お米の話

「お米一粒には88人の神様がいるんだよ」


 僕は神様なんて信じてなかったけど、あのに嫌われたくなかったから、残さず食べた。純情だね。


 ご飯を食べていると、時々この話を思い出す。

「あの娘、元気にしてるかな」なんて。

 そして、ご飯粒を一粒一粒、箸でつまんで食べている。健気だね。


 そういえば、あの娘「家族の中で一番食べるのが遅い」なんて話してたっけ。

 母親に嫌味を言われて、そんな話を思い出した。

 本を読みながらでも、ちゃんと食べてるんだよね。なかなか信じてもらえないけど。


 将来の夢。あの娘は「銀行員か弁護士になりたい」なんて話してた気がする。

 まだ小学生だよ? すごいよね。

 僕は今も昔も、将来の夢なんて何もない。教師にでもなろうかしら。


「漢字が覚えられない」なんて、あの娘に向かってぼやいてたな。

 覚えようとしなかっただけ、なんだけど。

 あの娘は特に何も言わなかったっけ。もっと他に話すことあっただろ、昔の僕。


 むかし、ほっぺたをグニって、あの娘に弄ばれてたな。

 それはもう最高でした。

 今は痩せこけて、ほっぺたなんて残ってないけど。悲しいね。


 一学期の終わり。あの娘が引っ越した。

「これからだ」なんて思ってた矢先だよ。

 たった4ヶ月。されど4ヶ月。隣の席の女の子。


「あの娘、元気にしてるかな」なんて考えながら、僕はご飯粒を箸でつまんでいる。

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