第111話 夜、うごめく闇

「ごちゃごちゃうるせぇよ!!」


「言い訳はいらん。この役立たずの無能が、何か問題でも起こしたら、承知せんぞ。即刻帰ってもらう。代わりなどいくらでもいるのだからな!!」


「そうだ! わかったらこの場から去れ」


 二人の罵声にメイルはこれ以上の弁解は無駄だと理解し、頭を下げる。

 彼女自身は、国のことを一生懸命考えているだろうに……。なんか可哀そうになってきた。


 おまけにハリーセルは、顔を露骨に膨らませ、機嫌を悪くしている。早く立ち去らないと余計なもめ事を起こしてしまいそうだ。


「わかりました、警備のほう、しっかりと対応いたします。それではこの場を去らせていただきます」


「チッ。当り前だろ。何かあったらただじゃおかないからな」


「それでは、わたくしメイルは全身全霊を持って、王国の警備に当たらせていただきます」



 そして俺たちは頭を下げ、この場を後にしていった。


 宮殿の入り口を出た瞬間から、俺たちは国王たちのことを口にし始めた。

 どんな内容だったかは言うまでもない。


「あの人たち、なんかすっごい柄が悪そうなんだけど、大丈夫かな──」


「そうフィッシュ。最低な奴らだフィッシュ」



 特にハリーセルは、腹を立てていた。さっきも露骨に機嫌を悪くしていたし、もう少し長引いていれば、もめ事になってもおかしくはなかった。


 しかし、まだここに来たばかり。こんなところでもめ事は起こしたくはない。



 するとクリムが俺たちの方へ向かってきて、俺たちに話しかけてきた。


「よく我慢できたじゃない。あいつら本当にクズだわ。本当ならボッコボコにしてやりたいくらいよ」


「私もそう感じたわ。あいつら、まともな政治出来てるの?」


 レディナがあきれ顔で質問すると、メイルとクリムがあきれたような表情をし始めた。

 俺達はそれを見て、彼らがウェレンでどんなことをしていたか、よく理解できた。



 メイルがため息をついて俺たちに話し始める。この国の王族の実情を。


「はっきりと言います。ウェレン王国の王族は、クズの塊です」


 きっぱりとした物言い。やはりといった感じだ。


 話によると、国民から集めたものという自覚がなく、自分たちの快楽のために平気で税を使いこむ。

 無駄に税を取り立てては女を囲い、国民たちの貧窮に関心を持たず宴や豪遊に明け暮れているという。


 国民の金と自分たちの金の区別がつかない。よくある腐敗した王族のタイプだ。

 メイルも、クリムも、残念そうに呆れかえっているのがわかる。


「本当に呆れるわ」



 ひどい王族というのはよくわかった。それでも、守らなければいけないのか。

 まあ、報酬をもらっている以上、気に入らないやつだから守らないというのはふさわしくないから仕事はするけどさ……。


 でもそんな王族では国民の心も離れるし、敵も作りやすいから、こういう国の行事に乗じてひと悶着起きやすい傾向にあるんだよなぁ。





 これから、大変な戦いになりそうだ。

 けれど、みんなで力を合わせて頑張っていこう。


 そう心に強く誓って、俺達はこの場を後にしていった。











 みんなが寝静まった深い夜。この大きな聖都に人の気配があった。

 郊外に位置する大祭司様や信者たちが礼拝に使用している街のとある神殿。


 そこは、信仰上の重要な場所ゆえ、人が寝泊まりしていることはまずありえない。


 信者ですら、教会の許可がなければ入ることができない聖域の様な


 つまりそこは権力者たちが人々に知られずに密談をするにはもってこいの場所だった。



 真っ暗な部屋の中、わずかなランプの灯火が灯す部屋。本来は神聖であるはずのその場所で、静かな声だけが聞こえていた。


「……んで、作戦を実行できる準備は整ったのかい」


「ああ、これで、この街は大混乱。王国も、教会も、権威は失墜間違いなしだ」


 白いフードを被った人物の言葉。返事をしたのは黒いローブを身にまとった女傭兵だ。

 かつてはウェレン王国やその周辺を荒らしまわり、その利益を我が物顔でむさぼっている人物。


 ウェレン王国や周辺国では指名手配され、重要危険人物として恐れられている。


 逆賊「スパルティクス団」の最高責任者。ギルガド・ハウゼン。

 彼女は傭兵としてのAランク相当の単純な実力もさることながら、裏社会を通じた裏切りや寝返り工作。


 経験豊富なベテランであることを生かした何十にも積み上げられた戦略。

 巧妙な罠にやられた冒険者は少なくない。



「しかし、大丈夫か。教会に派遣しているスパイから聞いた情報だと、教会側は私達を警戒しているだね。精霊たちを要する助っ人を用意したらしいだな」


 ハウゼンは、巧みなスパイ網を利用し、王国や教会の情報をつかんでいる。

 積み上げられた戦略に必要な正確な情報源。


 そしてそれらを持っても決して油断せず、慎重に作戦を実行する。

 確かな実力があり、周囲から実力を認められても、決して過信せず、しかし卑屈にならず、冷徹に作戦を実行していく。


 それが、彼女の強さなのだ。



「ああ、精霊四人に、それを使役する人間が一人。名前はフライといったな」


 すると椅子にふんぞり返っている男がにやりと笑みを浮かべる。黒いフードをかぶり、周囲から姿を隠している人物。


「フライか、アイツにはいろいろ世話になったな。あいつのせいで、俺は表舞台で活動する資格を失った。あのクソ野郎。俺を裏稼業に落とした恨みを、果たさせてもらう」


「そうだったなトラン。貴様にとっては雪辱ともいえる戦いになるだね」


 赤髪でツンツン頭の青年。

 そう、この場所にいる人物の一人は、かつて俺と対峙した冒険者「トラン」だ。

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