第3話




岐阜県西岐阜駅。準備を万端整えた鈴嗚奈とスーザンはホームに立っていた。

「電車が来たようね」

「切符は一応千四百九十円分買ったけど……一体どこまで乗るんだい?」

「行けるとこまでよ。つべこべ言わずに黙ってついて来なさい!」

「……はい」

二人は目の前に停車した電車に乗り込んだ。当たり障りのない席に座る。車内はどちらかというと空いていて、席は自由に選ぶことができた。

「帽子を深く被って……顔を見られないように。そのハゲ隠しの帽子を目のところまで被れって言ってんのよっ」

鈴嗚奈はスーザンのニット帽をわし掴むと、勢いよく引き下げた。スーザンのニット帽は驚きの伸びを見せ、彼は顎まで毛糸に包まれた。

スーザンが黙ってニット帽を直す横で、鈴嗚奈は自らの黒い帽子の鍔を気にしていた。しきりに鍔を摘まんでいるが、スーザンには先程までと何の違いがあるのかわからなかった。しかし、鈴嗚奈に怒られるのは嫌なのでそれを口には出さない。

鈴嗚奈は黒い女優帽をかぶり、サングラスとマスクを付けている。さらに裾の長い黒のトレンチコートは、主張しすぎる程に衿を立てていた。

「鈴嗚奈、その格好逆に目立つんじゃないかな」

「うるさいわね。私の趣味に口出さないでよ」

「あ、趣味でらっしゃいましたか。これは失礼しました」

怒鳴られまいとするが結局怒鳴られてしまうスーザン。怒鳴られたくないなら何も言わなければいいと皆は言うだろうが、喋らなければ喋らないで「なに黙ってるのよ」と怒鳴られるのだ。

鈴嗚奈とスーザンは電車に揺られ続けた。途中で鈴嗚奈が眠ってしまったが、スーザンが油断なく辺りを警戒していた。鈴嗚奈は知らないが、彼女は大口を開けて涎を垂らしながら寝ていた。

鈴嗚奈とスーザンは適当な駅で降りた。こぢんまりとした駅で、看板には【白子駅】と書かれていた。

「何もないとこね」

「滋賀県だからね」

スーザンが思いきり滋賀を馬鹿にした発言をする。彼は生まれも育ちも岐阜県だ。彼はこの世で岐阜が一番だと思っていた。

二人はあてもなくぶらぶらと歩いた。やがて開けた場所に出た。

「ここに家を建てましょう」

「ええ!?ここに!?」

唐突すぎる鈴嗚奈の発言に、思わずスーザンの口からマスオさん並の「ええ!?」が飛び出した。鈴嗚奈の突拍子もない発言はいつものことだが、今日の言葉はいつにも増して突拍子がなかった。

「誰もいなくてちょうどいいわ。やりたい放題ね」

「お好きなように……」

鈴嗚奈の言う通り、この辺りはまだまだ開拓が進んでいないようだ。田園が広がり木造の建物も多い。更に、この場所のように何もなくぽっかりと空いている土地もあちこちに見られた。

「さっそく大工を呼びましょう」

鈴嗚奈はコートのポケットからケータイを取り出した。が、その時彼女は何かを感じ取る。

「誰っ!?」

鋭い声と共に鈴嗚奈が振り返る。スーザンもそれに釣られて振り向いた。先に声を発したのはスーザンだった。

「あ、あれは……」

信じられないという表情で言葉を詰まらせるスーザン。しかし鈴嗚奈は背後にいるのが誰かを感じ取っていた。

「母様……!」

開いた扇子を口元にあて、喜多埜香苗は不敵に微笑んだ。

「フフフ……貴様等の行動、全て見させてもらったぞ。何やら面白いことをしているようだな。だが……妾から逃げられると思うな!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る