第31話 私で良ければ協力しようか?
私、森崎由亜はこの日の晩も、部屋の中でいつもの様に風呂上りに衣服を着ない状態でのストレッチを行っていた。
そんなストレッチを行いながら、私はこの日のスピアーズのライブの事を振り返りながらストレッチを行っていた。
虹川さん、ライブ中に歌の歌詞を間違えたり、ダンスの振り付けを間違えたりと、本当に凄く悩んでいるみたいね……
虹川さんと同じスピアーズの火花さんと氷山さんは虹川さんの草プロ行きに関して、特に反対をしている様子はないものの、虹川さん自身は草プロ行きについてどう思っているのだろう?
私は、ストレッチをしている最中でも、虹川さんの事が気になり頭から離れなかった。
そんな感じで、虹川さんの事が気になりながらもストレッチを行っていた時、ドローン状態のリーフィがストレッチ中の私の元に近づいて来た。
『ユア、チャットが届いてます!!』
「チャットぐらい、ストレッチが終わってから見るよ。どうせいつでも見る事が出来るのだから、別に急いで見る必要なんてないわよ」
リーフィは、私のスマホに一通のチャットが届いた事を知らせに来ただけであった為、私は無視をしてそのまま日課であるストレッチを続けようとした。
『でも、急いで見た方が良いですよ』
「どうして?」
『チャットの送り主は、あのシズクですよ。それもお急ぎの件で』
「シズク!? えっ!? それ本当なの!? どうしてそれを最初に言わないのよ!!」
その後、リーフィからチャットの送り主があのシズクからである事が分かり、私は急いでストレッチを止め、そのままスマホに送られてきたシズクからのチャットを見た。
「何々…… 先日の生配信の時の件で話したい事があるから、私の部屋に来て。だって」
『シズクの部屋にご招待されましたね』
「そうね。とりあえず行ってみましょ」
『せっかくだし、私もついて行きます』
シズクからメタバース内にある部屋に来て欲しいという内容が書かれていた為、私は急いでスマートグラスを装着し、チャットと一緒に送られてきたリンク先にアクセスし、メタバース内にあるシズクの部屋に向かった。
そんな私と一緒に、リーフィも一緒にメタバース内にあるシズクの部屋へと向かった。
そして、メタバース内にあるシズクの部屋にアクセスしてみると、そこには生配信でもよく見かけるゲーミングチェアに座ったシズクの姿があった。
「やぁ、スピアーズのお友達のお2人さん、よく来てくれたね」
「シッ、シズクさんこそ、こんな一般人の私達なんて呼んで、だっ、大丈夫なのですか?」
今話題のバーチャル型アイドル系UTuberである本物のシズクを目の前で見た私は、凄く緊張をしながらゲーミングチェアに座っているシズクに話しかけた。
「今日は生配信も休みだから、大丈夫だよ」
「そっ、そうなのですか…… それにしても、本当に私なんかが、こんな場所に来ちゃっても良かったのでしょうか?」
「私が呼んだのだから、気にせずリラックスしてくれたらいいよ」
「シズクもそう言っている事だし、ユアもリラックスをするのです」
「簡単には出来ないよ……」
シズクだけでなく、リーフィからも緊張をせずにリラックスをする様にと言われたものの、どうしても本物のシズクを前に私の緊張は簡単には解く事が出来なかった。
それもそのはず、以前に火花さん達スピアーズのメンバー達と一緒に来た事がある場所とはいえ、今回は私とリーフィだけ。更に、この部屋はシズクが普段から生配信を行う時に使っている部屋であり、言い方を変えれば、一視聴者の私から見れば完全にアニメの世界の様な場所であり、普通は見るだけで終わり一生入る事のない場所でもある為である。
そんな普通の視聴者なら一生入る事のない場所に特別に呼ばれた私は、緊張をしながらもリーフィと一緒にシズクが用意したイスに座り、本題の話を始める事にした。
「フォレ猫さんだったかな? 単刀直入に聞くけど、先日の生配信の件、あれってもしかしてスピアーズの事だったりする?」
