第133話 唯一王 楽しく夜を過ごす

「じゃあ私から行くわ──」


 そう言ってクリムは生活のことなどを話す。


「普段は、街の郊外で動物をとったりしているわ。こんな気候だから、穀物があまり取れないでしょう。だから貴重な食糧なのよ」


「じゃあ、魔法を使ったり、戦う経験はどれくらいあるの?」


 レディナの問いにクリムがため息をついて答える。


「あんまりないのよね。平和といえば平和なんだけど──」


「確かに、月に一度あるかないかですよね。魔法を使うのは」


 聞くところによるとウェレンは辺境な場所の上人口も少ない。なので魔法を使う機会が少ないそうだ。

 敵対組織としてはスパルティクス団がいるが、彼らは戦闘集団というよりは山岳地帯で活動、物資輸送などをしたり違法な薬物を栽培して闇ルートで売りさばく活動などが一般的で、見つけても戦わずに山中に逃げてしまい戦いにならないのだそうだ。


「本当にゴキブリの様な集団だわアイツら」


 山岳地帯に住んでいて、なかなか対応に苦労しているとのことだ。

 どこの世界も、困ったやつはいるものだ。


 他にも、日々の暮らしのことで盛り上がる。


「へぇ……。教会に住んでから、街で暮らしている感じなの?」


「──そうですね。それで、たまに地方でいざこざがあった時に遠征がある感じです」


 そして遠征の話でまた盛り上がる。


 遠征用の食事、ニシンやバカラオという魚の話だ。

 遠方への遠征で食べる食品にバカラオという魚がある。


 鱈という魚の一種で、塩漬けにして乾燥させると何年も持つらしい。おまけに平らになってかさばらないのでよく遠征先で食べていたのだという。


「クリム様、最初干した奴をそのまま食べようとしていたんですよ」


「えっ? あれって相当固いはずですよね──」


 メイルの言葉に俺は驚く。

 干しているときのバカラオは鈍器といえるくらい固い。木槌で何回も叩いて、一晩水につけるといった工程が必要らしい。


「はい、クリム様は涙目になりバカラオをぶん投げた後食糧班の人に怒られたんですよ『食糧を無駄にするんじゃねぇ』って」



「ちょっと、そんな事話さないでよ」


 クリムが顔を膨らませて言葉を返す。メイルはスープを口にして引き攣ったように笑う。



「あれ、本当に硬いのよ。別名、食べられる鈍器っていうんだって」


「確かに、そのまま殴れますよねあれ──」


 それからも俺たちはいろいろなことを話した。たわいもない日常のことや楽しいこと、困ったことなど──。

 互いの生活のこととか、楽しいことなど──。


 いつしかこの場には、和やかな笑みが浮かんでいた。




 真剣に戦うときは真剣に。けれど、こうして楽しむときはきっちり楽しもう。

 こうやっていい雰囲気を作って、信頼関係を作ることだって大事だ。


 信頼関係ができれば、いざという時だって互いを信用できるようになり安心して背中を預けられるようになるだろう。

 個人的に思うのだけれど、ピンチになった時、互いを信じせるかどうか。ここぞというときに、瞬時に互いをかばったり助けるような行動をとれるかどうかは、こういった信頼関係が重要なのではないかと思っている。


 だからこのやり取りは、互いに信じあえるようになるために、とても重要な事なのだ。


「──遠征で、兵士の人と食べた時以来です。こんなに楽しく話せたのは」


「私も二人のことを知れて、とても嬉しいです」


 フリーゼも、どこか嬉しそうだ。そんな和気あいあいとした空気で、食事が進んだ。


 そしてほどなくして、食事の時間が終わる。


「ごちそうさまでした。ありがとうございますフライさん」


「──どういたまして」


「食事の方。とてもおいしかったですし、何よりみんなと過ごせて楽しかったです」


 メイルがフッと笑みを見せて言葉を返す。そう言ってくれるとこっちも嬉しいし、設定した甲斐がある。


 そして食事が終わると、この場の空気が一変する。

 皿洗いをし、後片付けを終えた後、全員がベッドの上に円を囲むようにして座り込んだ。


 オホンと一度咳をして、かしこまった態度で話し始める。


「じゃあ、明日の巡礼祭最終日。作戦会議を始めるよ」


「分かったわ」


 まず言葉を発したのは、言い出しっぺでもある俺。


「まず、今日までの二日間。巡礼祭は問題なく平和に進んだ。今日はスパルティクス団の奇襲があったものの特に被害が出ることもなく彼らを追い払った」


「そうね。捕まえられなかったけど──」


 クリムのどこか残念そうな表情。ハウゼンを取り逃がしたのが、よほど悔しかったのだろう。


「それで、明日の最終日、何事もなく巡礼祭が終わると思うか? スパルティクス団の奴らが、このまま黙っていると思うか?」


 クリムは右手を頬に当て、ため息をついて言葉を返した。


「──んなわけないでしょう。絶対何かやってくると思うわ」


「私も同意だ。このままで、スパルティクスの奴らが、引き下がるとは思えない」


「そうねメイル。でも、問題があるわ」


 レディナが人差し指を立てて言う。


「まず、どこを攻めて来るか、特定する必要があるわ」


「それもそうだね」

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