第137話 いきなりの罠

 ゴゴゴゴゴゴゴ──。


 なんとその石が動き出し、その石があった場所に階段が出現したのだ。


「皆さん。道は狭いので列を組んで進みます。ついてきてください」


 そしてステファヌアとクリムを先頭に俺達は進んでいく。


 螺旋状に階段を下っていくと、真っ暗な道が続く。


 ステファヌアとクリムがその道に足を踏み入れた瞬間、トンネルの様相がガラッと変わり始めた。


 真っ暗だったはずのトンネル。

 しかし俺たちが一歩一歩歩くたび、その周りの壁が水色に光り始める。

 そしてその壁には神秘的な幾何学模様が彩られていて、ある種の芸術的なものを感じさせる。


「──神秘的ですね、フライさん」


「そうだね」


 フリーゼだけでなく、要人達や警備の人たちもその光景に息をのむ。

 全員がその姿に見とれてしまっている。


 それほどまでにきれいな光景。




 そのまま道を進み、道の先に明かりが見え始めた。


 そして、後方にいる俺とフリーゼがこの後のことについて聞こうとクリムに近づいたその時──。



 バン!!!!


 突然何かが激突したような音がこの場一帯に鳴り響く。


 なんと俺達が来た道の真後ろから、突然上から壁が下りてきて戻れなくなってしまったのだ。


 隊列の途中で──。

 幸い人が離れている場所があり、そこで分断されたのでけが人こそ出なかったものの、隊列が分断されてしまった。


 前方にいるのは俺とフリーゼ。クリムにステファヌアと国王親子。そしてその侍女とわずかばかりの兵士の人たち。


 そして後方にはスキァーヴィなどの要人たちに、一般の兵士や多くの冒険者の人たち。


 幸い、声は聞こえるようだ。すぐに後ろにいた人に話しかける


「皆さん。大丈夫ですか?」


 俺の叫び声に誰かが返事をする。


「ああ、問題はない」



 けが人はいないようだ。するとフリーゼが心配そうに声をかける。


「敵の気配とかないですか? 後ろから物音がするとか──」


 そういえば、クリムも俺たちもこっち側にいる。後方に何かが襲ってきたとき、しっかりと戦えるのか不透明だ。


「もし戦うのが不安なら、壁を壊すことも考えます。そうしましょうか?」


 壁を触ってみたところ、かなり頑丈に厚くできている。

 壊そうと思ったら魔力をかなり消費するだろうし、第一ここは狭い道。大爆発を起こそうものならこっちも被害を受けてしまう。


 それでもやるべきか、あきらめて別々に進むべきか──。


 後方の人たちは、答えない。

 シーンと静まる空気の中、誰かが話しかけてきた。


「俺たちだって、冒険者のはしくれだ。信者だ。確かに実力はまだまだかもしれないが、力を合わせて何とかやり切って見せる」


 恐らくは、冒険者の一人だろうか。確かに、そうかもしれない。

 俺達はあくまで助っ人だが、彼らにとってここは故郷、守らなければいけない地。


 この巡礼祭に込める思いだって、俺達よりずっと重いはず。

 それならば、ここは彼らを信じるべきだと、強く感じた。



 さらに向こう側から誰かが話しかけてくる。


「私とスワニーゼがいるわぁ。流石に目の前で人が襲われても助けないなんてことはしないし。守ってあげるわ。だから行きなさい」


 そう、スキァーヴィだ。

 実際に戦っているところを見てはいないが、実力はかなりの物だと聞いている。


 それにここで裏切れば、周囲からは何をしでかすかわからない無法者として認識され、国全体の信頼が落ちてしまう。裏切ることに、彼女にメリットはない。裏切るなら、自分に泥がかからないようにやるはずだ。



 全面的に信頼できるわけではないが、他に取れる方法なんてない。


「わかりました。皆さん──、そっちはよろしくお願いします」


「わかった。そっちも、ご武運を祈る」


 その言葉を聞いた瞬間、壁側から歓喜の声が漏れた。


「うおおおっ、道ができてるぞ」


「行けそうじゃねぇか!」


 さらに壁かと思われていた場所に道ができたらしい。壁越しでも、彼らの歓喜の声が聞こえだす。



「待って、私が先頭、後ろにスワニーゼを置くわ。油断大敵、皆さん行きましょう」


 スキァーヴィが声をかけると、背後からざわざわとした音がし始めた。流石は彼女、一応有能そうではあるからか、それくらいは理解ができるようだ。

 恐らく今は、列を組んで進んでいく準備をしているのだろう。


 俺達もうかうかしてはいられない。


「皆さん。それでは先へ進みましょう」


「──そうです。それ以外にありません」


 俺とフリーゼの掛け声に、クリムや、警備の兵士達が反応してくれた。


「そうね。まあ、たとえどんな奴がいても、このクリム様の敵じゃないわ」


「ああ、俺たちに勝てない敵なんかない。絶対に、生きて帰ろうぜ──」


 今の掛け声で、大分勢いがついてきた。

 そうだ、みんなで生きて帰ろう!


「では、出発します」


 ステファヌアの掛け声によって、俺達も道を歩き始めた。明かりの先へ──。

 明かりの向こうに、どんな罠が待っているかわからない。強力な敵と戦う可能性だって十分にある。


 入ってこんな罠が待っていたなんて、思ってもみなかった。

 きっとこれから先、さらに敵の罠が待っているだろう。


 しかし、相手がどんな罠を用意していようと、先ヘ進むしか道はない。



 ──乗り越えよう。

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