第7話




こちらは鈴鳴奈とスーザン。二人は細い小道から少し大きめな道に飛び出した。

「はぁ……っ、はぁ……っ、ここまでくればもう大丈夫ね」

鈴鳴奈は膝に両手をつき、辺りを見回した。少し田舎の町並みにはちらほらと通行人がいる。

「鈴鳴奈……、はぁ……っ、ちょっと……はぁ……、走るの……、はぁ……、速すぎ……っ」

遅れて飛び出したスーザンに、鈴鳴奈は少し冷めた目を向ける。彼は大丈夫なのか?と思うほどぜぇはぁうるさい呼吸をしていた。

「スーザン……あなた体力ないのね。とりあえず隣町まで来ちゃったみたいだから……その辺の人にここが何処か聞きましょう」

「そうだね……はぁ……っ」

すでに呼吸を整え終わった鈴鳴奈に対し、スーザンは未だにぜぇぜぇ言っていた。

「あっ、あの人に聞きましょう!すいませ~ん!」

鈴鳴奈は人の良さそうな通行人を見つけると、そちらに駆けていった。スーザンは変態かと言いたくなるほどハァハァ呼吸をしながらそれについて行く。

鈴鳴奈達が駆け寄ってくることに気が付いた通行人は、彼女の呼びかけに「はい?」とそちらを向いた。

「すいません、私達旅の者なのですが……。ここは一体どこでしょうか?何分無計画に歩いているものですから……」

通行人は二人の汚れた格好を見て半歩退いたが、それでも親切に教えてくれた。

「ここは滋賀県の野洲市ですよ。メルキオール研究所ってちょっと目立つ研究所があって、そのせいでメルキオール街って呼ばれてる」

「そ、そんな!」

「バナナっ!?」

驚く二人に通行人は困ったような顔をする。

「えっと……どうかしたかな。なんだったら近くの交番まで案内するけど……」

「あっ、いえ、すいません。何でもないんですっ。ありがとうございましたっ」

「センキューベリーマッチ」

鈴鳴奈は慌てて礼を言うと、ペコリと頭を下げて、決めポーズをとるスーザンを引っ張って通行人から離れた。

通行人は不思議そうな顔をしていたが、関り合いにならないに越したことはないと、さっさと去って行った。鈴鳴奈はその背中を見送り、スーザンに尋ねる。

「どういうことかしら……?野洲市なんて」

「そうだなぁ……。瞬間移動でもしたのかな?」

「あんなちょっと走ったくらいで白子市から野洲市に来るなんて……絶対におかしいわ。有り得ないことよ」

鈴鳴奈の「ちょっと走った」という言葉に、スーザンは身震いをした。もやし男のスーザンからしたら、あの距離の全力疾走は「ちょっと」ではない。何せ彼が本気の喧嘩をしたらその辺の女子の方が強いくらいなのだから。

「瞬間移動したにせよしなかったにせよ、一気に野洲市に来れたのはラッキーね。これでもう母様は追い付いてこれないわ」

どうやら鈴鳴奈はこの短時間での大移動について考え込むことを止めたらしい。考えても納得できる答えが出ないのなら意味はないと思ったのだ。それよりもこの奇跡をただ受け入れたい。

「そうだな。……これからどうするんだ?僕達」

「その辺の式場で式を挙げましょう。もうこの際籍を入れるだけでもいいわ。籍さえ入れてしまったら母様は何も言えないんだもの」

と鈴鳴奈は言うが、日本の法律では未成年の結婚には親の同意が必要である。そんなことは何も知らない彼らはこの後役所で追い返されるハメになる。

「とりあえず何か食べない?お腹が空きすぎて死にそうだよ」

「そうね。とりあえずどこかホテルに泊まりましょう」

「うん、それがいい。このウルトラ美少年の僕を早く風呂に入れないと」

鈴鳴奈はスーザンの提案を受け入れたが、彼のナルシズムはスルーした。彼らは宿を探すことにする。 

「じゃあ、とりあえず歩きましょうか」

「そうだね」

鈴鳴奈の左手がスーザンの右手にそっと触れた。二人は手をつなぎ、見知らぬ街を歩いて行った。




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