第129話 唯一王 フリーゼを信じる

 そう言って俺とフリーゼは正面にいる敵に視線を向けた。


 筋肉質で長身な男ヴィッツ。

 もう一人は目つきが悪く、赤髪でロングヘアの女ザニア。

 ヴィッツは見下すような目つきをして言い放つ。


「ほう、たった二人でこの俺様たちに挑んでくるか──」


「ああ、勝負だ」


「もっと多人数で行けばよかったと、後悔させてやるよ」








 そして俺たちの戦いが始まった。




 戦いが始まってしばらく──。


「ほらほら、どうしたどうしたぁぁぁぁぁっ!」


 ザニアの挑発するような物言いに俺は防御に徹しながら対応する。



 この二人、本来の実力はそこそこといった所。

 雑魚というわけではないが、今まで戦ってきた敵と比べて、そこまで強いというわけでもない。


 しかし俺たちは苦戦している。


 理由は、簡単だ。


 二人のコンビネーションがとても素晴らしいからだ。


「フッ、自らの力を過信しすぎたな。降参するなら今のうちだぞ──」


「降参などするものか!」


 俺はヴィッツの攻撃を耐えながら、反論。


 この二人は、それぞれが対角線になるように二方向から攻めて来る。

 そのせいで俺たちは背を向けて戦わざるを得ない。


 こっちはなかなかコンビネーションを生かせず、攻めあぐねているのだ。


「じゃあ、こっちは行かせてもらうぜ。次の作戦によぉ!」



 そうザニアが言うと二人は左右に分かれ、フリーゼを狙ってきた。

 フリーゼは何とか対応するも、二人のコンビネーションもよく、なかなか反撃に移れない。

 慌てて俺も対応しようとフリーゼのところへと向かう。


 ヴィッツへと立ち向かい、剣をふるうが片手で防がれてしまう。

 そして俺を無視してフリーゼへと向かっていく。


 その後も、フリーゼの負担を減らそうと戦いに入ろうとするが、結果は同じだった。


 有効打を与えられず、防がれてしまう。

 二人とも俺への対応は最低限という形で、二人でフリーゼに狙いを定めているのがまるわかりだ。


 戦い方がうまい。こういう二対二で戦うときの定石として、どこかで二対二の状況を作り、そこで有利をとっていく手があるのだが、それを行ってきているのだ。


 もちろん簡単ではない。必然的に俺ががら空きになるので、その対応をしなければならないのだが。

 それもしっかりと対応している。


 二人とも連携が良くできていて、なかなか崩せない。


 少しだけスキを許すと、すぐにフリーゼに向かっていってしまう。


 恐らくここはこいつらの得意な場所。そしてこれは二人が得意としている戦いからなのだろう。


 こういうとこに俺がやらなければいけないことは一つだ。

 このまま闇雲に立ち向かっていっても、同じ結果になるだけだろう。やり方を変える必要がある。


 相手の好きにさせず得意戦術をつぶす。「おや、今回は違うぞ」と思わせること。


 それならば、こんなやり方がある。

 以前本で学んだ面白そうな術式。

 使いどころに困って、今まで使ったことがない、実戦で使うのは初めてのこの術式。


 俺は近くにいたザニアに立ち向かう。


「お前の攻撃なんて、通じねぇよ!」


 ザニアの、あざ笑うかのような物言い。


「攻撃じゃない。こうだ!」


 俺は剣を天に向かって上げる。


「分断せよ──。バインド・ウォール!」


 その瞬間、真っ白の魔力を伴った壁が現れる。


「な、何だこれは──」


 驚くザニア。無理はない、かなり珍しく使用者の少ない術式。

 初めて見たのだろう。


 その壁は様に俺とザニア。ヴィッツとフリーゼの間を分断。そして、俺とザニア、フリーゼとヴィッツが互いに見合う形になる。


「さあ、これで狙い撃ちはできないぞ」


「ほう──、大したやつだね」



 これならフリーゼを狙うことはできない。相手の勝ち筋を封じる。

 戦いの基本だ。

 しかしザニアに焦りの表情はない。

 にやりと笑みを浮かべ言葉を返す。


「だが、その程度で私を止められると思ったら、大違いだ」


 そして俺とザニアの戦いが始まった。


 ザニアが大きな槍を持って突っ込んでくる。

 俺はその攻撃に対応していく。




 ザニアの目にもとまらぬ速さの攻撃。



「どうした、その程度か小僧。ならば大したやつではないな──」


「くっ……」


 ザニアの槍の猛攻をしのぎながら、思わず唇をかむ。

 俺とフリーゼ、ザニアとヴィッツの間に壁を作り、二人のコンビネーションをつぶしたのは正解だった。


 しかし、このザニアとかいう女。それなりに実力がある。


 決して油断をしていたわけではないが、障壁を作り、フリーゼたちに魔力を供給しながらだと、流石にきつい。


 内心苦心しつつ、ザニアが連続で繰り出す攻撃を防ぎ、時折剣を振り攻撃を加える。

 しかしザニアも長い槍を器用に操り、攻撃は通らない。


「随分苦しそうだな。目の前の相手に集中したらどうだ」


 ザニアはいったん距離を取り、障壁に視線を向けてつぶやいた。

 どうやら、障壁や周囲に魔力を使っていることに気付いたようだ。


「それは、出来ないな──」


 確かに、今の俺は障壁や仲間への加護のせいでいつもの六割ほどしか力を出せない。


 もし加護の力をやめ、ザニアを倒すことだけに専念すれば、もっと楽に戦えていただろう。

 倒せるだろう。しかし、そしたらフリーゼたちが困ってしまう。

 ──

 あくまで、俺が勝つことではなく、この場で  そのためには、俺が多少犠牲になる必要がある。


「まあいい。だが、早く倒さないと壁の向こうの彼女さんが破れてしまうかもしれないぞ──」


「大丈夫。フリーゼは、そんなことありえないから──」

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