短編小説 ラッキーだね
覚えやすい名前
自己満足のお話その1!!
パソコンを打つ手を止める
「ふぃーーー」
大きく伸びをして中古屋で買って5年愛用するボロのパソコンチェアに倒れ込む
昨今の自粛の流れで自宅勤務となり今の今まで企画書の作成に時間を割いていた
私には仕事、というか学生時代から一貫して持論を一つ持っていた
これは学生時代のことだ
「えーだから国会における会議ではヤジが採用されていてこれは要するに茶の間の客を愉快にさせるためのくだらない行為でー、、、」
時刻は12時ちょっと過ぎどこの高校でも大概そうだと思うが四時間目だ
朝は買い置きしてたメロンパンを一つ頬張ってきたのだが、どうしたものかお腹が空いていた。一説によると空腹と集中力にはなんの関係もないらしいが、これまたどうしたものか集中力はひとかけらも残っていなかった
先ほどからの社会科の木本の声も右耳から左耳へと抜け出し今は宙を舞っている。優雅だ
木本はよくわからない文字を必死に黒板に書いている。40代の地味にシワが入って年季の入った指先でチョークをつまみ日本語と言われれば日本語に見えそうな文字を羅列していった
面白くもなんともない授業はほっぽりだしていつものように人間観察を始める。右を見渡せば真剣な眼差しでノートに文字を刻み込んでいる紳士もいれば、ノートを枕にして静かに寝息を立てている愛らしい淑女がいる、左を見渡せば頬杖を付いて眠そうに外を眺める主人公席の彼と仲睦まじく談笑にふけっている運動部の彼らがいる
「城ヶ崎、聞いてるか?」
いきなり名前を呼ばれる
「ふぇ?」
我ながら情けない声が出てしまった。周りからはクスクスと笑い声が聞こえる
「聞いてなかったのか?もう一度言うぞ、内閣総理大臣はどこから選ばれる?」
顔から火が出そうなところを必死に抑えながら口を動かしのどから声を出す
「国会議員からです」
「正解、いくら学年一位でも授業はちゃんと聞けよ」
木本はそう言うとまた黒板と教科書を交互に見ながら板書を始める
私としたことがこの席は先生に当てられやすいと言うことをすっかり忘れていた
昨日の席替えで見事いわゆる外れ席と呼ばれる前から2番目の教卓の前を引いた。
私は形だけでも次の席替えまでちゃんと授業を受けようと決意したのだが、私の優秀な脳を持ってしても忘れてしまうほど、どうでも良いことだったらしい
そこからはボーっと時計と睨めっこして時間が過ぎるのを待った
「じゃあ今日はここまで」
木本が荷物を持って教室を後にするそれを特に意味のない嫌悪の念を送りながら見送り
カバンから弁当を取り出す
「さーきちゃん一緒に食べよ」
私の肩を叩いたのは美波、小学校からの仲でほとんど腐れ縁でここまできている
美波は前の席をひっくり返し私の席にくっつける
「席離れちゃったねー、後ろ向いてもさきちゃんいないから退屈だよぉ。あ、でもさっきの驚いた時の声は可愛かったね」
「次その話したら東京湾と仲良くすることになるぞ」
「実質殺害予告じゃん!!」
けらけら笑いながら美波は弁当を開けるそれにならって私も弁当を開ける
いつも通り母さんが作ってくれた弁当だ
「そろそろ自分で作ってみない?」
美波は自分で弁当を作っている
「つくんない、料理はしなくても生きていける」
いつも通りのやりとりだ
周りに第三者がいたら「飽きないのか?」と聞いてくるほどこの会話を続けている
ちなみにその答えは「飽きた」
「いやーそれにしても夏休み終わって辛いねー、昼夜逆転が治らないや」
「美波はいつも逆転してんじゃんさっきだって授業中寝てたし」
「いや、国語なんて聞いてもわかんないってつまんないしそれだったら夜に備えて寝てたほうがマシだよー」
何言ってんだか
美波は生粋のネトゲ廃人だった不健康な生活してる割に出てるとこは出ていて顔は美形な方初対面の人にモデルだといえば10人中7人くらいは騙される。と思う知らんけど
「あーあ夏休み後2ヶ月増えないかなー」
美波が口をこぼしながら卵焼きをかじる、そこでふと疑問に思ったことを聞いてみる
「なあ美波、あんた夏休み中出かける用事みたいなものあった?朝から夜までみたいな」
