第32話 この後 そして破綻していく仲間達

「間接キス──になってしまいますね」


 そ、そう言えばそうだ。考えてみれば俺がフォークを差し出すんじゃなくて、フリーゼに取らせればよかったんだ。


 彼女はそれを意識してしまったようで、顔を赤くしてしまう。確かに、俺はフリーゼにクリームを渡す前にケーキを食べている。

 俺が口をつけたものをそのままフリーゼに渡した。そして俺はこのフォークで残りのケーキを食べるのだから。

 そこまで考えていなかった。

 彼女は一瞬はっと顔を赤くした後、すぐ真顔に戻る。


「全く。はしたないですね……」


 とりあえず、このパフェの味があっているかどうか聞いてみよう。


「どう、おいしい?」


「まあ、おいしいですね……」


 感想は、短くあっさりしていたものだった。フリーゼにしては感情を出していたと思ったのだが……。


 俺は彼女を見つめていたが、表情は変わらない。


「う~~ん」


「な、何でしょうか」


 それに気づいたフリーゼが、訝しげに見つめてきた。


「あ、いや、フリーゼってあんまり笑わないなーって思ってさ」


「そ、そ、そんなことはないと思うわ。第一、私が笑った所を見て何になるというのですか?」


 気のせいか、フリーゼがどこか喜んでいるように見える。


「だから、おいしいものを食べたら笑顔になるんじゃないかなーって思ったんだけどさ……」


「全く、フリーゼは以前から全く変わっていないフィッシュ。そんな不愛想じゃ男にもてないフィッシュ。フライにも嫌われてしまうフィッシュ」


「──余計なことを、言う必要などないですよ。フライさん」



 照れるように顔を真っ赤にしながら言葉を返す。そういう所、とても魅力的に感じる。

 いつか、フリーゼが心から喜ぶ姿が見てみたいものだ。


 それから、俺たちはケーキを食べる。

 スポンジにクリームが乗った簡単なケーキだったが、それなりにおいしく感じた。甘さが控えめで香り豊かなコーヒーとよくマッチングしている。


 そして俺とフリーゼが食事を終えた直後──。





「とってもおいしかったフィッシュ。甘いものは別腹だフィッシュ。また今度食べたいフィッシュ」


 ハリーセルが満面の笑みで腹をポンポンなでなでしながら「ご馳走様」と完食宣言。

 あれだけてんこ盛りにあったクリームとフルーツが、いつの間にかなくなっている。



 こいつの食費、大変なことになりそうだ。

 そして俺たちは今後のことについて考え始める。


「とりあえず、今後のことだけど、やっぱりあってみたいな」


「救われた精霊のことですか?」


「ああ、ぜひ会ってみたい。どうしてその人物は一人で外で行動できるのか。きになるんだ」


 そう、先ほどギルドでリルナさんから聞いた言葉。遠い国に精霊と名乗る人物がいるのを聞いたという噂。


 リルナさんによると、その精霊は一人で行動しているらしい。

 それはおかしい。本来精霊は、その呪いにより古代遺跡から出ることはできない。

 出るとしたら俺のような精霊に関するスキルがある人がそばに居なければならない。


 それはとても希少なスキルでこの国では俺以外に該当者がいないというほどだ。


「おそらくですが、誰かフライさんのようなスキルを持っている人がいて、その人が彼を解放した。それから理由があって一人で行動しているとか」


「それはあり得るな……」


 なんにせよとりあえず、行ってみる価値はあると思う。


 そして今後の俺たちの予定が決まった。

 ここから遠くにあるフリジオ王国、まず物資の準備をしてから出発だ。


 そして俺たちは店を出る。

 お会計。約一名豪華なパフェを頼んだせいでえらいことに……。



 まあ、また稼いでこよう。



 そして俺たちは、遠征の準備を行い始めた。








 俺たちがゆっくりと遠征への準備をしているころ──。


「目的地に着いたよ。とりあえず、約束の金貨十枚。よこしな」


「金貨十枚だと? ただ馬で運ぶだけなのになんでそんなにぼったくってんだよ。半額にしろよ!」


「ふざけんじゃないよ。契約書通りの内容だろ。大体こっちだってただ運ぶだけって言ったけどそうじゃないんだよ。馬のえさ代や人を長時間運べるようにするためのコンディションを保つために気を使ったりとかいろいろあるんだよ」


 フリジオ王国に到着したアドナたちだ。


 彼らは俺たちがリルナさんと俺が精霊の話をしているのを横で聞いていた。

 そして自分たちもそこへ行ってみたいと許可を取った後、一刻も早く失った名誉を挽回するために、準備もままならないまま新しい精霊の情報を手に入れた翌日に街を出発してしまったのだ。



「このクソ野郎が」


「アドナだっけ、何とでも言えよ。だから早く契約通りここまでの運賃、払いなよ」


 その上、契約書もろくに読んでいなかった。金貨十枚といえば四人パーティーならば一週間は暮らせるそれなりの大金だ。

 それをここで払えと初めて知ったのだから感情的になる。


「めんどくせぇ。信用貸しにしといてくれ」


「いいから早く金を払えクソ野郎! てめえらはパーティーからメンバーが抜けて、弱くなっているんだろ。もうSランクから降格なんだろ。んな奴信用できるかよ。金をよこさなかったら、てめぇらをブラックリストに指定して、二度と誰からも馬車を借りれなくしてやるからな。だから、早く金を出せ」


「チッ──、わかったよ。出せばいいんだろ出せば!」

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