第127話 唯一王 敵に襲われる

「皆様。申し訳ありません、皆さまが待っています。行きましょう」


「そ、そうですね。わかりました」



 そしてステファヌアは段差を降りて、帰り道へ。俺たちは互いに顔を合わせた後、ステファヌアの後を付けた。

 暗い石畳の道を歩き、巡礼は終わる。


 数時間ほどで全員に巡礼が完了。

 簡単な食事と休息をとった後、ステファヌアが話しかける。



「では皆さん。王都へ帰りましょう。皆さん、準備はいいですか?」


 俺達はすぐに出発の準備。東側の真ん中あたりの警備を任される。

 多少疲れはあるものの、これくらいは問題ない。俺たちは再び王都へと来た道を戻っていく。


 ひっそりとした緑の針葉樹の森。


「あーあ。早く帰りてぇよお。酒と女が待ち遠しいぜぇ~~」


「全くじゃ。早くつけ早く」


 国王親子の戯言。こいつらはどうしようもないな……。

 その他にも要人たちはこの後の遊びの予定を打ち合わせていたり、冒険者や兵士達の中にも余裕の表情が生まれ、女遊びや、プライベートのことなどを談笑している。



 長旅ということもあり、ところどころ息を抜きたい気持ちはわかるが、油断は禁物だ。

 俺達だけでも警戒を怠らないようにしよう。

 そんな事を考えながら帰り道を歩いていると──。


 カサカサ──。




 森の奥から物音がする。


「フリーゼ。今の物音……」


「私も聞こえました。警戒した方がいいですね」


 俺もフリーゼも耳を澄まし、周囲の気配をたぐる。

 その気配はそばにいたメイルもそれを感じて周囲に声をかける。


「気を付けてください。何かがやってきます」



 メイルの叫び声に、この場にいる全員が臨戦態勢をとった。


 カサカ、カサカサカサカサ──。


 そしてかさかさとした音は次第に大きくなっていき──。


 ドォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 東側から出た大きな爆発音がこの場一帯を包む。一気に緊迫した空気が流れ、各自戦闘モードへ。

 要人たちは一か所に集まり、その周りを警備の兵士たちが取り囲むようになる。



「おいおい、早く俺達を守ってくれよ!!」


「そうじゃそうじゃ。この無駄飯ぐらいが。早く助けろ助けろ!」


 ……むかつくのは確かだが今はそんなことを言っている場合ではない。

 その間にも周囲にいる冒険者や兵士たちがわらわらと向かってきた。


 そんな光景を見て俺は顔をしかめる。



 ヤバいぞこれは……。


 確かに俺たちのそばから爆発音がしてきた、

 しかし、敵はただ力に任せて襲って来る動物ではない。スパルティクス団というこの辺り一帯に根を張った犯罪集団だ。


 メイルから聞いた話によると、ただ力任せに襲って来るだけでなく、知能的で滑稽な戦術を多用しているらしい──。


 俺はすぐに周囲に向かって叫んだ。


「皆さん。持ち場を守ってください。この攻撃はおとりかもしれません!!」


 その言葉にこの場がざわめく。

 十分あり得る。今の攻撃はこっちの戦力を引き付ける囮で、戦力がこっちに集中したスキを狙って手薄なところに奇襲をかけてくるということも──。


「俺たちも別れよう、レディナ、ハリーセル、レシア」


「分かったフィッシュ」


 そしてハリーセルを後ろへ。レディナ、レシアを前方へと向かわせた。


「私は、要人たちのところへ。クリム、西側、警戒できる?」


「簡単よ。任せてちょうだい」


 クリムはにっこりとウィンクをして言葉を返す。そしてクリムはくるりと背を向け、反対側へと向かっていく。



 そして爆発音がした側から敵が何かがやってきた。


 灰色の、闇の力が光る人型の騎士。


 首から下がない、──ということはデュラハンだ。ザコ敵といった感じで一体一体はそこまで強いわけではないが、いつも何十体、下手をしたら百体という数で攻めて来る。

 幸い今回は、ざっと数十体ほど──。そこまで多くはない。


 ──がその姿に冒険者の中に動揺が走り、要人達は恐怖に震え、身を寄せ合う。

 かなり怯えている様子。


「ウェレンではあまり見ないやつだわ」


 西側にいるクリムの言葉を聞いて、だから怖がっているのかと頷く。


「皆さん。こいつらは一体一体はそこまで強くはありません。みんなで立ち向かえば、気っと倒せます」


 俺は周囲に向かって叫ぶ。冒険者も、少しずつだが戦う準備に入った。


「分かった。俺たちも戦う」


「ああ。ありがとな、兄ちゃん」




 そして──。


「おい、メイル。俺達を守ってくれよ!!」


「そうだそうだ。こんなザコ冒険者じゃ頼りになんねぇよ!!」



 国王ケイルと王子ジロンの罵詈雑言。せっかく身を挺して守ってくれる人たちをなんだと思っているのか。


「チッ──。仕方ありません。彼らは私が守ります」



 メイルも今の言葉、流石にイラついたのか軽く舌打ちをした。

 それでも他の外国からの要人も守らなければならないため、要人たちの元へ。要人たちに言うことを利かせることが一番できるのは、彼女だからだ。


 そして、西側からも誰かがやってくる。

 そこにはクリムがいるので、彼女に対応してもらえば良さそうだ。


「ほう、お前たち馬鹿どものことだから、爆発した側に釘付けになったかと思ったよ」


 余裕のある薄ら笑いを浮かべてやってきたのは、ボサボサな紫の髪に傷のついた顔の女。

 背は俺より少し小さいくらいで、顔には小じわがついているおばさんだ。


「バーカ。私達だって、ちゃんと考えてるわ。そんな子供騙し通じるわけないじゃない。ハウゼン」


 その人物にクリムが、槍を突き付けて余裕の笑みを浮かべながら言葉を返した。


「ハウゼン? やはりスパルティクス団。そしてあいつが親玉──」

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