第101話 唯一王 まさかの結果に驚く

 村に帰還。ブラマーさんのところへと戦況報告へと向かう。

 正直、足取りが重い。


 全く戦果を得られなかったからだ。こんなことは今のパーティーではなかった。

 こんな気持ちは数年前、アドナ達といたころ以来。あの時はアドナとウェルキに「お前のせいだゴミ」、「責任取って腹を切ったらっどうだ」などと罵詈雑言を受けたが、ギルドでは優しく慰めてくれた。


 今回はアドナたちはいないから、責められはしないが、ギルドの様にはいかないだろう。


 それでも逃亡なんてしたくはないから行くのだが。



 そしてブラマーさんのところへと戻る。


 もちろん正直に話した。石英を手に入れられなかったことを。



「そうか、手に入れられんかったか」


「はいブラマーさん。申し訳ありませんでした」


 ブラマーさんは重い表情でただ首を縦に振った。

 気まずいどんよりとした空気がこの場を包む。一緒に席にいたフリーゼも、どこか気を落としているような表情。


 ブラマーさんは、最初の言葉以降何も口にせず、ただ重い表情で俺を見ていた。


 ──時間にして数分ほどたっただろうか。ブラマーさんは黙って席を立ち、後ろにある扉を開け、奥の部屋へといってしまう。


「待ってろ。おめえさん達」


「──はい」


 その言葉に俺達はこの場に座ったまま、ブラマーさんが戻ってくるのを待つ。

 俺とフリーゼ、互いにきょろきょろと顔を見合わせたままこの場にとどまる。


 何が待っているのだろうか、何かの仕打ちなのだろうか。


 数分ほどたつと、奥の部屋から足音がしてきてこっちに向かってくる。

 そしてブラマーさんは扉を開けて戻ってきた。大きなものが入った麻の袋を持ってきて。


 さっきまで彼が座っていた位置に再び胡坐をかいて座り込む。すると麻の袋からから青い水晶ドクロを五つほど取り出した。


「もらっていきな──」


 その言葉に俺は耳を疑った。

 想像もしなかった言葉に俺達はただ驚くばかり。俺は慌ててブラマーさんに問いただす。



「待ってくださいブラマーさん。このドクロ、あなた達の魂の様なものだと聞きました。それを私達なんかに──」


「別にいいだよ」


 ブラマーさんは俺の言葉を遮るように言葉を返して来る。



「ダルネルたちから聞いたぞ。ユニコーンを退治するところまで行ったど、じゃがあいつらが人質に取られて、アイツらを助けるためにすべてパァになっちまったど」


「えっ、そのこと知っていたんですか?」


 ブラマーさんの言葉に俺もフリーゼも驚いてしまう。クエストで起こった出来事は、俺もフリーゼもブラマーさんには教えていなかった。


 クエストで起こったことはブラマーさんに全く関係ないし、何より負けた原因をダルネルさん達に押し付けているようで嫌だったからだ。



「あいつらが頭を下げて頼み込んできたど。 言っていたで、フライさんは俺たちに力をくれた。けど俺たちが弱いばかりに足を引っ張ってしまい、そのせいで石英を持って帰ることができなかったど。 だから彼らに何か埋め合わせをしてほしいと」


 ダルネルさん達。そんなことまでしてくれたのか。素晴らしいとしか言いようがない。俺たちは彼らの行動にただ言葉を失ってしまう。


「待ってください。彼らは何も悪くありません。本当です」


 俺はダルネルさん達を必死にかばった。

 別に彼らは足を引っ張ってなんていない。一生懸命闘ってくれた。


 確かに人質にはなってしまったけれど、敵が予想以上に連携が取れていて強いというのがあった。何より彼らは最後まで戦う意思を持っていた。それを聞いていながら戦いをやめるという選択をしたのは他でもない俺だ。


「そういう所だお主」


「どういうことですか?」


「私も気になります」


 二人で理由を問い詰める。ブラマーさんは先ほどと変わらず、無表情のまま答える。


「お前さんたちは そういう所を見込んだのじゃ。お主たちの様な人物ならば、われらの宝を与えてもよいと思った。ただそれだけじゃ。もらってけ、ここにきて断るのは逆に失礼というものじゃ」


 もらってけといわれても、やはり遠慮してしまう。ブラマーさん達が水晶ドクロにかける思いは、ユニコーンと戦う前から知っていた。


 だからこそ、ただでもらうわけにはいかない。そう考えて初めて会う冒険者達とも力を合わせ、ダンジョンを越えてユニコーン達とも死闘を繰り広げたのだ。


 どうしていいかわからず、黙りこくってしまう。

 するとフリーゼが俺の肩を優しく叩いて話しかけてくる。柔らかく、優しい表情。



「フライさん。私もそう思います。謙遜ばかりがいい行動ではないと思います。ブラマーさんのご厚意、受け取りましょう」


 ──確かにフリーゼの言う通りだ。俺は、他人の好意を素直に受け取るのがどこか苦手だ。

 フリーゼと出会う前まで、蔑まれてばかりで、誰からも評価されていなくて、そんな経験が全くなかったからだ。



 けれど、相手が好意を持っているなら、素直に受け取ろうと今の言葉をきいて思えるようになった。

 これからも、抵抗はあるかもしれないけれど、自分の気持ちを正直に出していこう。


「そ、そうだね。ありがとうフリーゼ」


 そして俺はブラマーさんの方向に視線を向ける。


「ありがとうございますブラマーさん。それでは、その水晶ドクロ、受け取らさせていただきます」


 するとブラマーさんはニッと笑みを浮かべた。驚く俺とフリーゼ。

 今までブラマーさんはずっと仏頂面で表情一つ変えなかった。それが突然笑みを見せたことに俺は驚愕したのだ。


「おう。好意は素直に受け取るものだべ。お主のご武運、祈っておるぞ」


 その言葉に俺とフリーゼは立ち上がって頭を下げた。

 クエストに失敗したというのに、𠮟責の一つもなく、逆に褒美をもらえるという始末。


 感謝以外の言葉が本当に見当たらない。自分たちの魂を譲ってくれた、そのことに──。



「いつかここに来たら、絶対に恩返しします。ブラマーさん、本当にありがとうございました」


 そうお礼を言って、俺達はこの場を去っていく。


 紆余曲折あったけれど、何とか水晶ドクロを手に入れることができた。五つほど。


 俺は自分でできることをすべて行った。悔いはない。

 後は結果だけ。アドナ次第。


 何とか勝利でき、俺たちが無事に旅を続けられることを祈るしかない。

 たとえ何があったとしても、俺達はやるべきことをやる、ただそれだけだ。


 信じよう──。自分たちの信じる道を。

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