「えっ!? どうして、分かったのですか!?」
先日の生配信のスパチャ付きの相談メッセージの件がスピアーズの事について言っていたのがあっさりとシズクにバレてしまった為、私はキョトンとした顔で驚いた。
「いやっ、メッセージを読んでいて何となく遠回しでスピアーズの事を言っているんだなって思っただけよ」
「あの遠回しの文でも、分かる人には分かってしまうんですね……」
「まぁ、スピアーズのソラちゃんが草プロに入るかも知れないっていう、世間ではまだ未発表の話を一緒に聞いてしまった以上、心配してしまうのも無理はないと思うよ」
どんなに遠回しに書いていても、分かる人には分かってしまうんだな……
「ところでフォレ猫さん、スピアーズだけでなく、ソラちゃんにはどうして欲しいと思っているの?」
「どうして欲しいと言うのは?」
「そのまんまの意味」
「そのまんまの意味ねぇ…… 私はスピアーズの事を知ったのは、スピアーズの皆さんが住んでいる町に来た今年の夏からであって、直接ファンになったのはまだまだ新しいですけど、この先も今までと変わらない皆さんでいて欲しいと思うぐらいかな?」
「なるほどね…… そう言えばフェレ猫さんって、確かスピアーズのメンバー達が住んでいる町に夏休み中滞在していて、常にスピアーズのメンバー達と出会う事が出来るからこそ、普通のファンとは異なる感覚も出てしまうんだろね」
確かにシズクの言う通り、この夏休み中ほぼ毎日スピアーズのメンバー達と友達として出会っていると、普通のファン以上の事は考えてしまうのかも?
「でも、スピアーズだってずっと今のままいるって事はないと思うし、いずれは色々と変わっていく事だってあるよ」
「それは…… 十分に分かっています」
「とは言うものの、確かにファンだったらメンバーの脱退に反対をしたくなる気持ちだって分からくもないと思うよ」
「そうですよ!! やっぱり、スピアーズはあの4人がいてこそのスピアーズなんですよ!! 1人でも欠ける事なんて絶対に嫌です!!」
私はつい、シズクを前にしてここ数日の思っていた本音を言ってしまった。
「やっぱりそうだよね…… フォレ猫さんはきっとそう言うだろうと思っていたよ」
「えっ?」
「先日の生配信の時のメッセージを読んだ後から思っていたけど、フォレ猫さんはずっとスピアーズ、そしてソラちゃんの事を気にしていたんだよね」
「まだ未発表の情報をあんな形で突然急に言われると、ファンなら誰だって気にしますよ」
「あの件に関しては、つい口が滑って言ってしまった私が悪いわけだし、力になれる事があるのなら、私がフォレ猫さんの味方になって協力をしてあげるよ!!」
「協力って、何をですか?」
「だから…… 私が直接ソラちゃんから真相を聞き出してあげるって訳さ」
「えっ、えぇぇぇぇっ!?」
突然のシズクの発言に、私は驚きを隠せなかった。
まさかのシズクが虹川さんから草プロ行きについてどう思っているのかを直接聞き出すと言い出したからである。
「まぁ、ファンの前で口が滑って言ってしまった事へのケジメとしての協力だよ」
「よかったですね。ユア!! シズクがユアの考えに納得をして、ソラが草プロ行きについてどう思っているのか直接聞いてくれるみたいですよ」
シズクの行動に対し、隣で聞いていたリーフィは凄く嬉しそうにしていた。
「ほほっ、本当にそんな事が出来るのですか!!」
「出来るも何も、ソラちゃんから直接。草プロに行きたいのか、それとも今まで通りスピアーズのメンバー達と一緒に居たいのか、白黒はっきりと言ってもらうだけだよ」
「なるほど!! って、でも、どうやってそれを言ってもらうのでしょうか?」
「それは…… 次の生配信のコラボでゲームでもやりながら聞く事にするよ」
「そんなやり方で大丈夫なのでしょうか?」
シズクは自身満々に言っているが、本当に上手く行くのかしら?
