第100話 唯一王 村人たちと一緒に村へ

 俺達は同時にダルネルさん達の方へと向かっていく。


 そう、ダルネルさんを助ける方を選んだ。当然だ、いくら何でも自分の目的のために他人を犠牲にさせるなんてできない。


 そしてダルネルさん達をユニコーンから引きはがす。強さ自体はそこまでではないので、少し時間はかかったものの、すぐになぎ倒していく。


「フライさん。ユニコーンが」


 フリーゼが石英がある方を見て叫ぶ。そこにはサッと石英の方を目掛けて走っていくユニコーンの姿。


 そしてユニコーンが、ユニコーンたちは石英を持ってこの場から消えてしまった。

 恐らく転送系の魔術を使ったのだろう。どこに行ったかは、全く知る由もない。


「逃げられて、しまいましたね。申し訳ありません」



「謝らなくていいよフリーゼ。この判断に後悔なんてしていないから」


 そうだ。こうなることは、初めから予測はしていた。強引に突っ込んで、行けば手に入れられる可能性はあったかもしれないが、そうしたらダルネルさんが助からなかった可能性があった。



「それは分かっています。彼らを見捨てるなんて、そんなことできませんよ」


 フリーゼが暗い表情で言葉を返す。俺も、同じ意見だ。


 確かに俺たちは絶対に負けられない戦いをしている。

 けれど、そのために誰かが犠牲になるなんて絶対に許容できない。


 それが、俺たちが出した答えだった。


「ごめんねフリーゼ。こんな結果になっちゃって」


 それでも、結果は結果だ。

 フリーゼはフッと微笑を浮かべた。そして優しい口調で言葉を返して来る。


「フライさんらしい答えです。私も同感です。こんなことをして勝ったって全く嬉しくありませんし、レディナさん達だって同じ答えを出しただろう」


 フリーゼの優しい言葉が、今は胸にしみる。

 すると、人質だったダルネルさんが俺たちのところへとやってくる。


 罪悪感を感じた、申し訳なさそうな表情。


「ダルネルさん……」


「フライさん。申し訳ないべさ。オラたちのせいで……」


「いえいえ、そんなことありませんよ。自分たちで選んだ選択ですから──」


 すると別のおじさんの冒険者も申し訳なさそうに謝って来た。


「すまねぇだ。だって大切なもんだべさ? あの石英」


「はい。けれど取り返しがつかないというわけではないですし、それより皆さんを犠牲にしてしまった方がよほど取り返しがつかないことですから」


 そうだ。たとえ負けたからといっても、別に命を奪われるわけでも奴隷の首輪をつけさせられるわけじゃない。


 単に冒険者としての資格を失う「かも」しれないということだ。


 それならば簡単だ。何度でも頼み込めばいい。


 やりようならいくらでもある。アドナは、笑うだろうが、そんなことは気にする必要はない。

 笑われているのは、慣れている。


 そんなことより、自分たちの目的のために一緒に行動しているこの人たちを失うことの方がよほど屈辱だ。


 失った命が戻らないのはもちろん、見捨てたという事実がいつまでも心の奥底に残ってしまう。そして日常に戻って、ふと気持ちが途切れた時に思い出してしまうのだろう。


 自分が見捨てていった人たちのことを。


 そんなことは、絶対に嫌だ。フリーゼも、レディナ達も、同じ答えを出すだろう。


「だから気にしないでください。それより、皆さんが無事だったことの方がとても嬉しいです」


 そうだ。冒険者というのは、魔物や動物たちの命を狩ることもある一方、ウェルキの様にいつ命を落とすかもわからない。だから無事にクエストを終えるというのは当たり前ではない。それを忘れてはいけない。



「──済まねえだ、フライさんよ。なんも得られんくて」


 シュンと落ち込んでいる冒険者。

 取りあえず、いったん休憩だ。


 その後、俺達は消耗した身体を休めるためにしばらく休憩をとる。

 そしてしばらくたつと、冒険者の人が立ち上がる。


「もう十分休んだべ。ほら行くで。日が暮れちまうだよ」


「そうですね、そろそろ行きましょう。皆さん、動けますか?」


 すると冒険者の一人が元気そうに言葉を返してきた。


「ああ、大丈夫さ。けどよフライさん。あんたもう少し強引に行ってもいいだよ」


「ご、強引だなんて、そんな──」


 そうはいってもここにいるのは明らかに目上で年配の人たち。どうしても謙遜するような言葉使いになってしまう。


 するとダルネルさんが話に入ってくる。


「そんなことないべよ。あんた謙遜しすぎだべさ。たまには傲慢になったっていいさ」


 その言葉に俺は一息ついて、フッと笑って言葉を返す。


「確かに、そうかもしれませんね」


 それもそうだ。頼ってばかりというのは、あまりいい気分ではない。まるで自分が足かせになっているのかと思い込んでしまう。

 たまには、彼らを信じてもいいのかもしれない。


「じゃあ、皆さん行きましょう」


 そして俺たちは村へと帰っていく。

 今回は、何も得られなかった。けれど大切なことを思いだした。


 みんなが無事なのは、当たり前じゃない。だから誰かを犠牲にするなんて、絶対に選択しない。


 これからも、みんなが無事でいられるように全力を尽くしていこう。

 悔しい感情はあったけれど、みんなが無事に帰ることができてよかった。


 そんな感情を抱きながら俺たちは村へと戻っていった。

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