ようこそスピアーズワールドへ
第9話 草プロ登場
スピアーズのメンバー達が動画内で作ったというツリーハウスで宿泊してから一夜が明けた今、私、森崎由亜は旅館内の自室で昨日と同じ様に早川さんにビデオ通話をかけた。
「あっ、早川さん、おはっ!! えっ!?」
ビデオ通話に繋がったのはいいものの、画面の向こうにいる早川さんの様子が少しどころか、異常なまでにおかしかった。それもそのはず、スマートグラスに映る早川さんは衣服を全く着ていない全裸であった為である。
「はっ、早川さん!! どうして裸なんですか!?」
ビデオ通話に繋がるなり、いきなり全裸姿で映った真相を驚きながら聞いてみた。
「あっ、森崎君か…… ちょうど昨晩、暑かったのでシャワーを浴びた後ずっと服を着ずに編集作業をやっていたっけな…… それで、そのまま寝落ちをしていたところ、電話がかかって来たので、今は裸のままなんだよ」
「そうだったのですね」
早川さんは私がかけた電話の着信音で目が覚めたようであり、画面に映る早川さんは寝起きの様に眠たそうな様子だった。
そんな画面の向こうにいる衣服を全く着ていない早川さんの身体を、恥ずかしそうに心臓をバクバクとさせながら見ていると、ある部分に異変を感じた。
「あの…… 早川さん、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ん~ 別にいいけど?」
「もしかして、早川さんって女性だったのですか?」
画面に映る早川さんの裸体を見ていると、胸の部分は小さいながらも多少のふくらみを感じ、何より股間の部分に男性なら必ず付いているアレが全く見当たらなかった。小さすぎるとかそんな問題ではない、初めから全くなかったという感じである。
「そうだけど? それがどうしたの?」
早川さんの言葉を聞いた後、私は再度、恥ずかしそうに心臓をバクバクとさせた。それと同時に、今まで早川さんを男性だと思い込んでいた自分自身を凄く恥ずかしく思ってしまった。
「ごっ、ごめんなさい!! 私、今まで早川さんの事を男性だと思っていました!!」
早川さんの事を女性ではなく男性だと思い込んでいた事実を、慌てながら謝った。
「そうだったの。そう言えば私の事を男と間違える人ってたまにいるんだよね。胸が小さ過ぎるとかって理由もあるけど、やっぱり私自身がイケメンだからそう思う人がいるのかもね。昔から同姓である女性から告白された事だって何度もあったぐらいだし」
「そうなんですか」
私の謝罪を聞いた早川さんは特に怒る様子もなく、笑いながら自分が男性とよく間違われる理由等を言った。
「土萌っ!! どうして裸なのよ!! それに誰と話をしているの!?」
「あっ、ごめんごめん。ちょうど今、森崎君と話をしていたところなんだよ」
「だからって!! 誰と話をするにしても、早く何かを着なさい!!」
突然、画面向こうから誰かの声がしたかと思うと、すぐにその声の主が映った。その声の主は、氷山菫という火花さんの友達の氷山さんの姉であった。
そんな突然画面に映りこんだ菫さんは、慌てた様子で早川さんの身体をバスタオルで隠した。
「森崎さん、ごめんね~ いきなり変なものを見せちゃって」
「いえ、特に気にしていないので大丈夫です」
その後、菫さんが申し訳ない様にお詫びをしていたので、私はお世辞をする様に返事を返した。
ビデオ通話で早川さんとリーフィの件について話をした後、午後になり私は早川さんの家へと行く事にした。
私が早川さんの家に向かっている理由は、菫さんからスピアーズの練習風景の見学をしてみないかと誘われた為である。その為、私は菫さんとの待ち合わせの為、早川さんの家に向かっていたのである。
そして、早川さんの家に待ち合わせよりも早く付いた私は、リーフィの件についても話をしておこうと思い、早川さんの実家で運営されている喫茶店"
「こんにちわ……」
私が挨拶をして喫茶店の中に入ると、店内では早川さんが一人しかいないにもかかわらず、目の前に誰かがいるかのように誰かと話をしている様な感じであった。
「早川さん、何しているの?」
「あぁ、早かったね。ちょうど今、草間さんと話をしていたところだよ」
「草間さんって?」
「気になるなら、スマートグラスをかけてみると良いよ」
早川さんに言われるがまま、私はスマートグラスを鞄から取り出して装着し、早川さんの話相手の正体を見てみる事にした。
スマートグラスを装着した後で店内を見渡すと、早川さんの目の前にはARで映し出された1人の女性の姿があった。
「早川さん、その人が草間さんですか?」
「そうだよ。ちょうど仕事の事で話をしていたところだよ」
「仕事の話をしていたの!?」
スマートグラスを装着した先にいる草間さんとは仕事の話をしていた為、そんな邪魔にならないようにする為、私は店内を出ようと思った。
「早川君、その子は?」
「彼女は森崎由亜と言って、あの森崎博士の娘なんです」
「森崎博士の娘か…… そう、初めまして。私は
「はっ、初めまして!! 私は森崎由亜です」
突然草間さんが私に挨拶をして来た為、私も挨拶を返した。なぜ草間さんは、私のお母さんの事を知っているのかな?
