第193話 レディナが、全力を出せない理由

 そして、レディナとスワニーゼ。

 スワニーゼが聖剣を肩に乗せ、余裕のある笑みで問いかける。


「大丈夫なの? 彼に力を与えちゃって」


「そうしないと、勝てないもの」


「でも、それであなたが負けちゃったら意味ないとは思わない?」


「うぬぼれ屋ね。そんな杞憂いらないわ」


 レディナは強気な視線できっぱりと言葉を返す。

 確かにそうだ。ニクトリスで大幅に強化されたアドナ。


 それに何の強化もされてないフライでは太刀打ちできない。

 確実にレディナの力が必要だろう。しかし──。


「そんなハンデがある状況で、私に勝てると思う?」


「勝つわ!」


「強がりを──」


 スワニーゼの言葉に、レディナは反論出来ない。

 理解しているからだ。今の自分の強さと、スワニーゼから発せられる魔力を──。


 おまけにフライがいる時点で、自らのスキル「極限解放」を全開にまで使えない。

 目の前の相手を自分の意思を解せずに最善策で倒すスキルのため、フライと相対したとき、彼を巻き込まないようにするには自分の意思を残す必要があるのだが、それを使うと6割ほどしか力を出せないのだ。


(わかっているわよ。今の状況では、厳しいってことくらい)


 レディナは無意識に歯ぎしりをし、表情が険しくなる。それでも──。


「私達は、ここで逃げるわけにはいかないの。」


 そしてレディナは一気にスワニーゼへと突っ込んでいく。


「無謀ね、現実を見せつけてあげるわ」


 スワニーゼは余裕の表情でレディナの攻撃を受ける。


 二人の死力を尽くした戦いが、始まった。



 戦いが始まってしばらく。

 最初は二人とも互角の戦いを繰り広げていたが、徐々にスワニーゼが押し始めた。



「どうしたたの? そんなお遊戯じゃ、私には勝てないわよ」


「うるっさいわね!」


 レディナも負けじとスワニーゼへと突っ込んでいく。


 跳ねるように踏み込んで、剣を振り下ろす。

 スワニーゼはその攻撃を強引にはじくと、剣を体ごと回転させ、レディナを吹き飛ばすような光線が生み出される。


「くっ──」


 レディナの表情が苦痛にゆがむ。

 自身の意志を断ち切り、目の前の相手を倒すために全神経を集中させる力「極限覚醒」。今までの相手ならば、これを使えばあいてにほぼ無双状態だったのだが、スワニーゼにはそれが通じない。


 単純にスワニーゼの方が動きが早く、結果手数も多く先手を取られてしまう。


 これでは、相手を崩すことなどできない。


 その間にもスワニーゼは追撃を仕掛けてくる。

 何度も早くて重い攻撃を、多彩に──。


 そして大きく後ろに身を投げたレディナの着地を狙い、スワニーゼが攻撃を仕掛ける。

 目にもとまらぬ連撃がレディナに襲い掛かるが、レディナはそれをギリギリでかいくぐり、一気にスワニーゼの懐にもぐりこむ。


 額に擦り傷ができ、血がしたたり落ちるが気にしてはいられない。

 スワニーゼの攻撃は速さもそうなのだが、何より重い。まるで彼女の想いが詰まっているかのように。


 単純に受け止めるだけでは、腕の感覚がなくなってしまうだろう。下手をしたら、剣が折れて勝負がついてしまうだろう。


 だからうまくかわすなり受け流すなりしないといけない。


 そしてレディナはスワニーゼに急接近。無防備なスワニーゼの胸に、一気に剣を突き刺そうとする。


 しかし、その攻撃もスワニーゼは通用しない。


「読めていますよ」


 待ち構えていたかのようにスワニーゼはレディナの顔を目掛けて蹴り上げる。

 レディナは体を無理やりひねり、交わそうとしたが、よけきれずに胸のあたりに直撃。


 息が止まるような強烈な痛みをこらえながら、一度距離を取る。


「さっきまでの威勢はどうしたのかしら? 本気を出して。あ、もしかして、もう全力で戦ってるってこと?」


 スワニーゼは余裕の笑みを浮かべている。


(まずい、こいつ。今まで戦ってきた奴とは、全く違うわ)


 対してレディナ、かなり消耗してきている。

 体力的なこともあるが、何より押され続けているせいで気持ちが後ろ向きになり、精神的にダメージを受けてしまっているのだ。


 もっとも、レディナにも策はある。


(私の力を、完全開放すれば、ついていけそう……)


 極限覚醒の力を、今は制御して使っている。同じ場所にいるフライに攻撃がいかないようにするためだ。


 感覚的に、それを解除すればスワニーゼと互角以上に戦えるのは分かっている。

 しかし、そんなことをしたらフライは──。



 レディナは体をひねって、攻撃をギリギリで回避。

 肩のあたりに傷を負ってしまうが、支障はない。


 フライへの想い。絶対に傷つけはしないという覚悟。


 (それすらも、極限覚醒の中に入っているとしたら──。私が、本当の意味で勝つには、彼の力が必要)

 

 そう魂に刻んで、神経を研ぎ澄ます。


(フライは、私の大切な人──。傷つけるなんて、絶対あり得ない)


(行ける──)


 レディナの疑問が、確信に変わった。

 空を切った剣の上を、スワニーゼの剣がレディナの心臓を目掛けて襲い掛かる。

 しかし、その攻撃もレディナは読み切り、数歩後退。


 服に切り傷が数か所出来たが、体にダメージはない。


(息は上がってるけど、さっきより戦えてる)


 レディナの心に余裕が生まれ、自信を持ち始める。


「少し前までのあなたなら、かわせなかったはず。なぜ?」


 何故交わすことができたのかと不思議に思うスワニーゼ。


「簡単よ。全力で戦っている。ただそれだけよ」

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