第9話 唯一王 ギルドへ帰還

 俺たちはダンジョンを抜け、元来た道を戻っていく。

 砂漠の道、特に問題なく進む。水のある場所もばっちり地図に記録しているし、食料もしっかりと抑えていたから問題はなかった。


 砂漠の道に、その後は街道を一直線。


 二日もすると、街に帰還。

 石畳の道に、風車、王都らしく綺麗でしゃれている建造物。フリーゼは街並みを興味津々そうに見ていた。


「そんなに街並み、見たかったの?」


「はい、私は生まれてずっと遺跡に住んでいました。なので、人々が住んでいる街並みを目にするのは初めてでありまして、とても興味がございます」


 確かに、フリーゼにとっては初めて見る光景なんだろうな。そっとしておいてあげよう。


 少し歩くと、ギルドに到着。街の中でも、そこそこ大きい建物。

 伝統があるような古風な外見になっている。


 そして冒険者たちが出入りしている姿を見ていると、フリーゼが話しかけてきた。


「私は、何をすればいいのですか?」


「とりあえず、ギルドに名前を登録しよう」


 そうだな、フリーゼも冒険者として一緒に活動した方がいい。

 お金の問題もあるし、彼女の強さなら大活躍できるだろう。


 そして俺たちはギルドの中に入る。

 ギルドに入るや否や、初めて見るフリーゼの姿に周囲が視線を向けてくる。

 斧を背中にしょい、葉巻を吸っているおじさん、大鎌を持った同い年くらいの冒険者が俺たちを見てしゃべり始めた。


「あれ、フライだろ。なんだよ、知らない女なんか連れて」


「しかも結構かわいいし。彼女かよ。爆発しちまえよ」


 ──変な嫉妬を買ってしまったような。

 俺は他の冒険者たちの噂を無視して受付へ。俺が一言挨拶をすると、奥の部屋から早足でその人物はやってきた。



 ピンク色のぽわぽわとした背が低い女の人、ギルドの受付係の人、リルナさんだ。

 俺の姿を見ると、ほんの少し驚いた表情をして、話しかけてくる。


「あれ、フライさんクエストはどうなったのですか?」


「それなら大丈夫──とはいえないけれど、何とか帰ってきた。遺跡の主の精霊を連れてきて」


「精霊? 隣にいる方がですか? では、他のお仲間さんたちはどうなったのですか?」


 困ったような表情で質問してくるリルナさん。確かに、これじゃあ他の奴らが死んじゃって俺だけ逃げ帰ってきたとも言い切れるな。


「なんていうか……方向性の違いというか、ちょっともめちゃってさ、俺あのパーティー首になって。代わりに彼女と組むことになったから。手続きの方をしたいんだ。いいかな?」


 その言葉にルリナさんははっと驚いで言葉を返した。


「えっ? 他のパーティーの人たち、まだ帰ってきていないですよ。生きているんですか? いくら首になったとはいえ元パーティー仲間ですし、生きているかどうか確認しなくてよかったのですか?」


「え? 彼らなら大丈夫だと思いますよ。俺、行きは一人で戦ってたけど、そこまで強い敵じゃなかったし、アドナたちなら楽勝で突破できると思いますよ」


 リルナさんは優しい所があるから言っているんだけど、流石に心配しすぎじゃないかな……。

 それでも彼女は俺に迫り、心配そうな表情で話してくる。


「しかし、あなたのパーティーってフライさんの加護があってこそのSランクだったじゃないですか。案内役だってあなたがやっていたんでしょう?」


 確かに、地図を片手に道を進んだり、罠を警戒して引っかからないように、出来るだけ敵と戦わないように円滑に目的まで道を進む。

 強敵を倒したりするような派手さはないが、とても重要な任務だ。


 それを、仲間たちは「これくらい簡単にできるだろ!」なんて罵声を浴びせていた。

 誰にでもできる、替えはいくらでもいる。そう思っていたんだろう。


 だからあいつらだって何とかやれているだろう。


「そうなんだけど。追い出したのはあいつらだ。だから、俺がいないことに関する代案くらいは、出しているだろう。生きているとは、思いますよ」


 恐らくミュアやキルコが案内や雑用、ウェルキとアドナは俺がいない分少なくなった魔力の加護で必死に戦っているのだろう。


 いくら何でも代案もなしに俺を追い出したなんてことはないはず……だ。


 リルナさんはどこか心配な表情をしながら納得し、もう一つの話題へと移った。



「了解しました。とりあえず、彼らの無事を祈りましょう。あと、宝玉ですが……持ってきては、ないですよね」


「す、すいません。リルナさん」


 宝玉は、当然手に入れることができなかった。


 命賭けの戦いだったため、それどころではなかった。しょうがない。命が助かっただけでも良しとしよう。

 それに貴重品であろうから、フリーゼに欲しいと言っても断られると思う。


「そ、そうですか、仕方がありません」


 がっかりしたリルナさん。すると隣にいたフリーゼが胸に手を当て、話しかけていた。


「その宝玉というのは、エメラルドのヒスイでよろしいでしょうか」


「は、はい。それです」


 すっと彼女が自分の胸の前に両手を置く。するとその両手がほんのりと緑色に光り始めた。

 そして両手に中に現れたのが──。


「すごい、綺麗です。これが、エメラルドのヒスイですか?」


 フリーゼは黙ってコクリと頷いた。考えてみれば彼女はあのダンジョンのマスターだ。だからあそこにある宝玉を持っていてもおかしくはない。


 エメラルドのような色をした、透き通った緑色の宝玉。今までにないくらい綺麗で、大きな宝石だった。


「でも、大丈夫かよ。いくら金のためとはいえ渡しちゃって。貴重品じゃないのかこれは──」


「別に貴重品でも何でもありません。私達の世界ではありふれたものです。私が元の世界と行き来すれば、簡単に手に入るので、そのような心配は無用です」


「そ、そうですか。ではいただきますね」


 そして申し訳なさそうな表情をしながらリルナさんはヒスイを受け取った。

 これで報酬ゲットだ。

 すぐに俺は証明証を受け取る。

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