私はシズクの案が上手く行くのか少し心配であった。
「大丈夫!! スピアーズのリーダーであるハルちゃんと、ちょっとゲーム対決でもやりながらソラちゃんの草プロ行きについてどう思っているのか聞き出すだけだから。ちょうど今の時期だと、スピアーズとのコラボをやれば、絶対に盛り上がると思うし、お互いの利害が一致してウィンウィンだよ」
「確かにそうですけど…… 虹川さんが草プロ入りをやろうとしている話って、世間ではまだ発表されていない話なんでしょ? それを生配信中の多くの人が観ている中で言っても大丈夫なの?」
「そこに関しては、視聴者にはバレない様に上手くやるから心配しなくても大丈夫だよ」
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だって。チャンネル数100万超えの私のトークスキルの凄さを信じなさい!!」
シズクはまだ未発表の情報を視聴者達にバレずに上手くやるとか自信満々に行っているけど、本当に上手く行くのか、私はほんの少し心配であった。
「ユア、ここはシズクを信じましょ!! シズクなら絶対に大丈夫です」
「リーフィのこの自信、どこから出て来るのか分からないけど、とりあえずリーフィの言う通り、ここはシズクを信じてみようかしら?」
リーフィの自信はどこから出て来るのかは分からないが、リーフィはシズクが上手く行くと信じていた。その為、とりあえず私もリーフィと同様にシズクを信じてみる事にした。
その後、シズクはスピアーズとのコラボの許可を事務所側に承諾を得る為に、モニター画面を表示させ、草プロのマネージャーらしき人と、その場でビデオ通話を始めた。
そして、しばらく草プロのマネージャーらしき人と話をした後、シズクは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう!! やっぱり頼りになるね」
そして、草プロのマネージャーとの通話を終えたシズクは、先程まで空間に表示させていたモニター画面を消した。
「見事に事務所側の許可が取れたよ!!」
「凄いです!!」
モニター画面を消した後、シズクが親指を上に向けた状態で嬉しそうな表情で私達の方を見ると、その様子を見たリーフィも嬉しそうに喜んだ。
「こんな感じで許可とか取っていたのですね……」
「いわゆる、これが裏側ってヤツね」
バーチャル型アイドル系UTuberの事務所事情は全く知らないものの、あっさりと許可が取れた事に対し、私はポカンとした表情で驚くだけだった。
「でも、草プロ側の許可が取れたけど、スピアーズ側からの許可ってそう簡単に取れるのでしょうか? 向こうも今の時期は忙しいと思いますし」
「そこに関しても、心配をしなくても大丈夫!! スピアーズ側だと、草プロ以上に簡単に許可が取れると思うよ……」
そう自身気に言った後、シズクはモニター画面を再び表示させた後、今度はビデオ通話ではなくスピアーズ側の誰かに一通のメッセージを送った。
そして、しばらく待った後、スピアーズ側からのメッセージが返信され、無事にスピアーズとのコラボの許可も上手く取る事に成功し、シズクとスピアーズのコラボ生配信は無事に行われる事が決定した。
「これで、スピアーズとのコラボ生配信は決定したけど、私が出来るのはあくまでもソラちゃんが草プロ行きに関してどう考えているを聞き出す事までだからね。もし、ソラちゃんが本気で草プロに入りたいと思っていたのなら、その時は1人のファンとして、ソラちゃんの草プロ行きを応援してあげてね」
「分かったわ。ホント、私のワガママに付き合ってくれてありがとうございます」
「よかったですね、ユア!! やっぱりシズクは頼りになります」
「いいって別に。私としてもちょうどライブ前のこの時期にあのスピアーズとのコラボをやれば、より多くの話題を獲得出来るし、お互いウィンウィンならそれでよしって事だよ」
確かにシズクの言う通り、もし本当に虹川さんが草プロに行きたいと考えているのなら、その時は凄く否定したくなるかも知れないが、1人のスピアーズのファンとして虹川さんの今後を考え、草プロ行きを受け入れないといけないと思った。
そして、シズクの急な思い付きから、虹川さんが草プロ行きに関してどう思っているかを聞き出す為のスピアーズとの生配信コラボが決定したワケだが、果たして、虹川さんは草プロ行きに関してどう思っているのか? 今はその事ばかりが気になっていた。
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