「お母さんの事を知っている様ですけど、草間さんって、何をされている方なのでしょうか?」
「私はあの草間プロダクションのプロデューサーよ」
「草間プロダクションって、えぇ!? あの草プロですか!?」
早川さんと話をしていた草間さんという人は、あの超有名な草プロのプロデューサーの人と知って、私は驚きを隠せなかった。草プロと言えば、今や知らない人がいないと言われているバーチャル型アイドル系UTuberの事務所であり、あのシズクも所属している超有名な事務所である。
「そうよ。他に何があるというの」
「そっ、そんな人が、どうして早川さんと話なんてしているのですか!? それに、どうして私のお母さんの事まで知っているのですか!?」
とにかく目の前の状況に、私はただ驚くばかりでしかなかった。
「それはだね、草間さんとお知り合いになるきっかけになったのは、スピアーズのマネージャーを務めている菫のお陰なんだよ」
「そうなんですか!!」
「菫のお陰もあって、草間さんと知り合う事が出来て、その時に私のチャンネルやそこに出てくるスピアーズ達の事を話すと、草間さんが私のチャンネルに興味を持ってくれたんだよ」
「そうなんですか。それにしても凄すぎです!!」
驚いていた私に早川さんが草間さんと知り合った理由を言ってくれたが、理由を聞いて更に驚いた。
「そんな事もあって、私のチャンネルの主な活動やその目的等を話した時に、同時に森崎博士の事も話したんだよ」
「なるほど。それで草間さんは私のお母さんの事を知っていたのですね」
大体の予想は付いていたものの、あの草間さんがお母さんの事を知っていた理由を知って納得をした。
「それよりも、さっき仕事の話をしていたと言っていましたけど、一体どんな話をしていたのですか?」
「それはだね。8月末に行われるSPフェスティバルについて話をしていたんだよ」
「その祭りに、まさか草プロの誰かが参加するとかですか?」
「そうだね。今回のSPフェスティバルには、つい先日チャンネル登録者数が100万人を突破したシズクさんがスペシャルゲストで来てくれるんだよ」
「あのシズクちゃんが!?」
その言葉を聞いた私は、また驚いた。今日は何回驚くのか、私自身にも分からないくらいに驚いている。
「そうだよ。あの今話題のシズクちゃんがね。来月のSPフェスティバルでスピアーズ達と共演をやるから楽しみにしておいて」
「シズクちゃんと共演をやるなんて、火花さん達は凄すぎます」
まさか、早川さんがあの超有名な草プロのプロデューサーの人とお知り合いだった事を。更に8月末にはあの草プロ所属の新人バーチャル型アイドル系UTuberのシズクちゃんがゲストで来る事を。UTubeというネットの力とはいえ、小さな町での活動にしては何もかもスケールが凄すぎる!!
「そう言えばUTubeだけでなく、メタバース内でもシズクちゃんや他の草プロ所属のバーチャル型アイドル系UTuberの広告をたくさん見かけますけど、草プロさんは広告にも凄く力を入れらているのですね」
「そりゃあ、より多くの客層を獲得する為には、広告というマーケティングにも力を入れていかないと上は目指せないからね。そんな広告に力を入れて来たからこそ、今や草プロは日本一のUTuber事務所になる事が出来たのよ。お金をたくさん使っての宣伝は小さな個人勢では凄く難しいけども、大きな企業勢なら全然不可能な事ではないのよ」
「なるほど。会社単位でやるUTubeって、凄くお金を使うのですね」
流石は日本一のバーチャル型アイドル系UTuber事務所と言われるだけの事はあり、広告にもたくさんのお金をかけているという事を私は草プロのプロデューサーの草間さんから直接聞く事が出来た。
「広告にも力を入れるなんて、流石は草プロさん。大企業はやる事が違いますよ」
「そりゃあ、草プロは今や日本一のUTuber事務所ですから、それぐらい出来て当たり前よ。個人勢とは財力やマーケティング力が全然違いますからね」
「そっ、そうですよね。大企業には敵わないですよ」
「でも、そんな個人勢の中でも、土萌さんは凄く頑張っている方だと私が見る限りでは思いますわ」
「あっ、ありがとうございます……」
早川さんと草間さんの会話を聞いていると、同じUTubeに動画を上げている者同士でも個人勢と企業勢との力の大きな差を感じてしまう。
「次の予定の時間になりそうだから、そろそろ電話を切るわね」
「そうですか。お忙しい中、時間を頂きありがとうございます」
草プロのプロデューサーを務めている為に多忙なのか、草間さんがそろそろ通話を終わらそうとし始めた。
「最後に、虹川さんはどうかしら?」
「彼女も、彼女なりに真剣に考えている様です」
「そう。嬉しい返事に期待しているわ。じゃあね」
電話を切る直前、草間さんは早川さんに虹川さんの事を軽く聞いた後、通話を切ったのか、スマートグラス内に先程までARとして映っていた草間さんの姿は一瞬にして消えた。
電話が切れる直前、草間さんが早川さんに虹川さんの事を聞いていたけど、この時の私は特に気にも留めなかった。
その後、草間さんがいなくなった後、配膳ロボットが奥の厨房から姿を見せ、その上には一杯のオレンジジュースが乗っていた。
「菫が来るまでもう少し時間があるはずだから、ジュースでも飲んで待っていると良いよ。これは私からの奢り」
「あっ、ありがとうございます」
テーブル席に座った私は、早川さんから奢りと言って差し出されたジュースを飲みながら、菫さんが来るのを待つ事にした。
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