第131話 二日目を終えて──

 周囲に目を回す。デュラハンとの戦いがどうなったかを見てみたのだが──。


「──何とか片付いたぞ」


「これもあの女の子二人のおかげだな」


 傷だらけの姿で座り、ほっと体を休めている冒険者たちの姿。

 すると、誰か肩をたたいてくる。



「デュラハン達は、全部退治したわ」


「こっちはもう。大丈夫だよ」


 レディナとレシア。そして他の冒険者たちの活躍により、ここにいつデュラハンは全て倒したようだ。


 二人とも軽く息が上がっているが、特に痛手は追っていなさそうだ。


「ありがとうレディナ、助かったよ」


「私だけじゃないわ。みんなのおかげよ」


「そうだ、ハリーセルは?」


 レシアの言葉に俺は周囲に視線を送る。ハリーセルだ。一人で三刑士の一人、グランを相手にしていた。


 メイルによると相当手強い相手だと聞いた。いくらハリーセルでも、苦戦する可能性は十分にある。


「確か、前方よ。行ってみましょう」


「そうだね──」


 俺とレディナはハリーセルがいると聞いた後方へと足を運ぶ。





 一方ハリーセル、後方でグランと戦っていた。


 グランの、レイピアの様な細くて曲がる剣に苦戦するも、有利に戦いを進めている。


 何度かつば競り合いを重ねたうち、ハリーセルが一気に間合いを詰める。


「これで、決めるフィッシュ!!」


 グランは何とか対応しようと交代するが、ハリーセルが詰める速度の方が早い。

 そして右手をグランの方へとかざすと、そこに水をまとった矢が五発ほど出現。


「終わりだフィッシュ!」


 その矢がグランへと直進。

 グランの体に矢が突き刺さり、グランの体が森の中へと吹き飛ぶ。

 そして数メートルほど吹き飛び、そのまま倒れこんだ。


「よし、捕えろ」


「任せろフィッシュ!」


 俺の声にハリーセルはグランに向かって直進。しかしグランは魔力で傷を癒すと、無理やり立ち上がる。


「ほう、この僕にここまで戦えるとは、褒めてやるよ──」


 そう言って後ろに向かって飛び上がった。

 何とか追おうとしたものの、そのジャンプは数十メートルにも及び、目に見えないくらい早い。


 この場から離れるわけにはいかない俺たちに、とても追うことなどできなかった。


「逃げられたフィッシュ……」


 ハリーセルは悔しそうにシュンとする。すぐに駆け寄り、慰める。


「ありがとうハリーセル。これで大丈夫だよ」


「くやしいフィッシュ。追いたいフィッシュ」


「ダメだよ。俺たちには巡礼祭を何事もなく行うという義務がある。それにここはあいつらのホーム。何をされるかわからない」


 敵に有利を取りながらも逃がしてしまった悔しさはわかる。しかしこの辺りは敵たちのホーム。どんな待ち伏せや罠があるか分からない。


 逆に捕まってしまう可能性だってある。


 俺たちの目的はあくまで要人たちを守ること。

 これでも、目的は十分に達していると言える。


「ありがとう、助かったよハリーセル」


 そう言って俺はハリーセルの頭をなでる。ハリーセルは顔をほんのり赤くして表情が明るくなった。


「ありがとうフィッシュ……。撫でてくれて……嬉しいフィッシュ」


 取りあえず、納得してくれたようだ。





 最後に周囲を見回す。戦っている人はもういない。


 とりあえずこの場の危機は去った。

 要人たちや、俺たちの中に弛緩した空気が流れる。それだけでなく──。


「やっぱりクリム様はすごいぜぇぇぇ」


「そうだな。彼女がいれば怖いものなんてないぜ」


 兵士たちから歓喜の声がこだまし始めた。


 要人たちからも、ほっとしたような雰囲気が流れる。しかし俺は違った。


「どうもおかしい……」


 首をかしげた俺に隣にいたレシアが話しかけてくる。。


「あいつらが、手を抜いているってこと?」


 レシアの質問に俺は答える。


「いや、決して手を抜いているとか、そういうわけじゃない。本気では戦っている。ただ──」


「ただ?」



「どこか、真剣さがない」


「フライさん。彼らは、手を抜いているということですか?」


 するとメイルがキョトンとした様子で質問してくる」


「違う。決して遊んでいるとか、手抜きをしているわけではないんだ。

 けれど、生死をかけて必死に戦っている時と、競技の様な真剣ではあるけれどそこまでは掛けていないときって、なんとなくわかるんだよ。目つきとか、剣裁きとか──」


「ええ、本気を出してはいましたが、どこか必死さに欠けていました」


 フリーゼも戦っていてわかっていたのだろう。

 あいつらの戦いには、必死さがない。自分の命と引き換えにしてでも、俺たちの首を奪い取ろうという、執念のようなものを感じなかった。


 どちらかというと、トレーニングや、競技に近い。


 手加減をしているわけではないが、こっちを殺しに来るような様子が感じられない。剣裁きやつば競り合いの時の粘り強さがどこかたりない。

 まるで俺たちを試しているかのようだった。


「あいつらが何を企んでいるか、俺たちにはわからない」


「しかし、これで終わりではないということだけは分かります」



 メイルとクリムは、真剣な表情になる。


「今日の巡礼祭。終わったら俺たちの部屋に来てほしい。そこでいろいろ話そう」


「──そうですね」


「分かったわ」


 二人とも、首を縦に振ってくれた。

 取りあえず、ここから戻ろう。帰ったら再び作戦会議だ。

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