第160話  そして、決着

「ク、ク、クソが──。まさかクリムなんかに負けるてよ……」


 タミエルは悔しさのあまり地面に強く拳を叩きつけた。


 そして、ゼリエルが俺たちをじっと見つめる。

 感情を感じない、彼女らしい冷たい目つき。


「フライ、クリム。流石といいたいです──。タミエルを、一撃で倒すとは……」


「何余裕ぶっこいてんのよ。次はあんたが倒される番よ!」


 クリムは再び剣をゼリエルに向けた。

 それでもゼリエルは、表情を全く変えない。


「了解です」


「何? 私に勝てないから素直に倒されるって意味ってこと?」



「うぬぼれを──。いくらあなたに言っても理解しないだろう。だから力づくでわからせる。そんな意味です。さあ二人とも、己の無力さを悟り、私にひざまずきなさい」


 ゼリエルは、無表情のまま右手を俺たちに向けてきた。


 そして、その右手が強く光りだす。

 タミエルの時よりも一回り大きい、眩しさを感じるくらい強い光。


「ハァ──、ハァ──。跪くのはどっちか、思い知らせてあげるわ」


 クリムは、軽く息を荒げながらもゼリエルをにらみつけた。

 大分消耗しているものの、まだ戦うつもりだ。


「クリム、行け──。俺が最後までお前を守ってやる」


「信じてるわよ、フライ!」


 そしてクリムは剣を握る手に強く力を入れる。


 今まで見たこともないような大きな電撃──、いや、雷というにふさわしい大きな電撃の塊が剣の周辺に現れた。


 ふらっ──。


 その瞬間、まるで貧血にでもなったかのように体から力が抜ける。

 クリムの強力な術式。それにつられて、俺の魔力が吸い取られたのだ。


 しかし、クリムにああいった手前カッコ悪い真似はできない。


 以前レディナに言われた。お前は無理をし過ぎると──。

 その時は首を縦に振るしかなかったが、今は違うって言える。


 時には、無理をしてでも戦わないけない時だってある。

 それが今だ。


 俺は最後の力を振り絞ってクリムに力を供給していく。



 ゼリエルは拳で、クリムは剣で互いにぶつかり合っていく。

 ここでも互いに小細工やつばぜり合いなどはない。


 力づくでぶつかり合っていく。まるで自分の想いをぶつけるかのように──。



 全力で相手に攻撃をぶつけていく中で、決着の時は訪れた。


 徐々にクリムが押していく。


「くっ、あなた達──、ここまでやるとは──」


「さあゼリエル。今度はあんたが破れる番よ」


 そしてクリムは一歩前に出て、踏み込んでいく。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 剣を全力で振ると、切っ先から今まで見たことがないくらい大きな電気の塊が出現。


 そしてそれがゼリエルへと向かっていく。ゼリエルは右手をかざし、その手に魔力を込めた。


 そのままその手でクリムが放った電撃へと、殴り掛かっていく。



 互いの全力を放った、最後の一撃が衝突。



 結果は、一瞬で現れた。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 大きな爆発音とともに、クリムの大きな電撃の塊がゼリエルの攻撃を突破。大きな爆発音とともに、ゼリエルの体が宙を舞い、後方に吹き飛んでいった。





 ゼリエルから発していた強大な魔力はもうない。



「どう、これが──、私達の力よ──」


 ボロボロの姿で、クリムがささやいた。

 全ての力を使い果たし倒れこんでいる二人。タミエルがゆっくりと上半身を起こすと、俺たちに視線を向け、囁く。


 歯ぎしりをして、にらみつけるような視線。



「マジかよ……。まさか、俺達が負けるなんてよ」


 クリムは、二ッと強気な笑みを浮かべ、言葉を返す。


「当たり前じゃない──。私とあんた達では、背負うものが違うのよ」


「聞いてあげましょう。貴方はこの世界で、何を得たのですか?」


「大切な人。ステフとメイル。それだけじゃない。いろいろな人と出会って、彼らが悪い奴なんかじゃないってわかった。たとえ最初はいがみ合ってても、分かり合えることだってあるって、だから考え方が違っても共に手を取って歩みたいって思った。

 私は今まで気づかなかったけれど、本当の私を気づかせてくれた人に、その大切さを教えられたのよ」


 ボロボロでみずほらしくも、どこか誇りと自信を感じられるような態度。


「ケッ、綺麗ごとばっかり言いやがって」


「はい、理解できませんね。そんな異教徒の言葉など──」


 二人とも、釈然としていない様子だ。すると、それに合わせるように誰かが言葉を返す。



「それがわからないうちは、あなた方が私達を打ち破ることはないでしょう──」


 それは俺たちの声ではない。ゼリエルの後ろから聞こえた突然の声だった。


「ステフ──」


 クリムが思わず目を大きく見開いた先。

 そこにいたのは、クリムが最も敬愛している人物。


 ステファヌアが意識を取り戻したのだ


 クリムもそれを見たようで、彼女に向かって叫んだ。


「ステフ!!」


 ステファヌアは、どこか疲れ切った表情でゆっくりと起き上がった。

 クリムは、早足で彼女の元に駆け寄る。


 疲労困憊で、よろよろの歩き。


「なんとか、勝ったわ……」


「クリム。貴方ならできると、信じていましたよ……」



 クリムはステファヌアに抱き着くと、その胸に顔を押し付け、泣き始めた。

 まるで自分の娘であるかのように、クリムの頭をなでなでする。


「ごめんなさい。私、道──外しそうになった」


「誰でも、道を外しそうになることはあります。しかし、あなたは振り返ることができました。以前ならそれはできなかったでしょう。立派になりましたね、クリム」

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