大スターと出会う!!

第22話 これも何かの縁です

 私、森崎由亜はこの日、小型ドローンで動くリーフィと一緒に、普段いる町の奥側の山の中にある弾薬庫跡を見に来ていた。


 先日、水島さんと話をしていた時に離島以外にもオススメの弾薬庫跡がある事を聞き、離島から帰宅後、私はリーフィと一緒にその弾薬庫跡を見に行く事にした。


 私達が見に行っている弾薬庫跡は、町外れの県境近くの山の上にある為、普通に歩いて行くと凄く大変だが、幸い、この弾薬庫跡のある山の頂上にはホテルがあり、また同時にこの町を走っている自動運転バスがこのホテル前にも停車する為、その自動運転バスに乗る事で簡単に行く事が出来る場所である。


 そんな山の中にある弾薬庫跡は、山頂にあるホテルから少し坂を下った場所にあるハイキングコースを進んだ先にある。


 そんな場所にある弾薬庫跡を、私はリーフィと一緒に見ていた。


「確かに水島さんの言う通り、ここの弾薬庫跡もあの離島に負けないぐらい見所があるけど…… この場所って、なんだか薄暗くて凄く不気味に感じてしまう場所ね」


 現在、私達が見物している弾薬庫跡は、周囲に生い茂る木々が影を作っているせいもあり、弾薬庫跡のある周囲は、離島にある弾薬庫跡と比べると、凄く不気味な場所に思ってしまった。


 おまけに、弾薬庫跡は溝の下にある為、その周囲の小道は雨水が溜まった状態でジメジメしていた場所であった。





 そんな少し不気味に感じてしまう場所にある弾薬庫跡を一通り見終えた後、私とリーフィは山頂のホテルの隣にある、町を一望する事が出来る丘に行った。


「うわぁ、ここからだと、町が一望出来るよ!!」


『先日、みんなで訪れた離島も見えますね』


 丘の上からは、普段私達が住んでいる町や海水浴場だけでなく、少し離れた場所にある離島も一望する事が出来た。


『そう言えば、今私達がいる場所の下にトンネルを掘って、向こうに見える少し大きな島と繋げて新幹線を通すとかいう話が昔はあったみたいですよ』


「へぇ~ そんな話があったのね」


『結局は集客力や予算、その他諸々の都合上から、新幹線に関してはほぼ実現しない可能性が高くなりましたけど』


「それは残念ね。でも、この町にも新幹線が開通したら、東京から訪れるだけじゃなくて、向こうの四国にもアクセスが便利になって、街も活性化するかもね」


『そうですね。新幹線は無理でも、一般道路としての橋かトンネルに関しては、早川さん達は諦めていないみたいですから、実現するといいですね。夢物語ですけど』


 先日訪れた離島の更に向こう側にも大きな島も見る事が出来、私とリーフィはそんな島々を見ながら話をしていた。


 確かに橋かトンネルが出来れば遠くの島へのアクセスは凄く便利になると思うけど、現状はリーフィの言う通り、実現する可能性は非常に低いと思う。


 最も、これからの時代は空飛ぶ車が台頭してくる時代になるらしく、今後は先日訪れた離島だけでなく、この周辺の町や近くの空港等にも船だけでなく空飛ぶ車でもアクセスが出来るようにしたい事を、早川さんや私のお母さんがまるで夢物語を語る様に話していたのを思い出したからである。


 そんな案が出て来るのも、向こうの島まで繋がると言われている橋かトンネルが作られない可能性が高いからなのではと、私は思ってしまった。





 そんな感じで、私とリーフィが話をしながら目の前に見えている離島を眺めていた時、私はある事に気が付いた。


「あっ、雨沼さんだ……」


 私とリーフィの隣には、この町に来た時に初めて出会った雨沼月菜という人が景色を見ながら立っていた。


 そんな雨沼さんは、この日はフードではなく帽子を被った状態であった。


 雨沼さんは私がこの町に来て初めて出会った人だけあり、無性に色々と気になってしまう。先日の海水浴場に向かって1人で歩いていた事をはじめ、火花さん達とはどんな関係なのかも気になりながら、私は雨沼さんを眺めていた。


