いつかのジューンブライド
瑞樹(小原瑞樹)
祝宴と焦燥
それは5月のとある日曜日のこと。都内にある結婚式場で、若いカップルが挙式を挙げていた。新郎新婦はまだ20代前半くらいだろうか。多くの人に注目されて恥ずかしそうにしながらも、幸せを隠しきれないように時折顔を見合わせて笑っている。
晩婚化・非婚化の時代と言われ、結婚しない若者が増えている社会の中で、この若い2人の結婚は関係者の間で快く受け入れられ、この場に集まった誰もがこの結婚を心から祝福しているように思えた。――ただ1人を除いては。
会場の前方、両家の親族が集まったテーブルの中で、
新婦の名は
だが、祐希にとって一番不思議だったのは、あんな妹が自分より早く結婚したということだ。
祐希はちらりと隣の新郎を見やった。実咲の同僚だというこの青年は、緊張しているのか、頻りにハンカチを取り出しては額の汗を拭いている。小太りに眼鏡というお世辞にも格好いいとは言えない見た目だが、それでも挨拶に来た時の礼儀正しい態度には祐希も好感を覚えたし、何より実咲のことを本当に好きでいることが伝わってきた。実咲のことを熱心にほめそやす彼の姿を見て、祐希はつくづく不思議に思ったものだ。どうして妹にはこんな人がいるのに、自分には誰もいないのだろう、と。
祐希も女っ気がある方ではない。実咲ほどではないにしても見た目には気を遣わない。髪型はショートカット、服装は基本パンツスタイル、メイクもあまりしない。そんなボーイッシュな外見で男が寄ってくるはずもなく、祐希は今まで一度も彼氏がいたことがなかった。
でも特にそのことを気にしたことはなかった。男の友達ならたくさんいたし、その子達と仲良くやっていられればそれでいいと思っていた。
ただ社会人になり、今まで遊んでくれていた男の子達がどんどん結婚していく中で、祐希もさすがにこのままではまずいかもしれないと思い始めていた。
そして極めつけが妹の結婚だ。知らないうちに周りはどんどん変わっていって、自分1人だけが取り残されてしまったような感覚。年齢を重ねるたびに強くなるこの感覚に対して、祐希も無関心ではいられなかった。
(あたしももう27だもんな……。結婚、そろそろ考えないといけないかも。)
若き2人への祝福ムードに包まれる会場の中で、祐希は1人我が身に思いを馳せていた。
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