう決めたからでしょう。」

「お前はそこの黒之と、小学生の頃に非行をしてきたそうじゃないか。二人とも成績優秀だが、中身は悪ガキだという。だからこのクラスで二人をいい子に矯正させるんだ。」

 樺島は仏頂面で言った。

「じゃあ、いい子って何?」

「もう質問は無しだ、席に戻りなさい。」

 全治は仕方なくという感じで席に戻った、そんな全治を見ながら黒之はしたたかに笑った。

「何だあいつ・・・、どうして先生にそんなことを訊くんだろう?」

 全治の一連の言動に空谷一夫は疑問を持った、空谷は幼稚園のころから英才教育を受け、小学校ももちろん私立である。そして「大人の言う事には、絶対に従わないといけない。」と、両親から叩き込まれた。なので決められた友達しか持たず、遊びもほとんどしないで、自宅や塾での勉強に一日の四分の一を費やしている。

「いいか、中学校は遊び場じゃない。社会での優劣を決める修練場だ。より上の成績を目指し、栄光の生活を掴むためにあるのだ。これからの三年間での勉強で、お前達それぞれの未来が決まることを私は断言する。」

 樺島は堂々と言いきると、教科書の配布を始めた。



 入学式から三日目の昼放課、空谷一夫は教室で数学の復習をしていた。そして途中で尿意を感じてトイレへと向かった、そして用を足し終えて出た時、二人の少年に遭遇した。何故遭遇なのかと言うと、二人の少年は制服を着崩し,耳にピアスをしており、髪を染めていたので、一目で不良だと察したのだ。

「おい、そこのお前!!」

 一人の少年が空谷に声を掛けた。空谷が無視して教室に入ろうと扉の取っ手に掛けようとした手を、もう一人の少年が掴んだ。

「おい、シカトすんじゃねえよ。」

「離して下さい。」

 空谷が言うと少年が、空谷の右足のももの裏を蹴った。空谷は倒れる拍子に、扉に頭をぶつけてしまった。

「ハハハ、バカだな。」

「下級生のくせにシカトするからこうなるんだよ。」

 頭の痛さに耐えながら立ち上がる空谷に、二人の少年は見下しを含んだ馬鹿笑いをした。

「あの・・・僕に何の用ですか・・・?」

「おい、見つけたか?」

「はい、見つけました。」

 すると更に背の高い少年が現れた、眼鏡をかけており一見真面目に見えるが、彼もまた不良である。

「なかなかいいのを見つけたな・・・、おい名前は?」

「空谷一夫です・・・・、何の用ですか?」

「ちょっと暇つぶしに付き合ってもらうだけさ。」

「おら、行くぞ!!」

 二人の少年が空谷の両肩を持って連れ去ろうとした時だった、目の前に全治が現れた。

「ねえ、何をしているの?」

「あ?誰だお前は?」

「僕は千草全治、君達の名前は?」

「俺は新庄だ。」

「俺は伝野。」

「私は山代栄多だ。」

「どうして空谷君を、連れ去ろうとしているの?」

「ふん、ただ頭がいい下級生が粋がらないように、教えてあげているだけだ。」

「でもそれにしては乱暴だね、どうして乱暴にするの?」

「おい、質問が多すぎるぞ。」

 山代がイラつきながら、人差し指を眼鏡に触れさせた。

「だからどうして乱暴にするの?」

「山代先輩、どうやら分からせる必要があるぜ。」

 伝野が指を鳴らしながら全治に歩み寄った、そして右手を握りしめて殴りかかった時、全治は伝野の右手を受け止めた。

「な・・何だと!?」

「ねえ、ちゃんと答えて。」

「ふざけるんじゃねえ!!」

 今度は新庄が突進してきた、しかし全治は伝野をとっさに突き飛ばした、それにより新庄と伝野が激突する形になった。二人はそのまま伸びてしまった。

「な・・・こいつはただ者じゃねえ・・・。」

 山代は全治を見て口をパクパクさせた。

「ねえ、空谷君に何をするつもりなの?」

「うう・・・空谷みたいな奴は気に入らないから、イジメるつもりだ。」

 山代は舐められまいと開き直った。

「イジメるのは良くないよ。」

「お前みたいなのに、イジメの楽しさはわからねえよ。」

「そう・・・でも早めに止めることを進めるよ。いずれ不幸は巡ってくるものだから。」

「ふっ・・・・強いのは腕っぷしだけだな。今日のとこは見逃してやるが、明日からこの学校でまともに生活が送れると思うなよ。」

 山代はそう言うと、気が付いた新庄と伝野を連れて二階へと上がって行った。そして自然と教室に入る全治を見て、ただ茫然とするだけだった。




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