第113話 唯一王 巡礼祭へ
それから送迎の馬車で、目的の場所へ。
まず俺たちが来たのは、先日行った大聖堂。その真正面の入り口。
そこにいるのはあふれんばかりの人々。みんな両手を合わせて祈るようなポーズをしていたり、深呼吸をして、リラックスをしたりしている。
俺達は怪しい素振りをしている人がいないか、歩いて確かめる。
たくさんの人がいる場所。その上ここには要人たちも来るとあっては、どうしてもテロなどが起きやすい。
俺たち以外に兵士の人たちもそれなりにいて、どこかピリピリしている雰囲気だ。すると、俺たちの隣にクリムとメイルがやってきた。
「フリーゼ。夜はお愉しみだった?」
「……おはようございます。普通に良く寝られましたよ」
からかうクリムの言葉。フリーゼは軽くあしらう。
スーツ姿のメイルは、クリムとは対照的にお行儀良く頭を下げる。
「皆様、おはようございます」
「おはようフィッシュ」
「今日からが、巡礼祭です。皆さん、問題なく巡礼祭が進むようご協力の方、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。一緒にこの人たちを守っていきましょう」
そしてメイルは警戒した素振りで周囲に視線を向けた。
「とりあえず、今は魔力の気配は感じませんね」
「はいメイルさん。それは、俺達も感じています」
「──しかし、油断は禁物です。いつ敵たちが奇襲してきてもいいように、警戒は緩めないようにしましょう」
フリーゼの言葉通りだ。油断させておいて奇襲を仕掛けてくる可能性だってある。
いつ敵が襲ってきてもいいように、警戒を強めておこう。
幸い、特に問題もなく時間が過ぎる。すると、大聖堂から一人の人物が出て来た。
「皆様、これから巡礼祭の開始に伴う、大教皇様の挨拶を始めます。神聖な儀式の始まりゆえ、お静かに話を聞くようにお願いします」
「いよいよ現れますね。この教会の象徴。そして、私とクリムの両親の様な存在」
その言葉に信者の人々、話し合ったりしゃべったりしているのをやめ、視線を大聖堂へと向けた。
そして、大聖堂の三階。俺たちが視線を集中させている大聖堂から突き出ている場所。そこに一人の人物が中から合わられた。
その瞬間、ざわめいていた信者の人たちが、歓喜の声を上げた。
「おおっ、ステファヌア様!!」
「なんと若くてお美しい。私感動してしまいましたわ」
「あれが私達の教会の最も権威がある人物であるステファヌアです」
その人物が信者たちの前に現れたその瞬間、この場の雰囲気がどっと変わっていくのを感じた。
長身でクリーム色のロングヘアをした女の人。
くるりとカールが巻いてある髪質。見た目からしておっとりしていてとてもやさしそうな人。
教皇ともあって、周囲からも尊敬を集めているのだろう。彼女が壇上に登るだけで周囲の人たちがざわめいてるのがわかる。
ステファヌアは壇上に登って一度頭を下げてから、信者たちに視線を送る。
信者たちはすぐに精一杯の握手をしはじめた。
しばらくの間、拍手の音でこの場が埋め尽くされる。拍手が終わるとシーンと静まり返り、信者たちの視線が教皇に向かって吸い寄せられた。
「この人、演説の仕方、うまいと思うよ」
「どうして?」
レディナの質問に、俺は以前読んだことがある本の知識を総動員して答える。
「今の間。信者たちが拍手をして、すぐに演説を始めなかった。それさ」
「どういうことフィッシュか?」
「拍手をして、静まり返る。そこで沈黙をしていると、何があったのかと周囲は自然と彼女に集まる。そしてその瞬間から演説を始めていくということさ」
「なるほど、人々を引き付ける才能があるということですね」
「皆様がより深く大天使たちを信仰できるよう。深く彼らのご加護を受けられるよう、私達が責任をもって、皆さんの分まで祈ります」
「また、この巡礼祭を無事に終えるために、協力してくださる冒険者達や兵士たちの皆様。この巡礼祭の警護にご協力いただき、ありがとうございます。皆さんにも幸せが届きますように、私達が──、責任をもって巡礼を行いますので、ご協力の方よろしくお願いいたします」
その後も、ステファヌアはこの場にいる人たちに視線を向けながら演説を続ける。
信者たちは誰一人ヤジを飛ばしたりせず、食い入るようにステファヌアの話を聞いていた。
そして、演説を締めくくる言葉がこの場に響き渡る。
「皆様。私の言葉をご清聴いただき、本当にありがとうございました」
信者たちは大いに盛り上がる。そして全員が大きく拍手をし始めた。そしてステファヌアは一礼をした後、壇上から降りる。
ゆっくりと歩いて俺たちのところへと向かってきた。
「──ふぅ、やっぱり大勢の前での演説は疲れますね」
ほっとしたような表情、ため息をついて話しかけてくる。
「お、お疲れ様です。しかし、どうしてここへ?」
「あ、あなたがフライさんですね。初めまして、警備の方、よろしくお願いいたします」
ステファヌアさんの、さっきと変わらない落ち着いた物言い。
「は、はい。警備の方、頑張らせていただきます」
そして彼女はメイル、クリムと一緒にこの場から去っていき、広間の入り口にある馬車に乗り込んだ。
「じゃあフライ。私達も準備に入るわよ」
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