 すると突然、強風が吹くいた。


「キャアッ!!」


 その強風によって、雨沼さんが被っていた帽子が風によって飛ばされてしまった。


「あぁ、帽子が!!」


『待って下さい。私が取ってきます』


 雨沼さんが被っていた帽子が風で飛ばされた事に気が付いたリーフィは、すぐさま、風に乗って飛んでいく帽子の方に目掛けて飛んでいき、見事に帽子をドローンに乗せる形でキャッチをした。


『はい、帽子を取って来ましたよ』


「あぁ、ありがとう……」


 風で飛ばされた帽子を取って来たリーフィに対し、雨沼さんは軽くお礼を言った。


『いいえ。せっかくですし、そこのホテルに入って休憩ついでに少し一緒にお話をしませんか? 外は暑い事ですし』


「えっ!? リーフィ、いきなり何言ってるの!?」


 すると突然、リーフィが雨沼さんを誘い出した。


「一緒に話? 時間があるし、別にいいわよ」


 そんなリーフィの返事に対し、雨沼さんはすんなりとOKをした。


「えっ、いいの?」


『ユア、よかったですね。これも何かの縁です』


 私が雨沼さんの方を気にしながら見ていた事をリーフィが理解した上で誘ったのかどうか知らないが、とりあえずリーフィが雨沼さんを誘った事により、偶然にも私は雨沼さんと一緒に話をする機会を得た。


 こうして、私とリーフィは雨沼さんと一緒に話をする事になり、すぐ隣にあるホテルの中へと入った。





 そして、クーラーの効いた涼しいホテルの中へと入った私達は、ロビーに置いているソファーに座って話をする事にした。


 ソファーに座った私と雨沼さんはリーフィの姿を見る為、共にスマートグラスを装着した。


『じゃじゃ~ん!! これが私の姿です!!』


「へぇ~ これがリーフィさんの姿なのですね」


『えへへ、そうだよ』


「妖精の様な羽を装着していたりと、まるでファンタジーとSFが混ざった様な格好ね」


 スマートグラスを装着した雨沼さんは、ドローンから映し出されるリーフィの姿を興味津々に見ていた。


『そう思うでしょう。この羽はゲームの景品でソラが選んでくれたのですよ』


「ソラ、あぁ、虹川空の事ね」


『そうです!! スピアーズのメンバーとして活躍をしているソラです!!』


 先日のARゲーム内で虹川さんから選んで貰った妖精の羽の装飾品を、リーフィは雨沼さんに自慢気になって話していた。


「そう言えば、先日私が海水浴場に向かって歩いていた時に、森崎さんがスピアーズのメンバーと楽しそうに駅に向かって歩いているのを見かけたけど、この町に来て友達が出来たという事ね」


「まぁ、友達が出来たというよりは、向こうから一方的に親しく話しかけて来たからこそ、すぐに仲良くなれたものだけどね……」


「そう。確かにあの火花さんなら、しつこく話しかけて来そうね」


「そう思うでしょう。そう言えば、雨沼さんは火花さんとは仲が良くないのですか?」


「私は特に仲良くはないかな? 最も、仲が良くないというよりも、あのハイテンションなノリにはどうしてもついて行けそうにないからね……」


「確かに、火花さんは元気が有り余っているぐらいですから。余程気合が入っていないと、こっちが疲れるぐらいですよ」


 確かに大人しそうな雨沼さんの場合、誰とでもフレンドリーになれそうな元気が有り余っている火花さんの勢いについて行くのは大変だと思う……


「そう言えば、今日は火花さん達とは一緒ではないの?」


「火花さん達なら、今日は空港での撮影があるって言って、SPレディオのメンバーと一緒に近くの空港に出かけているの」


「なるほど。それで今日は火花さん達と一緒にいないんだね」


 この日の火花さん達スピアーズのメンバーは、SPレディオの動画撮影として、この町の近くにある人口島の空港とその目の前にあるビーチの公園内で動画撮影を行っている。


 その為、今日は私とリーフィだけで、今いるホテルの近くにある弾薬庫跡を見に来ていたのであった。


「そうなのよ。最もここ最近私と一緒にいる時以外は、今月の後半に行われるイベントに向けての練習もあって忙しいみたいよ。先日も近くの離島で動画撮影を兼ねた合宿を行っていたぐらいだし」