「うーんまあ何日かあったねー。お盆なんかは行きたくないのにお墓参り連れて行かされて
その後山奥のおばあちゃん家連れてかれてさー、あそこ電波つながんないから辛かったー」
「ふむじゃあ美波は学校ってどんなとこだと思ってる?」
「なんか今日のさきちゃん脈絡ないね!?うーん学校かー嫌いな場所かな、まあでも期待してる答えはこれじゃないだろうし。そーだなー義務教育で通ってる所かな行かなきゃいけないとか生活の一部というかまあそういう感じだね、あ、もしかしていつもの哲学コーナーなの?うわー騙されたー」
うまく乗ってくれるから美波と話すのは楽しい
「そうだ、だがどちらかというと哲学じゃなくて持論だそれに今日はできるだけ短くまとめるよ。私が思うに学生や社会人も例外ではないが前提として家で過ごす時間と学校で過ごす時間を個々として考える人が多いと思う」
「は、はあ、よくわかんないけど」
「例えるなら1日という長方形の箱があって学校という長方形の積み木と家という長方形積み木の両方をぴったり1日の箱に入れているという考え方だ」
「ふーん、わかんないけどまーいーや続けて」
「この考え方も間違えじゃないんだがこれは少し問題があるそれは家にいる時間を自由時間だと考えてしまうことだ。学校にいる時間を丸々拘束時間だと考えてしまうと気持ちに余裕が持てなくなり家に帰ると疲れてしまうこれは由々しき問題だ。そこで私はレイヤーという考え方をお薦めしたい」
「なんか通販みたいだね、胡散臭いねどっかのネット記事でも読んだの?」
「この考えの名前は今勝手に名付けた名前だから調べても出てこないぞというか最初に持論だって言っただろ?」
「ふーん」
「んでこのレイヤーの考えはすべての学校においても会社においても家の時間と個別に考えるのではなく自分の用事として考える方法だ」
「んーー?どゆこと」
「これも例え話にすると家っていうマスキングテープを1日分机に貼って」
私はカバンから取り出した黄色のマスキングテープを机に貼った
「次に学校っていうマスキングテープを貼る」
青色のマスキングテープを黄色のマスキングテープの半分の長さで切り上に重ねてはる
「この黄色の部分が家の時間そして重なって緑になってる部分が家の時間であると同時に学校の時間だ。」
「ごめん、それはわかんない」
「そうだなー要するに学校は用事があって外出していると考えるんだ、最初の方で夏休み中の用事を聞いただろ、そこで美波はやりたくないことをやって電波の届かない所に行った
これって学校にいるときとなんら変わりないんだよ」
「あ、確かに」
「まあこれを聞いてどうってわけじゃないいんだがそういう考え方もあるよねって感じで受け取ってくれたら嬉しいなって」
「うむ、お疲れ今日の講義もそこそこ長かったねー最初に短くするとか言ってたのに」
「今日はいつもより短くしたつもりなんだけどな」
考えてみたらそんな事ない気がしてきた、まあいいか
そんな他愛もない話を私たち二人は毎日続けていたきっとこれからも続けるだろう
こんな日々がいつまで続くか分からない私が社会に出たときこの考えは通用するのだろうか
◇
時計を見ると午後5時パソコンのメール欄に定時上がりを宣言するメールを打ち込み
今日の仕事は終わり、結論から言うと子供の頃から持っている持論は今なんの役にも立っていないまあそんなもんだろうとは思っていた時々ふっと思い出し何も知らなかった昔の自分を思い出すくらいの役にしか立っていない
携帯を見ると友人からメールが入っていた
「今からひと狩りいこーぜ」
相変わらず廃人は廃人だ人は簡単には変われない
子供の頃の考えなんか一円の徳にもならない。でも子供の頃からの友人はとても大切だ
私の変な話に付き合ってくれたべっぴんさんは今でもネット廃人で顔を合わせると不健康そうな猫背に真っ白い肌、おまけに出るところは本当によく出る身なりで会いにくるそんなやつだ
「いいよ」
そう返事をして私は美波に電話をかけた
短編小説 ラッキーだね 覚えやすい名前 @daigodaisuki007
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