「アイドル系UTuberと言っても、歌やダンスの練習だけではないから大変ね」


「確かにそうね。通常の動画撮影だけでも大変な中、ダンスや歌の練習も欠かさず行っていますからね」


 よく考えてみると雨沼さんの言う通り、アイドル系UTuberである火花さん達は歌やダンス以外にもSPレディオというチャンネルの動画の撮影もあるので、凄く忙しくて大変だと思う。


『これも全て、今月の後半にスピアーズワールドというメタバース内で開催されるライブイベントの為に頑張っているのですよ。それも、このライブイベントには、草プロの新人であるあのシズクさんがゲスト出演するんですよ!!』


「へぇ~ あのシズクがゲストでね…… これは確かに頑張らないといけないわね」


『だからこそ、スピアーズの皆さんは歌やダンスの練習を頑張っているのですよ』


 その後、リーフィは今月の後半に開催されるライブの事を雨沼さんに話し、スピアーズ達が歌やダンスの練習を頑張っている理由を説明した。





 その後も雨沼さんと話をした後、雨沼さんはポケットの中に入れていたスマホを取り出した。


「さっき、シズクの事で思い出した事があってね。せっかくの機会だし、これをプレゼントするわ」


 そう言うと、雨沼さんはスマホを操作し、スマートグラスを装着する事で確認が出来るQRコードを映し出した。


「これは?」


「これは、メタバース内で開催されるシズクのライブのチケットさ」


「えぇ!! あのシズクの!?」


 雨沼さんがスマートグラスに映し出したQRコードの正体を聞いてみると、まさかの今大人気のバーチャル型新人アイドル系UTuberであるシズクのライブチケットであった。


 チャンネル開設から約半年でチャンネル登録者数が100万人を超える今最も大人気なバーチャル型アイドル系UTuberだけあり、メタバース内とはいえチケットは簡単には入手する事が出来ない超レアものである。


 どうしてそんなチケットを雨沼さんが…… 私はただ、その事ばかりが気になってしまった。


「どうして、こんな凄いチケットを雨沼さんが持っているの!?」


「まぁ、親戚から貰ったチケットなんだけど、なぜか6枚もくれたのよね。ちょうど私は用事があって行けないから、風で飛ばされそうになった帽子を取ってくれたお礼にと思って、このチケットをプレゼントするわ」


「でっ、でも!! 帽子を取ったのはリーフィだし、お礼とはいえ、こんなチケットを受け取るのは悪い気がしてしまうわ」


 リーフィが風で飛ばされそうになった帽子を拾ったお礼とはいえ、今日親しくなったばかりの雨沼さんからシズクのライブチケットを貰うのは、どうも気が引けない。


『ユア、そんな事言わず、喜んでそのチケットを受け取りましょうよ!!』


「えっ!? リーフィ?」


 そんな戸惑う私の背中をひと押しするかの様に、リーフィが私にチケットを受け取るように言って来た。


「ほらっ、リーフィだってこう言っている事だし、これも何かの縁だと思って受け取るといいよ」


「そう…… それじゃあ、お言葉に甘えて、そのチケットを頂くわ」


 こうして、スマートグラスでQRコードを読み取り、私は雨沼さんからメタバース内で開催されるシズクのライブチケットを正式に受け取った。


「きっと楽しいライブのハズだから、火花さん達スピアーズのメンバーを誘って行くといいよ」


「そうね。ちょうどチケットが6枚もあるから、火花さん達を誘うわ」


「それが良いと思うよ。ライブはみんなで行った方が楽しめるからね。みんなでシズクの凄さを見てくるといいわ」


 こうして私は、雨沼さんから頂いたシズクのライブチケットはちょうど6枚あるという事で、私とリーフィ以外は火花さん達スピアーズのメンバーを誘って見に行く事にした。

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